無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第三章「ロスト・ハイウェイ」

妄想:西田三郎

■2005/02/02 (水) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 15

「アフターダーク」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 これをお読みいただいている皆さんには、ナナ子さんの味わった恐怖・屈辱感が想像できるでしょうか?…多分、出来ないと思います。わたしだって、できません。できる、と言い切るなら…そういうあなたもわたしも、立派な偽善者でしょう。
 
 ナナ子さんは大変恐ろしい思いをしたのですが、それは援助交際という、社会良識の観点から見たところ、容認しにくいナナ子さんの主体的行動の結果のひとつであります。
 
 村上春樹先生の最新刊アフターダーク(講談社刊)には、中国人少女娼婦と売春契約を結んでおきながら、コトが終わると娼婦をボコボコに殴打し、その所持金と衣服と携帯電話を強奪してホテルに置き去りにする、鬼畜サラリーマンが登場します。
 被害者が手を染めていた反社会行為の結果、被害者がもっとタチの悪い犯罪者の食い物になってしまうのは、実によくある構図です。被害者は反社会行為の行使者だった訳なので、こうした犯罪行為の被害者になった場合、その被害を届け出るべきところ…つまり法執行機関であるところの警察に届け出ることが困難になることがふつうです。
 『アフターダーク』でイバキ回された中国人娼婦のバックには気合いの入った中国人犯罪組織がついていて、件の鬼畜サラリーマンを追跡しはじめます(「あんたら、またそいつの耳を切るのかい?」「命はひとつだが、耳はふたつある」なんていう超さぶいぼが立つカッコイイやりとりがあって、わたくしは烈しく萌えたのですが)。かように法で守られることを拒否して、反社会行為に手を染める人々は、その身の安全のため、さらに反社会的手段を用いる集団・個人の庇護のもと活動します。
 たとえばヤのつく自由業者の方々や、中国魔悲夜の方々に…その身の安全を保護してもらうのです。
 
 だから売春などをナリワイとする女性方(男性方も含む)は安心して日々を過ごせるのです。
 しかし…ナナ子さんのようなお気軽なアマチュア娼婦には、そうした保険はありません。
 
<つづく>


■2005/02/03 (木) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 16

「キャプテンEO」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割5分くらいまでが妄想です。

こんなことしちゃだめなんだよ。名前も知らないような男の前で、裸になったりしちゃだめだ、それを知ったらすごくいやがる人がいるんだ、誰にだって、必ずいる、そいつが一人で居るときに、悲しくて泣きそうで一人でいる時に、そんな時に、そいつの大切な女が、男の前で裸になってるなんて知ったら、どんな気分だと思う?お前はわかってない、こういう時、自分のことなんて誰も考えていないと思ってる、こんな、胸とか触られて、まっ裸で、こういう時に、どこかで誰かが死ぬほど悲しい思いをしているんだよ
 …村上龍『ラブ&ポップ』(幻冬社刊)
 
 この小説のクライマックス、主人公の援交女子校生・裕美たんは、クマのぬいぐるみが大好きでスタンガンをちらつかすガイキチ=キャプテンEO(これがまたどうもオハナシ臭過ぎるキャラクターです)にホテルで説教されます。上の抜粋がその内容です
 
 なんだよ、あの村上龍が援交をテーマにしといて、この“風俗で説教”みたいな結論かよ???
 
 と当時のケツの青かったわたしは思ったものですが、龍ちゃんが実際の女子校生たちに綿密な取材を執り行って導き出した結論がこれだったのも、今のわたしには理解できます。

 援交というか、すなわちシロート売春をしている人達にもっとも欠けていると思われるのは、すなわち危機管理意識です。自ら、反社会的行為に身を投じていながら、自分を守る手はずを何も持たない。反社会的行為に身を染めている以上、ヤー公に守ってもらうとか腕っ節の強いヒモに飼われるとか、そのようなリスクを負ってでも自らの安全を守ることは不可避的であるというのに、そうしない
 反社会の世界に生きながら、そこに生きている人間としての主体的自覚がない。
 これが援交をはじめとするシロート売春の問題点なのですね
 
 (※しっかし『トパーズ』が大好きなわたしとしては、この作品に『トパーズ2』とサブタイトルが打たれているのはなんとも複雑ですね

<つづく>


■2005/02/04 (金) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 17

「ちょっとノワってみる?」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 このような援交を含むシロート売春の危険性を真正面から取り扱ったのがじゃぱにーず・のあーるの雄、馳星周先生の短編『』(文春文庫『M(エム)』に収録)です。

 小説の主人公は小学生の息子と穀潰しのリストラ旦那を抱え、シロート売春に勤しむ若い人妻。いつもどおり暢気に客を取ったものの、ホテルで部屋に入ったらその客が真珠入りのスジ物だったから吃驚仰天。「…ええ、奥さんよう、子ども産んだわりには綺麗なカラダじゃねえかよおおう」てな感じでヤリ倒された上、凄まじいピンハネの元にそのヤー公に飼われる羽目に。ついに彼女はシャブまで注射され…とまあ、よくある話(わたしの小説「蛇蝎」はこの作品へのオマージュ、というかパクリです)なのですが、そこはさすが日本国暗黒小説界の筆頭若頭・馳先生の小説です。

 これほどまでにシロートが中途半端に身体を売ることに伴うリスクを如実に描いた作品は他に類を見ません(しかもエロく、実用性にも富んでおります)。
 
 つまり、シロート売春という行為は大変危険なものなのです。
 この世の中では、スキさえあれば他人を食い物にしてやろうというハイエナ野郎が常に獲物を求めていたるところに待ちかまえているのです。そして、シロート売春のような行為に何の危機管理意識も無く手を染めていると…ククケンや『アフターダーク』の鬼畜リーマン、キャプテンEOや赤坂少女監禁事件の吉里容疑者、『M』のヤー公、果ては韓国史上最凶の殺人鬼、ユ・ヨンチュルのような危険人物たちと出くわしてしまい、補食されてしまう危険性はすこぶる高くなる
 
 一瞬でもお金の対価として自らの身体を他者に預けるということは即ち、自分自身の命そのものをその価格で相手にレンタルさせていることと同義なのですね。
 
 <つづく>



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