手篭め侍
■第19話 ■ どうしても行くのですか
慎之介の中で何かが沸点に達した。
滝のような雨の世界から、雨のない乾いた世界に飛び込むように、慎之介は縁側の香蓮に飛びかかる。
「そうか、お前は十二の歳で、あそこで斃(くたば)っている糞坊主に姦(や)られたのか?」
ずぶ濡れのまま、香蓮の小さな躯を板間に押し倒す。
香蓮の躯はまるで力が抜けたように抵抗を見せなかった。
「……左様です、左様にてございます……あの腥(なまぐさ)坊主が、十二のわたしを……」
ちらりと、香蓮が海馬(とど)のように寝間に手折(たお)れている念甲の骸(むくろ)を見る。
そして……頬を朱く染め、自らを組み伏せようとする慎之介を見上げる。
「言え、どんなふうに姦(や)られた?……わたしのように、鍼(はり)を打たれたのか?」
ぐい、と香蓮の白衣(はくえ)の襟を開く。真直(まっす)ぐな鎖骨と、ほとんど平(たいら)な胸が露わになった。
少し、朱く尖った乳頭が覗いた。慌てて香蓮は襟を掻き合せようとする。
しかし慎之介はその手を制し、香蓮をぐいぐいと寝間に引きずり込んでいった。
「さ、左様にてございますっ……わたしが眠っている隙に、あの怪しげな香を焚かれ、目を覚ましたときにはすでに……躯(からだ)中に鍼が……」
湧き上がる激しい感情の所為(せい)で、慎之介の目に火花が散る。
敷布団は怪しげな油と、念甲の骸から流れた血で汚れていた。
その上で、ほんの少し前、自分は念甲に油塗(まみ)れにされ、体中を撫で回されたのだ。
そして香蓮には頭を剃られ……そして遂(つい)には菊座を犯され、いいように躯の中を弄(もてあそば)れた。
自ら媚を売るように腰を振り、悦びの声を挙げ、「もっと、もっと」と求めてしまったのだ。
「お前は、はじめてあの坊主に姦(や)られたときに、わたしのように頭を剃られたのか? 鍼を打たれて動かぬ躯(からだ)に、あの怪しげな油を塗りたくられて……そのときお前は、どんな声で啼(な)いたのだ?」
慎之介に白衣(はくえ)を乱されながら、香蓮はいやいやをするように頭を左右に振る。
「こ、声など上げておりませぬっ……う、生まれてはじめて、慰み者になり、それも、あの薄気味悪い油を躯(からだ)の隅々にまで塗られて……(そこで香蓮は、ちらりと部屋の油壺に目をやった)……た、ただ、ただ恐ろしいばかりで……」
「嘘をつけ! 次第に心地よくなっていったのであろう? わたしのように、声を出して求めたのだろう?」
「ち、ちがいますっ……わ、わたしはそんなっ……」
慎之介は荒々しく、香蓮の腰衣(こしごろも)の帯を解き、取り去る。
白衣(はくえ)の袂(たもと)が割れ、しなやかな香蓮の脚が、そして太腿が、きわどい部分まで覗いた。
念甲の手によって、二度も埓を開けられた逸物に、また力が漲(みなぎ)っている。
情欲からくる滾(たぎ)りではなかった。
それは怒りからくるものだった。自分から奪われたなにかを、取り戻すための激しい感情だった。
「……し、慎之介どのっ……あっ……やっ……」
白衣(はくえ)の前を一気に開く。
広げられた白い布の上で、しなやかな乳色の躯(からだ)が魚のように拗(くね)る。
慎之介はまじまじとその躯(からだ)を眼(まなこ)に焼き付けた。
仰向けの胸には膨らみは殆(ほとん)ど見られず、逆に肋(あばら)が目立つ。
しかし名も知らぬ小さな花の蕾のように、その頂きでは乳頭が高く立ち上がっていた。
「この躯(からだ)を、あの坊主は二年間、好きなように弄んだのだな」
「い、いやです、は、恥ずかしい……そ、そんなに……み、見ないでください……」
香蓮が顔を背け、あの造りの美しい横顔を見せながら、睫毛を伏せた。
平らな腹、縦型の臍。腰の幅は肩幅よりも細いくらいだ。
すりあわせている太腿の奥に茂みはない。美しい傷跡のように、一本の筋がむき出しになっている。
「ここの毛は剃られ続けたのか? それとも自分で剃っておるのか?」
「……そんなこと……い、言えませんっ……あっ」
ぴたりと閉じることができぬ程、細太腿に手を差し入れる。
びくん、と香蓮の躯が跳ねたが、慎之介はその小さな膝小僧を掴んで、左右に開いた。
朱い肉が涎(よだれ)の糸を引きながら開き、それが息づいている。まるで息をするかのように。
「あの坊主に天井から釣り下がられて、毎晩ここを弄られたのか?」
「……そ、そんなっ……だ、駄目ですっ……なりませんっ!」
閉じようとする香蓮のか細い太腿の間に、頭を滑り込ませていく。
香蓮は腿を閉じようとしたが、剃り上げられた頭は滑らかに太腿の間を滑っていった。
自らの頭と同じく剃り上げられた裂け目を指で開く。
濡れた赤貝のような陰部を、睫が触れるほどの距離からまじまじと眺めることができた。
裂け目の上には、半ば皮を被った小さな器官が、ひくひくと息づいている。
自分の躯の中で、最も感覚が集中する器官と、それはよく似ているように思えた。
「昨夜(ゆうべ)、あの腥(なまぐさ)に筆で嬲(なぶ)られて、いい声で啼いておっただろう……あれは、わたしの目を覚ますためか? わたしを嵌(は)めるために、態(わざ)とあんな声で啼いたのか?」
「ち、ちがいますっ……わ、わたしは慎之介様にっ……あっ、あんな……な、情けない声を聞かれたくなかったから……必死に堪えようとしました……でもあの坊主が……あまりにも執拗(しつこ)くて……」
「たわけ! 今、あの坊主は死んだ! 思う存分啼くがいいわ!」
慎之介は抱きしめれば砕けそうなほどか細い香連の腰を抱きしめ、その秘所に口を付けた。
そして、無我夢中に舌を動かす。
「うああっ……ああああっ……なっ……なりませんっ慎之介どのっ……そのようなっ!」
そして舌先で先程、確認した小さな器官を探り当てる。
両手で香連の小さな尻を掴み、揉み込む。思ったより手触りは柔らかい。
(……こ、こいつ……一体……)
香連が、慎之介の首に素足を伸ばして、交叉させてきた。
「いけませんっ……そ、そのようなこと、な、なりませんっ!」
そんな言葉とは裏腹に、そのまま秘所にぐいぐいと顔を押し付けられる。
慎之介は尖った部分を執拗に擽(くすぐり)り立てた。
「あうっ、あうううっ……いけま……せんっ……慎之介さまっ……わたしの端(はした)ない声を、聞いてはなりませんっ!」
そうして手を伸ばし、慎之介の両耳を塞ごうとする。
ぷはっ、と音を立てて唇を話し、香蓮を見上げる。
「なんだ、なんなのだ? どうしたと言うのだ」
「……だめですっ……も、もう瀬戸際ですっ……ご、後生ですから、わたしが上げる浅ましい声を、聞かないで……」
「ははははは! 可愛いことを言う奴だ!」
ぐい、と慎之介は香蓮の両膝を両肩に駆けたま、膝立ちになった。
香連の躯が逆さに吊り下げられる。
「い、いやっ!」
「何を申す。あの腥(なまぐさ)の二年に渡る辱(はずかし)めは、こんなものではなかったろう!」
そう言うと、香蓮の脹ら脛をしっかと掴み、天繰返(でんぐりがえ)しをさせるように、そのまま前にぐい、と押した。
想像していたとおり、香蓮の躯は柔らかかった。その素足を、頭の上の位置で押し付ける。
天井に向けて、連行の秘部が……さらには菊座までもが晒(さら)け出される。
「こ、このようなっ……こんなかっこう……あ、ああっ、あああああっ!」
香蓮が両手で自分の目を覆い、顔を左右に振りたくる。
慎之介は膳に乗せられて差し出されたも同然の、潤んだ秘所を、菊座を舐めまくった。
そして二人は横たわる念甲の骸(むくろ)の前で、残った油を全身に塗(まぶ)しながら、長い時間をかけてお互いの躯(からだ)を愛撫し続けた。
何度も口づけをした。唇はもちろん、お互いの穴という穴に。
最初は、慎之介は香蓮を仰向けにし、脚を高く持ち上げて、十分に潤ったその部分に逸物(いちもつ)を差し込んだ。
香蓮は猫が甘えるような声を上げながら、その途端、敢え無く頂(いただき)に達した。
しかし、達するやいなや、今度は香蓮が責め始める。
しなやかな脚を慎之介の細腰に回して引き寄せ、自分から腰を淫らに繰ねらせてくる。
「お、おおおっ……ううっ……くっ……」
きゅうきゅうと締め付ける濡れた肉に、淫らな腰の動き。
うっとりと自分を見上げてくる、長い睫の奥の、潤いと憂いを帯びた眼(まなこ)。
すぐにでも爆(は)ぜそうになった慎之介を、香蓮が巧みに焦らしていく。
「……良いですか? 慎之介どの……あっ……わ、わたしも……ま、また達しそうでございますっ……そのまま……くださいまし……」
「ならぬ! ええい!」
慎之介は香連の脚を振りほどくと、逸物をぬるり、と抜き出した。
そして全身を朱く染めてうっとりと見上げてくる香蓮の肢体を、布団の上で裏返す。
「ああっ……こんどは、こんどは、どうやってわたしを苛(いじ)めるおつもりですか?」
部屋の隅に横たわる念甲の海馬(とど)のような骸は、だんだん血の気を失い、辺りを闇を覆うにしたがい黒ずんで見えた。
そして、その骸(むくろ)がまだ腐った魂を持っていたときに、自分にしたことを思い出しながら、小さく窄まった香蓮の菊座を弄(いじく)った。
びくっと香蓮の肩が震える。
「こちらはどうだ? ここもどうせ、あの腥(なまぐさ)に弄りまわされてきたのだろう?」
あわてて肩ごしに振り返る香蓮。
「な、なりませんっ! ……そちらは……そちらは……慎之介のようなお方が、そんな……」
「ええい、わたしはもう以前のわたしではない! あの腥(なまぐさ)に弄り回されて、女のように鳴き声を漏らすようなお稚児ではない!」
そう言いながらも、指を二本に増やした。
「ああっ……いけまっ……せんっ……」
香連がくたっ、と上半身を油と血に塗れた布団に投げ出す。
見下ろせば、爆ぜる寸前だった自分の逸物が、紫色に腫れ上がり、物欲しげに揺れていた。
(わたしは……いや、おれは『手篭め侍』だ……女を手篭めにしても、屁とも思わぬ犬畜生だ……)
いけません、といいつつ、香蓮の尻は高く持ち上がり、ひくひくと息づく孔を晒している。
「参るぞ!」
「ああっ……し、慎之介どのっ!…………んんんっ……ぐっ……うっ、う、うううっ!」
思ったより、逸物はその孔の中へ、滑らかに呑み込まれていった。
滝のような雨が古寺を包囲していた。
血と油にまみれた布団のうえで、精も根も尽き果てた慎之介と香連が、並んで仰向けに寝そべっている。
その傍らには、念甲の動かぬ死体がある。
二人と一体の骸(むくろ)は、川の字になって並んでいた。
さっきから、二、三匹の肉蠅が、ぶんぶんと羽音を立てて寝間を飛び回っている。
香蓮が寝返りを打ち、慎之介の耳元に唇を寄せて、言った。
「念甲の骸(むくろ)を、境内のどこかに埋めてしまいましょう……そして慎之介どの、この寺でわたしとずっと……二人でひっそり暮らしていきましょう……蜂屋百十郎のことも、八代松右衛門のことも……姉上のことも忘れて」
その声は、やはり鈴の音のようで、慎之介には心地よかった。
思わず、肉蠅が飛び交う中で、眠りに誘い込まれそうになる。
しかし、その微睡(まどろ)みを振り切るように、半身を起こした。
「あの仕掛け刀を借りるぞ……行かねば」
香蓮は、仰向けに寝ぞべったまま、囁くように言った。
「どうしても行くのですね? そして、仇を……蜂屋百十郎を討つのですね?」
「……ああ、おれには、それより道はない」
ゆっくりと香蓮が半身を起こす。
「ならば……」伏せた睫の下で、形のよい鼻の下で、つぶらな唇が呟いた。「わたしが、あなたを追います」