手篭め侍



■第14話 ■ 蛞蝓(なめくじ)和尚

念甲!
 弾みをつけて障子を開き、脇差(わきざし)を抜く。
 縛られ、天井から吊るされた香蓮の前に座っていた念甲の肩が、びくっと動く。
 あの醜い盲(めくら)の面がこちらを向く。素早く駆け寄り、その頭に向けて袈裟懸(けさがけ)けに振り下ろす。
 醜い瘡蓋(かさぬら)の眼の間を通る、斜め一文字の刀傷。
 熱い血飛沫(ちしぶき)が、慎之介の頬を打つ。
 手には、確かに骨を斬った手応え。
 降り注ぐ返り血を浴びながら、どう、と板間に手折れる念甲の姿を見守る。
「……慎之介どの……嗚呼、慎之介どのっ!」
 吊られた香蓮に向き直ると……鵐(しとど)に濡れて開かれた生々しい肉色の秘所が……。

「……目を覚まされたかな

 目を開けると、慎之介はもとの寝室の布団の上にいた。
 目の前には、瘡蓋(かさぶた)の眼を持つ、醜く太った和尚の顔……さっきまで見ていた夢の中で、横一文字に切り捨てた顔。
 その念校が自分の躯(からだ)に覆いかぶさっていた。

(……な、なにっ……なんだ? こ、声が出ぬ……)

「声が出ぬじゃろう……躯(からだ)も、指一本動かぬ筈じゃ……」
 すべての衣服を取り払われ、素っ裸で布団の上に寝かされていた。
 大の字に寝かされた躯は、念甲の言うとおりぴくりとも動かすことができない。
 眼(まなこ)だけは動いた……上を見ると、ちょうど枕の上から、香蓮の顔が覗き込んでくる。
 その眼差しはまるで夢を見ているようで、朧(おぼろ)げだ。
 寝間の中には、つん、とくるような曲(くせ)のある香の匂いが立ち込めている。

「……ふふ、まこと滑らかな肌よ……その香蓮に負けぬほど、きめ細かな肌。指がよく滑るわ……」

 慎之介の躯(からだ)の全面に、絖(ぬめ)る黄金色の油が塗(まぶ)されていた。
 念校は褌一丁で、慎之介の油に塗れた全身の肌を撫で回している。

(な、なぜこのようなことに……香蓮どの? なぜ香蓮どのはそのようなものを……)
 見上げると、香蓮は剃刀(かみそり)を手にしていた。
 そして、左手には黒髪がひと房。
「……どうじゃ、慎之介どの……躯(からだ)は動かぬが、触られた肌は心地よいであろう……もう、そなたの乳首はこんなに立ち上がっとるわ……」
(……な、なにっ……あっ……)
 なんとか首だけはわずかに動かすことができるようだ。

 胸元を見る……八(はっ)と、息を飲んだ。
 確かに念甲(こうら)の言うとおり、両方の乳首はいきり立ち、それを醜い指で捏ねくり回されている。
 むず痒いような、甘ったるいような、擽(くすぐ)ったいような、奇妙な感覚がせり上がってきた。

 しかし、それよりも驚いたのは……上半身のいたるところに、糸のようなほそい鍼(はり)が突き立っていたことだ。
 その数は、一本、十本、三十本……四十を数えたところで、もう数え切れなくなった。
 鍼(はり)の間を縫うように、念甲の指が絖(ぬめ)る肌を微妙に愛撫していく。

(寝ている間に服を脱がされ、鍼を打たれた?……そ、そんな、そんな馬鹿な……うっ……っく)

「ふふふ、良い心地ちであろう……慎之介どの。まだ漢(おとこ)に成りきっておらぬこの華奢な躯(からだ)、まったく儂(わし)の好みにぴったりじゃ……」
 そう言って念甲羅は手にした柄杓(ひしゃく)で布団の傍らにあった大甕(おおがめ)から油をたっぷりと掬う。
 そしてさらに、慎之介の鍼だらけの裸身へたっぷりと塗(まぶ)した。
(つ、冷たいっ……そ、それにこの油……は、肌がじりじりと痺れる……)
 新たに注ぎ足された油は、また念甲の指によって丹念に肌へと塗りこまれていく。

 首筋から肩へ、肩から二の上へ、二の腕から脇の下へ。
(……うっ……そ、そんな)
 このような状況において、念甲の思い通りに息を乱されていく自分が、慎之介は情けなくて仕様がなかった。

 しかし……それより気になるのは枕元に座した香蓮が何をしているか、である。
 剃刀の歯が、頭皮の上をさり、さり、と音を立てながら滑っている。
髪を剃られている? ……そんな? まさか?)
 その間も、念甲の指が油に塗(まみ)れた躯(からだ)の上を、鳩尾(みぞおち)へ、臍へ、脚の付け根へ……鍼の林道を抜けるように這っていく。
 ぞくぞくと肌の感触が昂(たか)ぶり、慎之介の息がさらに乱れていく。

(……そんな……有り得ぬ、こんな気色の悪いことをされて……)

 慎之介が認めようが認めまいが、若くて愛撫に初心(うぶ)な躯(からだ)は、実に正直に反応していた。
 見下ろせば、滾(たぎ)った逸物が、ぴんと天井を剥き、皮口から赤い頭(こうべ)を覗かせている。
 思わず、慎之介は顔を背けて、目を閉じた。
「ふふふ……まことに活きのいい、素直な躯(からだ)じゃ。そなたが囀る声を聞きとうなってきたわ……」

 と、念甲が慎之介の首筋に手を伸ばした……もちろん、小指ひとつ動かせぬ慎之介は顔を背けることもできない。
 ぷつり、と左の鎖骨の脇に刺された鍼(はり)が抜き取られる。

ぷはっ……ああっ……あっ!」
 いきなり、声が出た。
「それ、思う存分、いい声で囀るのじゃ……どうせ指一本動かせぬ。ほれ、ほうれ……」
 念校の絖(ぬめ)る手で肉竿をゆるゆると扱き上げられる。
 頭は、香蓮によって淡々と剃り上げられていく。
「ああっ……くうっ……やめ、やめるのだこの腥(なまぐさ)坊主! おのれ、ゆ、ゆるさ……んんんっ!」
 くりくりと、露出した頭(こうべ)の頂きにある、裂け目の部分を弄り回された。
 その裂け目から溢れ出した先走りの涎を、念甲の親指が馴(な)らすように塗り広げる。
 あまりの感覚に腰を逃がしたい慎之介だったが……躯が動かぬ限り、その愛撫から逃れる術(すべ)はない。
「…許さんとな。さすがは親の敵を追って十年、旅をされてきただけのことはある……然(しか)し、そなたは今夜、儂(わし)に許しを乞うことになるじゃろう……どこまでその強がりが続くか……ふふふふ、見ものじゃのう……」
「は、は、は、ううっ……やめ……やめるの……だ」

 念甲はさらに慎之介の逸物に油を垂(た)らした。
 曲(くせ)のある香の香りが、部屋に立ち込める中……くちゅり、くちゅりど断続的に慎之介の逸物を弄ぶ念甲の指が、淫靡(いんび)な音を立てる。
「ほれ、ほれ……こうか? ……こっちはどうじゃ……」
「あ、うっ! そ、そこはっ……」

 菊座であった。

 あの野原で菊座を責められて悶え喘いでいた奥方の姿、そして、宿屋の寝間で菊座を舐められて切なげに声を漏らしていた姉の姿が、慎之介の脳裏に鮮烈に浮かび上がる。
「ほう、儂(わし)には見えぬのが残念じゃが……逸物に負けず劣らず、初心(うぶ)で、可憐(かれん)で、好い形をしておる……ほれ、こうすればどうじゃ」
「やめ、やめるのだっ……や、あっ……ううあっ!」

 念甲の指が菊座に潜(もぐ)り込んできた。
 そして、やわやわと逸物を撫でさすられる。

 躯(からだ)を少しでも動かせれば、それらの感覚をどうにか逃し、そこに気がいかぬよう、少しは紛(まぎ)らわすこともできただろう……しかし、今の慎 之介は四肢はもちろん、十本の手の指、そして同じく十本の足の指までを、糸で布団に結わえ付けられているも同然で、ぴくりと動かすことができない。

「くっ……わ、わたしは今、盲(めくら)の腥(なまぐさ)坊主に躯を好き放題、弄(いじく)られているのだ……こ、こんな気色の悪いことはないっ……」
 自分に言い聞かせるように、慎之介は叫んだ。
「和尚様……剃り終わりました」
 香連が、そういいながら慎之介の頭を撫ぜる。
 なめらかに油を塗られた頭が、ひんやりと冷たかった。
 ついに、丸坊主にされてしまったのだ。
「なにゆえ……なにゆえこんなことをっ……ああああっ!
 ずぶり、と菊座に差し込まれた指が、玉袋(たまぶくろ)の裏あたりをさぐった。
「……見つけた、見つけた。ここよ、ここが男子の泣き処よ……ほれ見い、香蓮。この滾(たぎ)りようを……ふふ、さらに鳴かせてくれるわい」
「は、ああっ……あああっ!」
 その箇所を執拗に捏ねられ、別の手で逸物の先を指で擽(くすぐ)られる。
「……慎之介さま……」香蓮が慎之介の耳元に唇を寄せて囁く。「耐えるのです……今は、耐えるのです」
「と、とは言われても……あああうっ!」

 風呂場での香蓮の柔らかな指と頬による愛撫で、最後の一滴まで果たし尽くしてしまったと思った精が、またも器をいっぱいに満たしている。
 しかし、念甲の愛撫は誂(からか)うようで……なかなか埓を開かせては暮(く)れなかった。

「鍼(はり)でそなたの精をせき止めておる。油には、肌の感触を高める効果がある。そしてこの部屋を満たす香……この煙には、人の欲念を昂ぶらせる効能があっての……すべて儂(わし)が拵(こしら)えたものじゃ……どうじゃ、慎之介どの、堪らんであろう」
「ご、後生……後生ですっ……お、和尚さま……ど、どうかお慈悲を……」

 ほとんど泣き声で、遂に慎之介は念甲に……許しを乞うていた。

「……赦してほしいか……」
 念校が、慎之介の鼠径部に打ってあった鍼を抜いた。
 慎之介の顔まで、熱い精が飛び散った。

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