P.T.A. 作:西田三郎 「第14話」 ■MAN & MAN
枝松は突然の理恵の誘いに少し当惑を覚えたが、折からズボンの中では陰茎が激しく怒張していたので、その後の展開を深く考えることが出来なかった。
「…わかった、ちょっと待って」ビデオカメラのアングルを、最高と思える構図に合わせる。「よし、オッケー」
枝松は慌ててズボンを脱ぎながら、ベッドへ向かった。
この儀式を執り行おうと提案した理恵が何を考えているのか、枝松はまったく理解していなかったし、理解する気さえなかった。…この様子をビデオで撮影して、町内にバラまく…?理恵のこの一見無意味であり、かつ奇想天外な計画が身を結べば、当然この茶番の中心に居る自分は、全てを失うだろう。そしてこの茶番の登場人物である、奈緒美も弘も理恵も功も。しかし、それが何だ?…ここ数日間、いや数ヶ月前から、この自分を支配している虚無。すべてが守る価値もない低価なものであり、ほんの一瞬、奈緒美や理恵…そして昨日の功と…肌を触れ合わせる瞬間だけが、自分とこの世を首の皮一枚で繋いでいた。
そして、そのほんの僅かな生への悦びをも失えば…後は自分に何が残る?
足首にしつこく絡まるズボンを蹴り離して、枝松はベッドで待ちかまえる理恵に突進した。
先ほど、功への口づけを見せつけられた身として、枝松は理恵の口に吸い付いた。
予想どおり、理恵は淫らな舌でそれに応えた。
思えば枝松は、理恵とキスをしたことがない。
それにしても理恵のキスへの貪欲さは、予想以上だった。
まるで口の中の唾液を全て吸い尽くされかねない勢いである。
「…ん…」
ようやく理恵を唇から引き離すと、その唇から自分の唇に続く、濃厚な唾液が糸を引いた。
ベッドに拘束されている功に目をやると、上気させていた顔がみるみる青ざめていくのが見える。
功は目を見開いたまま、言葉を失っていた。その様子に理恵がまた、冷たい目線を投げかける。
「…あたし、今日、ここで、先生とヤるから」理恵が枝松の首に手を回してくる。
「……」功は目を見開いたまま、何も言わない。
「…ね、先生。ヤッてくれるでしょ…ヤッてくれるよね?」
「…ううむ…」枝松は口ごもった。パンツの中の陰茎は相変わらず激しく勃起していたが。
「ね、先生」息が掛かるほど顔を近づけて、熱っぽい声で理恵が言う「カメラの前で、ヤッてね。…それで、そのビデオ、町中の人に観て貰うの。判る?…なんであたしが、そんなこと考えたのか」
「お聞かせ願えますか…」皆目、見当がつかない。
「…秘密を無くすの」枝松の耳元で、理恵が囁く。「秘密なんて、無くしちゃえばいいのよ。秘密があるから、みんなそれを守ろうとするの。知ろうとするから、不幸になるの。…判る?」
「はあ」
「…みんなそれぞれ、自分の秘密を知られたくないから、ビクビク、イジイジ生きてるの。だったら秘密なんか、最初から作らなけりゃいい。…でも、あたしたちにはもう秘密がある。だから、こうするしかないの」
「…ううむ…」頭の中がこんがらがってきたが、何故か欲情だけは高まっていく。
ただ理恵が、必死に生きているのは判った。枝松が思うより、ずっと必死に生きている。何故、自分は理恵に惹かれたのだろうか…?。枝松は考えた。しばらく考えて、答えが出た。
そう、枝松は、自分が求めていながら、奈緒美から失われたものを、理恵に見たのだ。
冷たく固い態度の中で息づく、ひたむきな生命力に。
「よし」
枝松はひょいと理恵を抱え上げ、膝に乗せると、カメラの方に向かせた。
「え…」さすがに理恵は戸惑いを見せた。「何?」
「ほら、カメラ見て」今度は枝松が理恵の耳元で囁く「脚、広げろよ」
「…ん…あっ」
理恵の細い膝と膝の間に、枝松の膝が割り込み、左右に開いたのだ。
とにかく枝松は今、それ以上深く考えずに、感情の声に身を任すことに決めた。一事が万事その調子だったが、これまでもそれでやってきたのである。それを今から修正することは不可能である。
「…ご近所の皆さん、これが理恵ちゃんの処女の泉ですよ〜」枝松はカメラに向かって言った「…いまからこの前人未踏の泉に、わたしの肉棒が入ります」
「…やめろ!」拘束された功が声を上げる「姉ちゃんを放せ!」
「ああ、こちらは弟の功くんです。君のお姉さんはまだ中学3年生なのに、すこぶる淫乱です。カメラの前に広げられて、こんなに涎を垂らしています」枝松は指で、理恵の入り口に溢れている蜜をすくった。そしてその蜜の糸が引く2本指で、カメラに向かってVサインを出した。「ほーら、こんなに。どうですか、近所の皆さん、理恵ちゃんの淫乱ぶりは?どう?理恵ちゃん?…気持ちいいですか?」
「…んんっ……」理恵が真っ赤になって、カメラから顔を背ける。
「ほうーら、どうしたのですか?理恵ちゃん、これは君が言い出したことですよ〜?」
「…んっ…くっ」理恵はその指摘を受け、何とか薄目を開け、やがてカメラを気丈に見つめた。「……ご…ご近所の…皆さん、こんにち…は……。皆さん、これ…が……あたしたち…の…んんっ…」
枝松が理恵の陰核を擦りはじめたのだ。
「どうしましたか〜?理恵ちゃ〜ん……あたしたちの、なんですか〜?」
「…あ…あっ………あたしたちの…んんっ」理恵は喘息の咳のように、こみ上げてくる嗚咽をこらえながら、言葉を続けた。「……ひ……ひみつ……です」
「やめろ!姉ちゃん!もう言うな!」功が大声を出す。
「黙って……なさいよ」理恵が功を振り返って睨みつける。
そのまま理恵は枝松の膝の上からひらりと敏捷に這い出ると、シーツの上を這って功の下半身まで進んだ。
「…姉ちゃん……」
「…なにが、もう言うな、よ……自分だって、こんなに……こんなに…してる…クセに…」
「…姉ちゃん…や……やめ……あっ」
理恵が功の突き出した陰茎を、またぱくっとくわえ込んだ。そして四つんばいの姿勢のまま、尻を高く挙げて、カメラの前に突き出した。枝松はその一連の動きを、呆気にとられて見ていた。そして、カメラと理恵の尻の間に居る枝松には、理恵の脚の間に蜜がみるみる溢れていくのが見えた。理恵が功の幼い肉棒を吸い上げる、淫靡な音も聞こえた。
「…んっ………あっ……やめろ……やめっ……ろって……姉ちゃん……」言いながら功は腰の位置を高くしていく「…あっ……んっ………ダメだ……もう…もお…うっ……」
「ねえ、先生…」理恵が尻を突き出したまま、枝松をかえりみて言う。「…挿れて……挿れてよ…」
「…お…おう」枝松は我に返った。良かった。まだ陰茎は力を失っていない。カメラの方を向く。「…ではご近所の皆さん、大変お待たせいたしました…これより、わたくしめ、教師:枝松が理恵ちゃんの誰にも触れさせたことのない、秘密の花園に……」
「きもちわりー解説してんじゃねーよ!変態!」理恵が声を荒げる「さっさと挿れろよ!」
「ハイハイ」枝松はそそくさとカメラに背を向け、理恵の尻と対峙する。「…」
理恵の尻に手を添えようとして、はっと気が付いた。理恵の左の尻にある黒子。その黒い点を見つめる。奈緒美の顔が思い浮かんだ。そしてそれが心の中で理恵と重なり、功と重なり、そしてもう一人の人物に重なる。怒張はますます張りつめるばかりだった。
「…はやく…挿れて…」理恵が今度は泣きそうな声で言う。
理恵を見た。耳まで真っ赤に火照らせ、固い尻を震わせている。
功はというと、もはや絶頂の淵まで追いつめられているらしく、顔を背けて唇を噛んでいる。
枝松はしっかり陰茎を握り、先端を理恵の入り口に押し当てた。
「…ふんっ…」理恵が躰をすくめた。処女と性交するのは、枝松もこれがはじめてだった。
「はじめてなのに、後ろからでも……いい?」枝松は理恵に聞いたが、答えはなかった。
「ほっ…」まるで重いものでも持ち上げるようなマヌケな掛け声とともに、枝松は前に進んだ。
「…はあっ…」理恵が全身でそれを受け入れる。しかし、肝心の入り口だけはどうしても、突然の異物の侵入を許さない。理恵がせっぱ詰まった声で囁いた。「…そのまま…来て…」
さらに突き進んだ…メリメリという音が聞こえてきそうだった。自分はとんでもない事をしている。と、枝松は心の中で思った。もう後戻りはできない、とも思った。そう思うと、何故かまた怒張が強まり、そのまま射精しそうになる…が、ぐっと堪える。あともう少しだ。頑張れ!自分に言い聞かせた。
「ん、ん、ん、ん…………いいいいっ……」理恵がその激痛に耐えている。
まるで殉教者のように。
「…力、抜いて……」そう言えば昨日、母の奈緒美にも同じことを言った。
「んんんっ…………い……いた………んんんんっ!!」
何とか、辛うじて………枝松の陰茎が、理恵の躰の奥に到着した。しばらく理恵はぶるぶると震えるばかりで、何も言わなかった。功の腰のあたりに両手を突っ張った格好で、何とか四つんばいの姿勢を保っている。枝松は、理恵のしみひとつ無い背中に、くっきりと肩胛骨が浮き上がるのを見ていた。
「姉ちゃん…」功が言ったのが合図だった。
理恵はそのまま、なんとか起こしていた顔を、ぺたんとベッドに沈めた。
「…ああ…」か細い声で、理恵は言った「…し………死んじゃう…」
「……お…」枝松もか細い声になっていた。「…む…だ…大丈夫…?」
「……うっ………うご……かし……て……」理恵が震えながら言う。「お願い…」
「ああっ……」次に声を上げたのは、功だった。理恵が顔をベッドに埋めたまま、猛烈な勢いで功の陰茎を扱き始めたのだ「…姉ちゃん……ほ……ほんとに……ほんとに…もう……」
「動かせよ!」理恵が何かを振り切るように叫んだ「滅茶苦茶にしてよ!」
「…む、無理だよ」枝松は音を上げた。これほどまでに陰茎を激しく締め付けられたのは、初めてだった。昨日、奈緒美の尻を犯した時も…これほどの圧迫はなかった。「で…出る…」
「…や…役立たず…」真っ赤になった顔に薄目を開けて、枝松を睨む理恵。「…外に、出してね…」
理恵はさらに功の陰茎を扱きあげ、言葉もない功を追いつめていった。
枝松は陰茎を理恵から引き抜いた。粘液と血の混合物である滴が、シーツの上に散る。
「…うっ!」枝松が理恵の白い尻へ…特に黒子のあたりに…したたかに射精した。
「……あ、あ、あっ!!」ワンテンポ遅れて、今度は功が理恵の顔めがけて吹き上げた。
「……ん」
顔と尻にそれぞれ二人の精液を浴びて、理恵はぐったりと死んだようにシーツに沈み込んだ。
30分後、3人は枝松の車の中に居た。
運転席にはちらちらと理恵の機嫌を伺い見る枝松。
助手席にはそれを全く無視し、開けた窓から吹き込む風を前髪に受けている理恵。
そして後部座席には生ける屍のようにぼんやり前方を見ている功が居た。
理恵はまるで大事な子犬でも乗せているかのように、膝の上にビデオ・カメラを乗せている。
「…駅まで送るけど、それでいい?」枝松は3回目の同じ質問を理恵に投げる。
「……」理恵は答えない。
枝松の小さな狭い心に、暗雲が立ちこめていた。
30分前までは雪崩のような情欲に押しつぶされていた理性が、ゆっくりと顔を表す。
どうしたものか…理恵は本気だった。
このビデオを、町内中の共有財産にしようというのだ。30分前には露ほども感じなかった、その来るべき未来への畏れが、今ははっきりとその形を表し、胸を騒がせる。これまでに自分が犯してきたあらゆる罪に値する罰が、理恵のそのたくらみであるとしても…とても今の自分には殊勝にそれを受け止める器量がない。
「…そのビデオだけど……やっぱり……」枝松はゴニョゴニョ呟いた。
「駄目」枝松が言い終わるより先に、理恵がぴしゃりと言った。
「……」とりつく島はなさそうだ。
気まずい沈黙にヒリヒリしながら、枝松は車を田園地帯に走らせた。
まもなく田園地帯を抜けるというその時、後部座席の功が譫言のように言った。
「…うちの車だ…」
「え?」枝松は前方を見た。確かに200メートルくらい先に、青いカローラがこちらに進んで来るのが見える…が、この道は一方通行だった。
ブレーキを踏んでおくべきだったが、何故か脚が動かない。
ぐんぐん車が近くなる…フロントガラスの向こうに、幸せそうに笑う男の顔が見えた。
「…父さん……」理恵が身を竦める。
「…え?」一瞬、枝松が理恵を見た。
枝松は対向車を運転している男を見る…はじめて見る男だった。
そのまじめそうな男は、この上なく朗らかで、安らかな笑みを浮かべている。
そのまま、枝松の車は青いカローラと正面衝突した。
誰も死ななかったのが、不思議なくらいだった。
NEXT/BACK TOP