P.T.A. 作:西田三郎

「第13話」

■MAN ,BOY & GIRL

 何週間も続いた雨が降り止み、ようやく梅雨の季節にも終わりが来たかのように、外では空は晴れ渡っていた。しかし、窓を閉め切ったそのモーテルの室内に限って、梅雨は継続していた。そこでは、むっとする湿気、よどんだ空気が1年を支配している。
 「で、ほんとうに撮るわけ?」
 理恵が自宅から持ち出した家庭用デジタルビデオカメラを、三脚に設置し終えた枝松が、カメラと、煙草の煙越しに暢気な顔を見せる。その暢気な顔に、理恵は心からの殺意を覚えた。…しかし、その思いをぐっと押さえつけ、ベッドの上に横たえられている功の様子を見る。
 功といえば、自分がなにか罰をうける気にでもなった気分なのか、まったく抵抗というものを見せない。   功はタオルで目隠しをされ、さらに両手首を頭の上で重ねる格好で、同じくタオルで拘束されていた。さっきまで泣いていた彼はすでに泣きやんでおり、まるで人形のように静かだった。
 まったくどいつもこいつも…このコントのようなバカバカしい事態の中で、自分がその当事者であることを自覚しているのだろうか?すくなくとも理恵自身は…そのことに自覚的であろうとした。
 「…準備オッケー?」下半身はパンツ一枚、上はブラウスという、厳しい口調で話すには少々マヌケな姿で、理恵は枝松に確認する「ちゃんと、しっかり撮ってよ
 「オッケー」枝松の答え方はどこまでもかった。「可愛く映ってるよ、君も」
 「余計なこと言わないでよ」
 「ごめん」
 理恵はブラウスを脱いで、そのまま数万のダニが巣喰う、薄汚れた床のカーペットの上にはらりと落とした。さらにブラジャーを外す。微かな、実に微かな乳房が露わになった。
 枝松は自分の目を通しては何度も見たが、ファインダー越しに見るその肢体にいたく心を打たれた様子で、カメラに魅入っている。つくづく醜い男だな、と理恵は思った。いや、彼だけが特に醜いという訳ではない。枝松も、功も、父も、母も、そして当然この自分も、平等に醜く、歪んでいるのだ。
 「…いいね、うん、イイよー…理恵ちゃん」この期に及んで枝松が戯ける。
 理恵は答える気にもなれず、ベッドに上がり、功に寄り添った。
 功の躰が、ぴくん、と固くなった。
 「姉ちゃん…」功が不安げに呟く「…やめようよ、こんな事」
 「今更何言ってんのよ」
 「むっ…」
 理恵の唇が、功の唇を塞ぐ。
 すかさず理恵は舌を奥に進めた。功の舌を絡め上げ、唾液を流し込み、流し込んだ唾液をまた吸い上げて飲んだ。功の口の端から唾液が溢れて出ると、それを舌先ですくい上げてまた口の中に押し戻す。下唇を甘噛みし、引っ張って離す。上唇の形を舌でなぞってから、唇と前歯の間を擽る。
 この上なく濃密で、えげつないキスだった。
 理恵は功とこのようなキスをしたことがない。枝松ともしたことがない。
 しかし本能の赴くまま、アドリブでキスの場面を演じて見せた。
 「先生、ちゃんと撮ってる?」功から唇を離して、枝松をかえりみる。
 「…バッチリ撮ってるよ。ズームで」枝松は液晶ファインダーから顔を上げずに答える。
 功を見下ろす。
 余りに突然で、濃密だった理恵のキスからして、もう功は虫の息だ。
 「…姉ちゃん…」
 「さてと」
 理恵は功のズボンのベルトを外し始めた。功は抵抗しない。
 チャックを降ろし、ズボンを引き抜く。
 「…あらま」
 功のブリーフの布地が、高く持ち上げられている。
 「…勃ってんじゃん」手を伸ばし、触れてみる。びくん、とまた功の躰が固くなった「それで、濡れてるし」
 「……」功は唇を噛んだまま黙っている。
 「…あのさ…」理恵は猫のように功の躰を這い、功の顔まで到達する。手はパンツの上より陰茎に添えたまま「…撮ってんだよ。コレ。判ってる?それであんた、勃ってんだよ?
 「……」
 「…変態だね、やっぱり。気持ちいい?」
 「……」
 「…コレ、みんなに観てもらうの。ダビングして、父さんにも、母さんにも、近所の皆さんにも。あたしたちは、もうおしまい。判る?……いいでしょ、このアイデア。それで、全部、きれいに終わるの。ホッとするでしょ?」
 「……」
 理恵が功の首すじにキスをする。そしてまた功の下半身まで這い降りると、ブリーフに手を掛けた。
 「…あ…」功が物憂げに囁く。
 「…先生、ちゃんと撮ってる?」理恵はまた枝松を観た。少し顔が火照っているのが、自分でもわかる「…しっかり撮っといてよ、特にこのへん。ズームで」
 「了解」枝松の口調は真面目そのものだった。その腐った根性が亢奮の火で炙られているのが判る。
  理恵は功のブリーフをするりと降ろした。功の若い力を漲らせた陰茎がぽろんと躍り出た。
 「…ああっ…」
 「…いくよ」そう言って理恵は、功の陰茎を優しくくわえ込んだ。
 「…んはっ…」ぴょん、と功の下半身が跳ねる。
 理恵は静かに目を閉じ、先ほど功の口の中でしたように、舌を遊ばせた。
 舌先で包皮を剥き下げ、敏感な亀頭をキャンデーのように口の中で転がし、尿道口をなぞり、溢れる蜜を吸い上げる。かと思うと口をすぼめ、チュバチュバと音を立てて亀頭部分を顎と頭全体を使って上下に扱き、陰茎の側面を舌先でなぞって萎縮した睾丸の皺をくすぐる。
 「…あっ……あっ………いっ………いっ……んっ……」
 功が面白いように声を上げ、腰を踊らせる。
 さらに理恵は功の膝を両肩で抱え上げると、赤ん坊が下の世話をされているような屈辱的な姿勢を功に取らせ、浮き上がった腰の奥にある、肛門部にまで舌を這わせた。
 「……あっ!……ああっ………そんな………ダメだよ……ダメだよ姉ちゃん」
 「…何がダメなのよ。撮られて悦んでるくせに。ここをこんなに固くしてるクセに………ねえ、聞いていい?」理恵は荒い息とともに功を責め続ける。「……父さんに盗聴されてるって知って、亢奮しなかった?…したでしょ?」
 「……そんな……いっ!」理恵の舌先が肛門に差し込まれた。
 「…あたしはしたけどな……あんたもしたでしょ。したって言いなさい
 「………ん…………そ………そん……な」
 「…したよねえ?だって、姉弟だもんねえ、あたしたち。同じことで亢奮しないと、おかしいよねえ?…あたし、父さんが亢奮してたって思うと、なんか、熱くなっちゃた
 「……ん……」
 「…だってあたしたち、家族だもの。親娘だもの…わかる?わかろうと思ってる?
 「…く……」
 「…わかってないわね。だってあんた、キレイ事ばっかりだもの
 理恵は功を一旦解放すると、そのままベッドの上でパンツを脱いだ。
 「おお」撮影している枝松が言った。
 「喜んでんじゃねえよ。親娘どんぶりでロリコンホモ変態教師」全裸の理恵が半身を起こし、枝松に冷たい一瞥をくれる。髪はくしゃくしゃで、熱くたぎる全身の中でも、顔は2番目に熱くなっている。「しっかり撮ってんの?」
 「ごめん」枝松が軽く軽く、かるーく謝罪する。
 「ほら
 「あっ」理恵に太股に跨られ、功が声を上げる。
 「熱くなってる?」理恵は功の太股の上で、躰の中で一番熱く濡れているその部分を、ゆっくりと這わせた。「ほら、わかるでしょ…熱くなってるでしょ?
 功の太股に、理恵のその部分が通った後が、蛞蝓が這った後のように濡れた筋を残した。
 「…ん……あ……」功が言葉にならない声を上げる。
 と、理恵はだしぬけに、功の目隠しを外した。突然飛び込んできた光に、功が眩しそうに目を細める。理恵は焦点を合わせたらしい功の目に、優しく笑い掛けた。
 「…ほら、もうすぐだよ。もう終わるよ
 「…姉ちゃん…」
 「…先生」理恵は功の上に跨ったまま、枝松の方を振り向いて言う。「こっち、来て…
 このうえなく熱っぽい声だった。

 

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