大男
〜あるいは、わたしのレイプ妄想が生むメタファー〜
作:西田三郎
■8■ 夫婦生活(別の大男と)
わたしは結婚した。子どもも出来た。
もちろんあの大男と結婚したのではない。言うまでもないが、子どもも大男の子ではない。
ダンナは友達の紹介で知り合った、ふつうのサラリーマンで、いい奴だ。
わたしたちの間にできた子は男の子。息子 は成長するにしたがって、わたしに似てきた。
ダンナはちょっと岩石みたいな顔つきで、いかつい。夫に似なくてよかった。
つまり、息子はとっても可愛い。そんな我が子も三歳になった。
あのシャワールームの件以来、あの大男はわたしのところに現れていない。
土曜日はいつも息子を寝かしつけてから、ダンナとセックスをした。
お風呂から上がり、髪を乾かし、Tシャツとパンツ一枚でビールを飲んでいると、いつもダンナが後ろからわたしを抱きすくめ、耳元で囁いてくる。
「ほら……言ってごらん……その『大男』は、どうしたんだっけ?」
「……バカ……やめてよ」わたしはいつものように繰り返す。「……思い出すのもイヤなんだからさ。わたしにとってはトラウマよ?……ト・ラ・ウ・ マ」
「最初に現れたのは12歳のときだっけ?」
「んっ……やっ……やめてったら」
ダンナはわたしの耳元で囁きながら、Tシャツの上からブラジャーをしていないわたしの胸を捏ねはじめる。
ダンナはシャツの布地越しのわたしのおっぱいが 好きだった。
そして、『大男』の話も。
「君は12歳だった……部屋の真ん中で、立ったままオナニーをしてたんだっけね……いけない子だったんだなあ……こんなふうにしてたのかい?」
「やっ……んっ……」
夫がわたしの手首を捕まえる……これもいつもと同じ。わたしにオナニーの真似事をさせようとしているのだ。ほんと、飽きずによくやるよ。
わたしは強引に導かれるふりをして、自分の手をパンツの中にすべり込ませる。
「濡れてる?……もう濡れてるだろ?」
「や、やだ…………やだ、ってば」
「そして、『大男』はどうしたんだっけ?……君の両手首を、こうして束ねて……」
「きゃっ!」
ベッドに押し倒される。Tシャツが剥かれて、投げ出される。
そして夫はわたしの両手首を頭の上で押さえつける。
「ほら……思い出してオナニーしてごらん……『大男』はどうしたんだっけ?」
「んっ……くっ……あっ……へ……変態っ!」
「ほら、恥ずかしがらないで……パンツも脱いじゃうか……」まるでAV男優だ。
「あっ……はっ……」
パンツが引き下ろされて、わたしは全裸になる。
そして夫は再びわたしの両手を万歳の形で押さえつけると……わたしの両脚を大きく開かせて……そのまま入ってくる。
「んんんあっ!」
「こんなふうに犯されちゃったんだねえ……『大男』に。まだ12歳のときに……かわいそうに……痛かっただろう……怖かっただろう……でも、どうだっ た?……ねえ、どんな気分だった?」
「……す、す、すごかった……」ぐいぐいと突かれながら、わたしは上ずった声で応える。
「感じちゃったの?……ものすごく感じちゃったの?」ダンナの声はさらに上ずっている。
「すっごく!すっごく感じちゃったっ!」
その頃には万歳に押さえつけられていた両手も開放されていたので、わたしは半身を起こしてダンナにしがみつく。
自分でも激しく腰をくねらせる。ダンナの 耳に、首筋に、唇にキスをする。
「い、いったん……いったん……抜いて……」
「え?」ダンナの声のテンションが下がる。わたしの中のものも、若干小さくなる。「い、痛かった?」
「ち、ちがう……の……」わたしは薄目を開けて、切なそうにダンナに訴える。「抜いて……さかさまにして……脚を肩に担いで……なめて。わたしが高校生のときに、あの『大 男』にされたみたいに……なめて、なめて、いかしまくって……わたしを、泣かせて……意識とんじゃうくらい」
「おおっ」
ぎゅうっ、とまた、わたしの身体の中でダンナのアレが大きくなる。
わたしも意地悪して思いっきり締め付けていたので、ダンナは(イッちゃわないで)抜き出すのに苦労する。
でも、目はギラギラしている。
そして、わたしの 両膝を肩に抱え上げると、わたしが望んだとおりのことを、ちゃんとしてくれる。
そしてわたしは、自分で求めたように、ちゃんとイきまくる。
ダンナにはすべてを話していた。『大男』に関するすべてを。
もちろん、本気にしてもらえるとは思っていなかった。ダンナはわたしのことを頭がおかしいと思うだろうか、と思ったこともある。
でもどういう反応をする だろうか、と思った部分もある。
ダンナは、わたしの話をぜんぶ聞いてくれた。否定せずに。
「……そうか……それで……」『大男』の話をぜんぶ聞き終わったダンナは言った。「それで、どうだった?……気持ちよかったの?それって」
「そりゃあもう!」わたしはそのとき、飛び跳ねたかもしれない。
この人と結婚することにして良かった、とわたしは心から思った。
その度に、ダンナはセックスのたび……子どもが生まれる前はほとんど毎晩、そして子どもができてからは毎週土曜日、『大男』のネタでわたしを責めてく る。
わたしは繰り返し、繰り返し、『大男』から受けた陵辱のことをダンナに語り聞かせて、そのときの様子をダンナの前で再現してみせた。
ダンナは大いに喜ん だ。そして、わたしを舐め、しゃぶり、揉み上げ、硬くなったものを突き入れて、激しく出し入れする。
「そうっ!……そんなふうに、そんなふうにされたのっ!……そう、そんな感じっ!」
「こう?こうされたの?こうなの?こんなふうにでかかったの?」
「そうっ!抱きかかえてっ!……ほら、あいつがしたみたいに抱き上げてっ!」
「よ、よしっ!」
夫は学生時代にラグビーをやっていたので、体力はある。
あの『大男』ほどではないけれど、けっこうな大男だ。
なぜわたしはよりによって結婚愛手にこんな大男を選んだんだろう。
いや、わたしの体験とダンナの体型は関係ない。関係ないはずだ。
ダンナはわたしを軽々と持ち上げる。そしてお尻を掴んで、支える。
わたしはダンナの首にしがみつく。脚を腰の後ろに回して、クロスさせる。
「こ、こんなふうに……されたの……」ダンナの耳元でささやく。「何も知らなかった12歳のわたしを、あいつは……こ、こんなふうにして犯したの……ね、ねえ、想像して……12歳のわ たしが、こんなふうにされてるとこ……高校生のわたしが、こんなふうに犯されて、泣き叫んでるとこ……大学生だったわたしが、大学の構内でこんなふうに犯 されてるとこ……OLのわたしが、スポーツジムのシャワールームで……」
「お、おれには、50本の指はないけど……それでもいいの?」今度はダンナが、わたしの耳元で囁く。「……その『大男』みたいに、50本の指できみをイか せまくられないけど……それでもいいの?……それでも、欲しい?……ほら、言ってみなよ」
そう言って夫はわたしを胸の前に抱え上げたまま、いきり立った先端で入口をくすぐったり、唇で乳首をすくったり、舐めたり、吸ったり、お尻をやわやわと 揉みあげてきたり、ときにはお尻の穴を触ったりする。
「やんっ!……いじわるっ!」
「……じゃあ、どうしてほしいの?」
ダンナがわたしの上半身を少し引き離し、わたしの顔を覗き込む。
わたしはダンナの目を見る。
ダンナには目がある。顔がある。あまりハンサムとは言えない顔だけれど、それが目の前で、はっきりと見える。
ダンナの顔は影になって隠れてはいない。高 すぎて、見えないこともない。
そしてちゃんとわたしに向けて喋るし、もちろんだけど、あの獣のような体臭はない。
「挿れて……」
「よ、ようし……」
ダンナが少しわたしのお尻を持ち上げて、入口に先端を沿え、ゆっくりとわたしの身体全体を沈めていく。
「んっ……あああっ……こ、これっ!これっ!」
そういって、わたしはいつも、早々にイってしまう。
『これ』ではないけれど。
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