大男
〜あるいは、わたしのレイプ妄想が生むメタファー〜
作:西田三郎
■7■ わたしが言わされたこと。させられたこと。
「あっ……あっ!……い、いやっ!」
降り注ぐシャワーのお湯。湯気で霞む個室の中、ぐっと頭を、下に押さえつけられた。
頭にシャワーが降り注ぐコーナーの中で、壁に手をついたままの格好で。
「いやあっ……!」
そしてさらに、お尻をますます高く持ち上げられる。
「はっ……んんんっ!」
男の大きな手が……ほとんど、天狗が持ってるアレ……葉団扇っての?……あれくらいのサイズの手が、わたしのお尻の両側の肉を掴んで、大きく左右に開 く。
「いやあっ!……や、やめてっ……てか、やめろバカっ!!」わたしは何とか叫んだ。情けない格好のまま。「……やめろっての!このバケモノ!変態!!レイプするしか能のないケダモ ノ!!変態巨人!!クズ!!ブタ野郎!!カバ野郎!!像野郎!!このエレファントマン!!ジャイアント馬場!!でかいだけが取り得のチンケな強姦野 郎!!………あっ……んんんっ!」
あらん限りの罵詈雑言をぶつけ、そろそろそのネタも尽きかけてきた時だった。
むきだしされた入り口の部分とお尻の穴に続くラインを、舌が……高校のとき、散々泣かされたあの舌が、べろり、と舐め上げた。
「やっ……やめっ……ろっ……って……はんっ!」
自分でも信じられないけれど、あえなく身体が反応してしまった。
男はわたしの腰を引き寄せると、さらに激しく舌を使い始める。
悲鳴をあげる。悲鳴だと 思ってあげたものは、たんなるスケベな喘ぎ声だった。
「……くっ……くううっ!」
必死で下唇をかみ締めた。大男の舌は止まらない。
それだけではなかった……わたしの腰を両側からつかんでいる男の指に……その野太い一本一本の指に……それぞれ5本ずつ、指が生えてきた。
信じられない話だって?……うん、わたしも信じられない。
馬鹿げた話だと思う。
でも、ほんとうにそのとき、男の指のひとつひとつが、子どもの手くらいの大きさになって……わたしの上半身を、下半身を這い回りはじめたのだ。
「う、うそっ!……なっ……なにこれっ?」
上半身のほうに移動した大男の右手の指が、にょろにょろと伸びる。
うち二本は……たぶん、親指と小指だ……それぞれに生えてきた5本の指が、わたしの おっぱいを荒々しく揉みしだきはじめる。
さらに人差し指と薬指は、わたしの肩から前のほうに伸びて、首筋を、耳たぶを弄りはじめた。
中指は左肩のほうから前に回りこんできて、わたしの顔を、鼻を、唇を這い回りはじめる。
それらの手は……まるで子どもの手だ。
爪がピンク色で、どれもピアノの先生が見れば悦びそうな、細くて繊細な指をしていた。
「いっ……いやあああっ……やっ……やだっ……これ何?……んっ……んんんっ……」
二本の指が、わたしの口の中に進入してきて、舌をもてあそびはじめる。
そんな調子だから、下半身を押さえつけている左手も、そのままでいるはずがなかった。
5本の指、それらすべてが指が生えてきたらしい。
もう、下半身のほうを見て、何がどうなっているのか確認する気すら失せていた。
確認しなくても、感覚がわたしに教えてくれる。
そのたくさんの指が……計算すると25本だ……わたしの 太ももの上を、お尻の上を、おへそを、そして……感覚が集中するあの部分を、入り口のあたりを、そしてお尻の穴を……思うがままに這い回る。
「……あああっ……あっ……んんっ……」わたしは口に侵入した指を吐き出して声を上げた。
男の舌の動きがさらに激しくなる。
「いっ……やっ……いやっ……いやああっ……いやいやいやっあっ!」
壁に手をついたまま、わたしはあえなく最初の絶頂を迎えた。
しかし、そんなもので許してもらえるわけがない。
わたしは、『大男』のことをよく知っている。
シャワー個室の床にへたり込もうとしたけど、男の指にそれぞれ生えた合計五〇本の指が襲い掛かってくる。
ふわり、と体を裏返され、背中に壁を押し付け られる。
10本の手が、わたしを引きずり上げた……シャワーヘッドの上、遥か上……このシャワールームの天井近くまで。
わたしの全身をくまなく弄り回し ながら。
隙間という隙間、膨らみという膨らみ、へこみというへこみ、平らなところ、なだらかな部分、わたしの身体の表面すべてに50本の指が這い回る。
そ して受け入れる隙のある部分には、すべて細い指先が侵入してくる。
「あっ……んっ……はあっ……あうっ……はあああっ……いやあっ……っていうか………」
“ていうか”?
ていうか、何だというのだろう?
いやもう、確かに気持ちよくて仕方がなかった。
ゲテモノ料理を味わったり、おぞましい画像をネットで見たり、あるいは仕事で疲れきっているというのにこ うやって『ストレス解消』という名目で泳ぎに来たり……そういえばわたしにはそういうイヤなことに対して気持ちよさを感じる、変態的なところがあるのかも しれない。
だからといって、
「って……っていうかっ……そこ……もっと触って……激しくこすっちゃって……」
などと口にしてしまったそのときのわたしは正気だったろうか。
正気も何もない。すべてが異常で、非現実的だ。
だってわたしの人生でこの男が現れるのは4度目。
そいつは3メートル、もしくは4メートルを越える背丈があって、しかも現れるたびに大きくなっている。
そいつの顔は見えない。
音もなくどこにでも現れては、わたしを犯し、音もなく去っていく。何の痕跡も残さずに。
しかも今日、そいつは『現実』として認識できるレベルを超えて、“変身”した。
5本の指をそれぞれ5本の指がついている腕に変形させ、それでわたしの全身をいたぶっている。
「あっ……あああっ……もっと、もっとちゃんとしてよ……ちゃんと触ってよ……」
わたしは恋人に囁きかけるように大男と、その50本の指たち求める。
わたしは狂っているだろうか。正気じゃないだろうか。
もうどうでもいい。
指たちがわたしの要望に応えて、さらに激しくわたしの全身を刺激しはじめた。
すべていい感じにほぐされた穴という穴、すべていい感じに昂ぶらされ、尖らせられた突起という突起を、指たちが情け容赦なく攻撃する。
「あっ……もっ……もう少しっ……も、もう少しでっ……あああんっ!」
身体の表面が全部裏返ってしまうかのような絶頂の寸前で、指たちが一気にわたしの身体から退いていった。
わたしはシャワーブースの床に、ぺたんと座り込 み、遥か上空の大男の顔を見上げた。
わたしは、どんな顔をしていたのだろう?
男の顔は相変わらず高すぎて見えない。
わたしはたぶん、おっそろしく、もの欲しげで、お預けを喰らった犬みたいな顔で、大男を見上げていたんだろう。
「なっ……なんで?」わたしは言った「な、なんでやめちゃうの?」
と、わたしの目の前に、何かがにゅっと突き出してきた。
わたしは寄り目でそれを見る。
ペニスの先端だった。
先からよだれを垂らしている。
『大男』のものとは思えない。
これまでに3度も、わたしは自分の身体でそれを受け止めているので、それが大男のものとは違う、まあ標準的な……何が標準的なのかはわからないが……サ イズのものよりも、一回りほど大きめの、人間らしい亀頭だった。表面はつやつやとしていて、脈打っている。
目を凝らすと、大男の巨大なアレが手を伸ばしても届かないような距離のところで、天井に向かって垂直に立っているのが見えた。
その根元から、 恐ろしく細長い別のアレが伸び、わたしの目の前でその先端を揺らしている。
「……そういうことか……」
わたしはシャワールームの床に正座するような形で座り直すと、顔にかかった前髪を右耳の後ろに掛け、上半身を倒した。そして、目を閉じて……その先端を 口に含んだ。
そう、それはわたしの口にちょうどぴったりの大きさだった。
わたしはゴムホースのように長く、固い、けど太さはそれなりの茎の部分を両手でしごきながら、頭を動かし、舌を使って愛撫を続けた。
先端から湧き出して くる液はとめどがない。わたしはそれを出来る限り飲み込みながら、頬の裏や舌の裏を使ってそれを喜ばせた。
大男の顔が見えればいいのに、とも思った。
その後?……口の中にたっぷり出されてから、それを飲み込まされた。
それから抱え上げられ、大きな方のアレで串刺しにされて……って詳しくは言わない。
いつもと同じだから、もう退屈でしょ?
そしてわたしはその晩、数え切れないくらい、イった。
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