大男

〜あるいは、わたしのレイプ妄想が生むメタファー〜



作:西田三郎


■4■ 夜道にて

 高校1年生のときは、塾の帰り道……公園の茂みの中で、あの大男に犯された。
 小学校6年生のときに自宅の寝室であった出来事のことは、あれ以来ずっと自分の中で、『夢だった』と消化しようとしていた。
 もちろん、かなり強引に、だ。
 そんなにあっさりと、あれほど強烈な出来事を『夢だった』ということにして自分を納得させることなんてできない。頭ではそう思おうとして も……こんな表現、マジでイヤなんだけど……身体があの感覚を忘れてくれない。
 わたしはその頃、近所の塾に通っていた。
 個人経営の塾で、先生はやさしいおじさんだった。
 「気をつけて帰るんだよ……最近はヘンな奴が多いからねえ……」
 その日、わたしが塾から出るとき、先生はそういって中学の制服だったセーラー服の青いカラーの肩をぽん、と叩いた。
 その感覚も、忘れることができない。 わたしは確か、笑顔でこくん、と頷いたと思う。
 先生に叩かれた肩の感覚もまだ残っているうちに、バカだった16歳のわたしは、人通りの多い商店街ではなく、近道になっていた公園の抜け道を通って帰ろうとした。ほんとうにバカだった。
 しかも、公園の通路ではなく、気が生い茂る茂みを駆け足で抜けて走っていた。
 9時からはじまるダウンタウンのお笑い番組に遅れたくなかったからだ。ほんと、バカ。
 
 でも、わたしはほんとうに、自分で自分を責めなきゃならないくらいバカだったろうか?
 大の大人で、わたしが男だったら、それはバカな行為にはならないわけでしょ?
 わたしが高1で、女の子だったから、それはバカな行為だった、ってことになるわけでしょ?
 高1で、夜遅くに、セーラー服を着て、公園の茂みを走っていたから、襲われなきゃなんないわけ?
 それで、なんでわたし自身、自分のことをバカだなんて思わなきゃならないんだろう?
 
 とにかく、もう少しで明るい広場に出るところだった。
 そこで、いきなりわたしの前方の視界が暗くなった。
 はっ、とする。忘れようとしても忘れることができない、あの獣じみた体臭が鼻をつく。
 全身の肌が、ざわっ、と泡立つ。
 わたしは自分をさえぎっている大きな影を見上げた……そこに立ちふさがっていたのは、やはりその2年前、わたしの部屋でわたしを犯したあの『大男』だっ た。
 突然、氷水のお風呂に漬けられたみたいな恐怖で、わたしはその場に釘付けになった。
 男は大きい……前に現れたときは、わたしの部屋の屋根の高さを通り越して……信じられないくらい背が高かった。その顔は、あまりに高いところにあるの で、影に覆われていた。
 4年間が経ったので、わたしも少しは身体的に成長していた。 
 痩せているのは変わらないけれど、中学入学からずっと水泳部に入り、鍛えていたので、身体はしなやかだった。
 背もその間に14・5センチ伸びたし、おっぱいも微かに膨らんだし、お尻も少し丸くなっていた。
 って……おっぱいやお尻に関してはどうでもいい。とにかく、12歳のときから14・5センチも背が伸びていたわたしの目から見ても、男は前回よりずっとと大きかった。今回、男の 頭の上には、男の背を制限する屋根がない。そのせいか、男の頭は遥か上空に見えた。ざわざわと風になびく、真っ黒な……そのときは、そんな色に見えた……公園の高い木々の葉の中に、男の顔が隠れてい る。
 大げさに言ってるんじゃない……ほんとうに、男の顔は、高すぎて見えないのだ。
 4年前、男に触られた感触が身体に蘇ってくる。
 掴み上げられた両手首に、握り、広げられたお尻に、そして……あの巨大なアレで蹂躙された、わたしの体内に。
いやあっ!!
 わたしは声を上げて踵を返し、反対方向に駆け出そうとした……でも無駄だった。
 どん、と背中を激しい力で突かれる。
「うっ!」
 わたしは芝生の上に、つんのめって倒れた。
 あわてて、起き上がろうとする……しかし、足首を掴まれて、また引き倒された。
「やめてっ!……だれかっ……誰か助け……ひゃあっ!」
 わたしの視界が、ぐるり、と上下に180度回転して、ふわり、と引き上げられる。逆さづりになって、持ち上げられたのだ。
 男はわたしの右足を掴んでいる。ぐん、と地面が遠くなる。
 制服のスカートはみごとに逆さになって、わたしのパンツどころかお臍くらいまでが丸出しになっていたと思う。
 ちょっと伸ばしていた前髪のピンも外れて、無残に垂れ下がり、顔を覆う。
 ぐん、とまた芝生の地面が遠くなった。落ちれば、ただではすまない高さに思えた。
  男のごつい指が、下着に触れる。裏返しになっているスカートに頭まで覆われていても、男が何をしようとしているのかくらいはわかった。
だめっ!……いやああっ……!」
 片足で中つりになったままもがくと、はるか下の地面がぐるぐると回る。
 それでもわたしは必死に抵抗した。逃れようと脚をばたつかせた。でも、効果ゼロ。 まったくの無意味。暴れまくったけど、大男に、もう片方の足首も掴まれる。まるで、狩られて捌かれる前のウサ ギだった……そのころちょうど、テレビのドキュメンタリーでそんなのを見た。
 両脚を束ねてつかまれ、中吊りにされると、わたしにできることはもうなにもない。
 お尻からぺろん、とパンツを剥がされる。
「だめっ!……いやあっ!……やだやだっ!」
 するすると、太腿から膝小僧を、そして脛へ、パンツがわたしの脚をずり上がってていく。……逆さ吊りになってパンツを脱がされるのは、もちろんはじめての経験だ。いや、そんな体験をした人がほかにいるだろうか?
 やがて、足首から抜かれたうすいブルーのパンツが、ひらり、と舞いながらわたしの顔の下に舞い落ちていった。
 地面に到達する頃には、大男の手はスカートのホックをさぐっていた。
「……お、お願いだから……や、やめて……」
 『大男』はわたしを、この公園の茂みの中で、逆さ吊りにしながら、裸にするつもりなのだ。
 恐ろしさもあったが、そんな恥ずかしい目に遭わされても、まったくなす術がない自分に、情けなくて涙が出てきた。
 やがて、わたしの上半身と頭のまわりを、ふわり、と紺色のスカートが落ちていった。
や、やだあ……こ、こんな……の……」
 涙が溢れて、おでこを伝って落ちた。でも大男は、さらにわたしを辱めるつもりだったようだ。
 逆さ吊りのまま、ぐるん、と身体が回転する。
「えっ……あっ……」
 なんとか腹筋で上身体を起こそうとしたけど、だめだった。
 中学3年間と今日まで、ずっと水泳で鍛えてきたのに。
 また、ぐん、と身体全体が持ち上げられて……男がわたしの左右の足首を、そのばかでかい手でそれぞれ握った。
 反射的に……何をされるのかがわかった。
「いやあああっ!」
 ぐばっ、っと……ていうか、がばっ、と……両足が思いっきり左右に開かれる。
 大男の顔は相変わらず見えないが、その目の前で、わたしの恥ずかしい部分のすべてがさらけ出されいる。
 そんな。めちゃくちゃだ。あんまりだ。
 わた し、まだ16歳だったのに。
 なんでそんな……なんでそんな辱めを受けなければならないのか、あまりの理不尽さに気が遠くなりそうになった。
やめてってばああ!!」わたしはなんとか腹筋で身体を起こそうとしながら言った。「やめてよ!
 だめだ。水泳で鍛えたくらいでは、とても太刀打ちできない。
 水泳部じゃなくて、空手か柔道か何かをやってればよかった……と、バカなことも考えた。
 ただ、『大男』はそんなもんで太刀打ちできる存在ではない。わたしは恥ずかしさと無力感に打ちのめされ、すべてを諦めようとした。

 しかしわたしを待ち受けていたのは、わたしの覚悟も打ち砕く、もっと凄まじい恥辱だった。
 ぐん、とまた身体が上空に持ち上げられる。
 『大男』はわたしの両脚を思いっきり広げさせると……まるで岩石みたいな、丸太みたいな、学校の 跳び箱みたいな……それくらいがっしりとした左右の肩それぞれに、わたしの膝を抱え上げた。信じられない。こんなのってあるだろうか。
「ひっ!……ひゃっ……」
 ふうう……。
 いちばん恥ずかしい部分に、大男の息が触れた。
 男は無言だ。
 ふうう……ふうう……ふうう……ふうう……と、4年前に自分が犯しぬいたその部分を懐かしむように、わたしをからかっていじ めるように、息をふきかけてくる。わたしは逆さ吊りのまま、涙を流し、しゃくりあげ続けた。もう、恥ずかしさと口惜しさで、言葉も出てこなかった。この大男は、どこまでもわたしを辱める つもりだ。きっと、永遠に。わたしが死ぬまで。それを確信した……でも、あきらめて抵抗をやめたとたん、もっと恥ずかしい運命がわたしを待ち受けている。その繰り返しが、続くのだ。

 ぬろっ。

「きゃあああっ?」
 舌だった。
 大男の舌が、その部分をべろり、と舐め上げた。

 そこから本当の屈辱がはじまった。


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