で、奥さんあんたいつも
ドンナふうにナニしとんねん。


作:西田三郎


■5■ 口淫、コンドーム、フィニッシュ

「奥さん、尺八されまっか」
「…………」わたしは、うつろな目で部屋の汚れた天井を見上げていた。
「ああ、尺八って、ちょっと言葉が古すぎやったかもしれまへんなあ……おしゃぶり、ナメナメ……まあようするに、うまいこと上品に言う表現が出てきまへんけど、ようするにフェラチオのことですわ」
「……オーラル・セックス……っちゅー表現もありますよね」自分の声に、生気がない。「で、それ聞いて、何をどうしよう、と思たはるんですか?」
「“オーラルセックス”かあ……」刑事が好色そうに上目使いでわたしを見る。その視線は、わたしの唇を捉えている。「……いやあ、奥さんの口からそういう言い方が出てくると……なんか変な気分になってきまんなあ……ほお……へええ……なるほどなあ……その口で………」
「あの、もういいですか?」帰れば誕生パーティーが待っているわけではないが、帰りたくて仕方がなかった。「……もう、帰らせてもらえます?」
「……いやいやいやいやいやいやいや……こんなことをお聞きするのにも理由がりましてな……」

 刑事が、噴飯ものの説明を始めた。
 曰く、かいつまんで言うと、『女性が男性の性器を見ていなければ分からない事実で、性器の形状を供述すれば容疑内容を特定する上での判断材料になる』そうだ。
 性器を見る、というのと、フェラチオがどう結びつくのかわからない。
 高校の物理のときに先生から説明された、ホーキング博士の宇宙論くらいわからない。

「ほんで、いつもナマでっか?ゴムありでっか?……それともナシでっか?」
「………………………………」

 答えなった。それ以降、わたしはその刑事に向けて、一言も言葉を発しなかった。
 しかし、刑事はまた、その質問の理由について、途方もない説明を始める。

 曰く、『コンドームをつけるか否かは、性交意欲の強さや事件当時に冷静だったか、慌てていたかを判断する材料になる』そうだ。

 それは、犯罪現場のハナシやろーが。
 普段のセックスと、何のカンケーがあんねん。
 あの男(檻に入ってる男)が事件当時、冷静やったか慌てていたか、って、そんなもん、普段ゴムつけるかつけへんか、うちに聞いて何がわかる、っちゅーねん。
 ちゅーかもう、うち、あの男のことなんか、ほんまマジでどーーーーーーーでもええねんけど。

 わたしが無反応でいるのに、刑事は質問をやめない。

「で、ゴムなしでシタときは、フィニッシュはどないしまっか?……(フィニッシュ、て)……どこにかけられまんねん?……お腹でっか?……おっぱいでっ か?……それとも、そのお口ででっか?……最近、流行りまへんけど、奥さんのその綺麗なお顔にでっか?……いやあ、そうやったらほんま、ほんま、ほんっま にけしからん話でんなあ……ああ、最近の流行りは中出しだすけど、奥さん、中出しされると、やっぱりちゃいまっか?」

 これは悪い夢だ、とわたしは思った。
 わたしは今、悪夢にうなされているんだ。
 その、いわゆる『フィニッシュ』(それにしても、フィニッシュて)に関する説明も、悪夢じみていた……というか、ほとんど狂気の世界だった。
 曰く、それを聞く理由は『性欲が満たされているかという動機の指標になる』そうだ。

 なに言うとんのかさっぱりわからんわ。
 あんたとはやっとれんわ。

 その後、刑事は延々としゃべり続けたが……わたしはもう、彼が何を言ったのかいちいち記憶していない。



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