で、奥さんあんたいつも
ドンナふうにナニしとんねん。


作:西田三郎


■4■ 「SかMか」と体位

「奥さんは、そんなことおまへんか?」
ないです

 答えてやるべきかどうか悩む前に、即答していた。

「……そんなことおまへんやろ……そうやって、ダンナさんにゴーインに迫られたら、ちょっとMっ気出てくるとちゃいまっか……ウットコのヨメみたいに……」
「だから」また咳払いする。「ないです」
「あれでっしゃろ……強引に脱がされる、っちゅーんは、女性にしてみると、ドクトクの快感があるらしいでんなあ……(どこで仕入れてきたんだ。そんな情 報)……まあ、相手がゴーカン魔や痴漢やったりしたら話ちゃいまっしゃろけど……(この男は、言葉のゴーカン魔であり、痴漢である)……相手がダンナさん やったり、彼氏やったりしたら……相手がハアハア言うて、自分のこと押し倒して、毟られるみたいに服脱がされたりすると……どうしてもMの方の気分が、盛 り上がってくるとこでっしゃろ?」
「……………」黙秘だ。
「そうなると、女性のほうも、『いやん』とか『だめん』とか自分で言えば言うほど、どんどんコーフンしてくるもんや、っちゅー話でっせ……(だから、どこ で仕入れた話なんや)……奥さんも、そんなふうにダンナさんに、レイプっぽい感じで服をアラアラシく剥されると、いつもよりちょっと、コーフンしはるんと ちゃいまっか……ブラジャー取られたら、わざと両腕で胸隠してみたり……そんなん、しはりまっしゃろ?……」

 そう言って、刑事はわたしのセーターの胸を、あからさまにじろじろと眺めまわす。
 わたしは反射的に、いちばんしてはいけないことをしてしまった。
 その視線があまりにもおぞましかったので、セーターの前で腕組みして胸を庇ってしまったのだ。

 刑事が、「おお」とはっきり言って、身を乗り出す。
 茶色く濁った白目を剥きだしにして。

 わたしのその仕草が、刑事の頭の中でどんなふうに変換されているのかは明らかだった。

「……やっぱり……」何が、“やっぱり”なんや。「ふ、ふうん……ほうほう……さいだっか……ほな、アレでっか……そういうゴーイン系のプレイ(刑事は、 そのとき、はっきりと『プレイ』と言った)でパンツ脱がされるときは……わざとパンツを下されへんよう、自分のパンツの裾掴んでテーコーしてみせたりしは るわけでっか……はああ……ふううん……へええ………いやあ、奥さんキレイな顔で、クール系やさかいに、パッと見はSっぽい感じしますけど……いやあ、そういう、パッと見Sっぽい女の人が、ソノ時に見せるMっ気っちゅーのは……ほんま、辛抱たまらんもんがありますなあ……」

 一人でウンウン頷きながら、刑事がまた調書にボールペンを走らせる。
 自分が座っているパイプ椅子が、まるで拷問器具のように感じられて……わたしはあまりの居心地の悪さに、椅子の上で身をよじった。

 もちろん、刑事はその動きも見逃さなかった。

「……僕ん家では、そーいうゴーイン系プレイのときは、バックですわ」
「は?」
「いや、そーいうときは、いちばんしっくり来るんは、バックちゃいまっか、奥さん……僕はいつも、嫁の服、全部ハガして、アソコがもう準備バンターン!っちゅー感 じになっとんのを確認したら……もう前戯もそこそこに嫁はんの身体、畳の上で裏返したりますねん……ゴローン!みたいな感じで……『ちょっとあんた、何すんの ん?』とかなんとか、嫁はんも僕が何するつもりなんか、分かりきっとるクセして、言いよるんですわ……ほんで、嫁はんの腰、ガッチリホールドして……『お いこらワレ、ケツ突き出さんかい』とかなんとか言うて、四つん這いの恰好、まあ言うたら、ワンワンスタイルにしたりまんねんわ……『あかん、こんな恰好、 恥ずかしいわ』とかなんとか、嫁はんも言葉でサービスしてくれよるんでっけど……あれですか、奥さん。女性陣からしてみたら、バックスタイルでハメられ る、っちゅーのは、やっぱりクツジョクテキなもんがありまんのか?」
「知りません」
「奥さんはどないです?……いつも、ダンナさんとスルときは、どんな体位が好きでっか?」
「……それ、聞いてどないしはるんですか?」

 ろくな答えは期待していなかったが、一応、聞いてみた。

「いやまあ性犯罪者……いや、気分悪うせんといてくださいよ……お宅のダンナさんの事やけども……そーいう性犯罪者っちゅーのには、独特のクセ、っちゅー かセーヘキ、っちゅーんがありましてな。これは、警察に協力してくらはる心理学者のセンセーやら、FBIやらなんやら、そのへんのデータにも裏付け られとるらしいんですけど……そういうセー犯罪を犯すタイプの男、っちゅーのは、ナニするとき、体位にこだわりまんねんわ……できるだけ、相手をクップク させる形の体位やったり、相手にハズカシイ思いさせる体位やったり……まあ、多くの場合、バックが好きらしんですわ」
「あの」わたしは、怒りで身を乗り出していた。「刑事さん、あんたさっき、うちに『どんな体位が好きなんか』って聞きはりませんでした?……そう聞きはり ましたよね?……あの男がどんな体位が好きか、って聞くんやったらまだハナシわかりますわ。でもなんで、うちがどんな体位が好きか、そんなこと聞かれなあ きませんの?……ハナシ、コンポンテキにおかしいんちゃいますか?」
いやいやいやいやいや」そういって刑事は目の前のハエを払うふりをする。「ちゃいま、ちゃいま。奥さんとダンナさんは……日常的にナニ……その、最近は月2、3回でっか?……したはったわけでっしゃろ?……そやさかい、ダンナさんの好む体位に合わせて、奥さんがその体位 を好むようになっとる可能性もありまんねんわ」
「それ、心理学者が言うてるんですか?……それとも、FBIが言うてるんですか?」
「まあそれに加えて、僕のケーケンと実績とチョッカンもそう言うてま。まあ、そないなわけやし、僕らとしては、奥さんとダンナさんがどんな体位ですること が多かったか、っちゅーんが、ハンザイをツイキューする上でも重要になってきまんねん……何卒、そのへんはご理解とご容赦を……」
「もう、いやです」
「そないなこと言わんと……奥さん、バックでハメられるんは好きでっか?」
「…………」黙秘。
「ヨコハメはどないだす?」
「…………」黙秘。
「●●●●は?」

 刑事が何か、聞いたこともない体位の名前を言った。
 わたしは、もう言葉で抵抗する気力をすっかり失っていた。

 さらに質問の名を借りた尋問という形のイヤガラセは続く。


NEXT / BACK
TOP