ノルウェイの鮭
作:西田三郎

「第10話」

■悲しい知らせが入るまで

「……へえ……世の中にはいろんな人がおるねんなあ……」
山の上のキチガイ病院から戻ると、僕はミドリの住むエロ本屋の2階へ直行し、みどりと緑のことを、ミドリに話して聞かせた……どうもややこしいが、辛抱してほしい。ミドリは本気で感心して聞いていた……とくにオナニー狂い11歳の少女・緑のことを。
「そんなん、信じられるか?笑えへんやろ?」
「うん……なんか、すごい可愛そうやね。緑ちゃんも、みどりさんも」
「……“みどり”っちゅう名前は、不幸を呼ぶんやろうか?」
「…そやね」みどりはそう言って猫のような軽やかな仕草で僕にしなだれ掛かってきた「あたしも、こんなけだもの慰みものになってるし」
「……けだもの?僕が?」ミドリが上目使いで僕を見上げる。“ヤッてくれ”の合図だ。
「……キチガイ病院に入ってる恋人に会いに行った帰りに、あたしのところにヤりにくるようなケダモノやん。自分」
「……言うたな……」ミドリの後ろに回り、薄手のサマーセーターの上から胸を掴む。
「あっ」薄目でミドリが僕を省みる「もう……なにすんのん。けだもの
「なあ、君は……」胸を揉みこみながら、ミドリのジーンズの前ボタンに手を掛けた「……君は、いくつからオナニーはじめた?
「……えー……なんでそんなん聞くん?」ミドリはジーンズの前ボタンを外していく僕の手の上に手を被せて、形ばかりの抵抗を見せた「……何?自分……ひょっとして、ちいさい方の緑ちゃんに欲情してんのとちゃうやろな
「…………かもな」
「“かもな”か……自分、やっぱり喋り方がおもろいわ………んっ」
ジーンズの前をすっかり開いて、シルク地の下着の中に手を入れた。すでに熱くなっている。ほんとうに、いやらしい女だ。“みどり”という名前の女の共通点……不幸で、いかれていて、みんな助平である。
「……ほれ、言うてみ。いったい、いくつの時からここに自分で悪戯してたんや?」
「…………変態。…………ロリコン…………んっ……くっ」
 おそらく小さな子供の頃から飽くことなくミドリ自身が転がしていたであろうその部分を、僕はからかうようにくすぐった。
「六つの頃から?」
「……そんなん……ちゃうよ…………あっ」
「……正直に言い。七つの頃からか?」
「………もう………あたし、そんなエロないよ
「……じゃあ、幾つの時からやってんの?…………」
 ミドリを膝の上に載せ、少し強弱をつけて転がしてやる。面白いようにミドリの背筋が跳ね上がり、ジーンズの尻がうねった。
「……いや……お尻に……当たってる…………ちょっと、めちゃ固いやん
「……早う答えなさい……幾つの時からオナニーしてんの?」
「………もう、変態11のときから。ちいさい緑ちゃんと同じ年の頃から……あっ」
「……緑ちゃんみたいに、学校のトイレとかでしたことある?」
「……あほか、あんた。そんなこと………んっ………するわけないやろ。……キチガイやないねんから」
 情け容赦なく指を動かした。ミドリが「ああっ」と嗚咽するような声を出して、ますます強く尻を擦り付けてくる。11歳のミドリがおっかなびっくり、人目を忍んでオナニーをしている様を想像した。想像の中で11歳のミドリは、頭をくるくるパーマにしただった。ややこしい?ちょっと辛抱してくれ。
「……はじめてイッたのはいつ?」
「………もう………ええやろ……やめようや……そんな話」
「………なあ、いつ?」
「はっ」中指をするり、と奥まで入れる。「……いやあ……パンツ、汚れるやん
「よっしゃ」
 ミドリを畳の上に押し倒す。ジーンズを剥ぎ取って丸め、部屋の遥か向こうまで投げた。ショーツに手を掛けると、ミドリは少し腰を浮かせて協力してくれた。このど助平が。
「ほんまや……下着、もうべちょべちょや」脱がせたショーツをミドリの目の前に翳した
あほう!!」ミドリが膨れっ面でショーツを僕の手から奪い取る。そのままミドリは、畳の上に仰向けに寝転び、腰をよじって恥毛を僕の視線から逃そうとした。僕から目を背けている……本気で怒ったかな?ちょっと調子に乗りすぎたか
「……ごめん、すぐ挿れたるから、許して
「……なんやそれ………あんっっ!!」
 何と、手を添えずに挿入できた。生まれて初めてのことだ
「………ああ……すごい……熱い……きつい……」
「………あかん……自分、今日、なんか………なんか………スゴいで
 腰を使い始めた。ゆっくり挿れて、抜ける寸前まで抜いて、またゆっくり挿れる。アホのひとつ覚えのようにその動作を繰り返した。みどりは人差し指を噛んで、必死に声を堪えている。サマーセーターを胸の上までたくし上げた。もともと白い肌が、すでにうっすら紅く染まっている。背中に手を回してホックを外し、ブラジャーもたくし上げた。みどりに比べて、ミドリの胸はそれほど大きくない。左右の人差し指に唾をつけて湿らせ、乳首を同時に転がした……ミドリはついに、声を堪えきれなくなったようで、細い悲鳴を上げはじめる。
「………あ………ん……あかん……あかんて……それ………もっと……」
「………で、はじめてイったんはいつや」
「………あんた、ちょっと……しつこいで……ほんまに変態やん」
「………」腰を止めてやった。
「……ん……」
「………ほら、言わな、やめてまうで」
「……変態……ロリコン……けだもの……」ミドリが熱っぽい目で恨めしそうに僕を見る。
「……ほれほれ」2、3回腰を使った。
 「………ああんっ……もう…………わかった………わかったよ……言うから……」
 「……いくつの時にはじめてイったの?」
 「……」ミドリがもう一度僕を睨み、顔を背けて小さな声で言う「じゅういち
 答えを聞いて死ぬほど亢奮した。11歳は淫らな年齢である。どいつもこいつも助平だ。そんなガキの頃から色気づきやがって。この淫売ども。売女ども。いったい親が知ったらどう思う?自分の可愛い娘が、11の頃から布団の中でモゾモゾして、オルガスムスを迎えているなんて。しかもあのちいさな緑は、授業中に初アクメを迎えたそうじゃないか。世の中どうなってる?みんな狂ってるのか?みどり、ミドリ、緑……みんな同じだ。顔が違うだけ。あと、一番ちいさな緑とは僕はまだやっていない。……一体何を考えてるんだろう。自分でもわけがわからなくなってきた。僕の人生に、3人の“みどり”が居る。多分、これからも僕は、“みどり”という名前の女と出会うだろう。死ぬまでに、どれだけの“みどり”に出会うのだろうか?
 あと自分がどれだけ持つのかとか、突き方にどんな工夫をするかとか、そういうことを一切考えずに、突きまくった。
 ミドリは躰を弓なりに反らせて、町内中に聞こえそうなくらいの喘ぎ声を上げていた。
 こんなに激しく応えるミドリを見るのははじめてだった。
「……あかん……あかん…………あ、あ、あ、あ………あああ……」
「……みどり……みどり……」
「………」ミドリが喘ぐのをやめた。電池が切れたように、ピタッと。
「何や、どしたの?」
「………いま、あたしのこと、ちゃんと呼んだ?
「え?」
「さっき自分が呼んだ、“みどり”って、あたしの事?
「……え……」意表を突かれた。確かに。確かに僕は、どの“みどり”を呼んだんだろうか。
「……自分、かわいいな」みどりがまた意地悪な笑顔を浮かべる「うまいこと、ウソつかれへんねんもん。全部、顔に出るし」
「………」
「……それやのに、同じ名前の女の子、3人も手玉に取ってんねんもんなあ。自分、ほんま果報者やわ」
「………ごめん」萎えてきた。
「………まあ、ええわ」ミドリが視線を反らせる「好きな“みどり”のこと思って、ヤッて。あんたと今ヤってるのは、あたしなんやから」
「………」何故か、少し、泣きそうになった。しかし、固さは戻ってきた。「……ごめん」
「謝らんといてえな………ほら、………もう………あたし、こんなになってんねんで」
ミドリは僕と結合している部分から溢れる液を、指で掬い、それを自分の目の前に翳して、うっとりと見た。この上なくいやらしい光景だった
「……でも、多分、あたし、3人の“みどり”の中では、一番エッチで感度ええと思うで
「………ほんまや」ほんとにそうかどうかは別として、僕はとりあえずそう答えた。
「…………突いて……いかせて
 要望どおり、猛烈に突きまくった。ミドリは半身を起こして、僕の首に手を回してきた。
 下では繋がったまま、上の口でも繋がった……ちょっと表現が下品だったかな。ようするに僕らはそのままキスをした。お互いの舌を、お互いの舌で転がしあった。濃厚で、長い長いキスだった。唾液と、それに含まれた雑菌が、ふたりの口の中を行ったり来たりする。
 出し抜けにミドリが口を離した……下の結合部分が、ぎゅっときつくなる。
 ミドリが固く目を閉じ、大きく伸び上がり………ぐったりと僕に抱きついてきた。
「……ん…………ああ……」とても静かに、ミドリはった。

 その頃、あの山の奥の病院を取り囲む森の中で、みどりが逝ったのを知ったのは、1週間後のことだった。
 陳腐だろう?でも、本当のことだから仕方ない。
 人生は陳腐だ

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