大きくて、固くて、太くて、いきり立つ魔法
作:西田三郎
■8■ 吊り下げられて
とはいえ、こんなに久々で、確実な、カチカチ山なのです。
ヤスはワイルドモードで、わたしに襲い掛かってきました。
「な、何?ちょっと……ちょっと待って……」
いきなりジャケットを脱がされると、ドン、とソファに突き飛ばされ……ここまではこれまでと大して変わりません……いきなりスカートの中に手を突っ込むと……なんと、ストッキングをビリリッと音を立てて引き裂きはじめたじゃありませんか!ええっ!何これっ!
「ちょっとちょっとちょっとちょっと!何すんの?これ、さいきん買うたばっかり!」思わず、素になってしまいまいた。「ちょっと、やめてっ!……ちゅーか、やめーさ!!!」
とはいえ……もうストッキングは無残な状態。今更なにを言っても、ストッキングは元には戻りません。
仕方ない……と諦めたとたん、今度はわたしのほううに、エッチな気分がわきあがってきました。
「いやっ……やめてっ……ヤスっ……じゃなくて……クニトモさん……」
「おうっ」ストッキングをもうぼろ雑巾のようにしてしまった夫が、わたしたちの苗字で呼ばれたことに、やたら露骨な反応を見せました。「……それ、ええなあ……ええでえ……奥さん……そう呼んでくれや……奥さん……」
そこでわたしは、はじめて夫の……というかヤスの……っていうかクニトモさんの……アレを目にしたのです。思わず……目を見張ってしまいました。
え えっ?って感じです。マジ?って感じでした。それはもう、ブルーベリーみたいな色に染まった、テラテラ光る一匹の怪物でした……あの、シガニー・ウィー バーが出て、やたらとシリーズ化されたあの映画に出てくる怪物、あれは男性器をイメージしてデザインされた、ということをどっかで読んだことがあったよう に思いますが、それを目にするまで……え、男性器ってあんな形だっけ?って思っていました……つまりアレは、こういう状態の、目を背けたくなるくらい にまで張り詰めた、禍々しい男性器のイメージだったんですね……いまにもそれだけが、わたしの顔めがけて襲い掛かってきそうで……怖くなると同時に、ゾクゾクと背 中が痺れ、さらにちょっとだけ……夫が心配になりました。
あんなになっちゃって……ホント、健康被害とかないんだろうか……?
「えっ……何っ???なに???」
いきなり夫が、カーゴパンツの脇のポケットから、毒々しい赤いファーのついた手錠……のようなものを取り出します。
えっ、えっ、何あれ。あんなの、いつ入手したの。
そして、わたしの両手首を掴み上げると……器用に前手錠の状態で、わたしの両手首を拘束してしまったのです。えっ……この前のセーラー服といい、こんなのといいこんないかがわしい器具といい、ヤス、こーいう趣味だったの?
結婚してもうすぐ10年になるけど……そ、それにしても。
「いやっ!こんなん、いやや!外して!」わたしはちょっと本気で言いました。「変態!」
「……奥さん、あんたには今日、おれのおもちゃになるしか選択肢がないんや……往生しなはれ……」
「外せ!あほっ!」拘束された手で、ポカポカとヤスの頭を殴りましたが、ちっとも感じていません。「い、いやっ……ひゃあっ!」
ふわり、と身体が浮いて、ヤスがわたしの身体を抱え上げます。まるで、西部の荒くれ男みたいに。
わたしより身長の低いヤスに、そんな力があるとは知りませんでした……てか、これもあの、ヘンな薬のせい?……だとしたら、ホント、マジでヤバい薬なん じゃないの?……とか思っているうちに、わたしはリビングの中央へ……滑車がぶら下がる下へ、運ばれていきます。脚をバタバタさせて、拘束された手で背中 をどんどん叩きましたが、ヤスはまるでターミネーターのように、ちっとも感じていません。
「どっ……どないするつもりなん?」怒った目でヤスを睨みます。
「奥さんが、想像しとるとおりのことやで……」
ヤスは、夫は、というかもう、変態紳士のクニトモさんは、わたしの両手首に嵌めた赤いフワフワ手錠の鎖の部分に赤いロープを通し、まるで『ジョーズ』に 出てきた海千山千の船乗りみたいに、きれいな結び目を作りました。そして、わたしの頭を超えてロープを持ち上げると、脚立に乗って、滑車のほうへ……。
「いやっ!……ぜったいこんなん、いやや!」わたしは首をぶんぶん横に振りました。
本気でしたが……これからはじまることに対して、ムズムズするような期待がまったく無かったかといえば……それは嘘になります。
「あっ……やっ…待ってって……きゃあっ!」
わたしの背後で脚立を降りたクニトモさんが、キリキリとロープを引っ張ります。
「力抜いて……筋違えたら大変やで……」
「ほな、こんなあほなこと、すな!……あっ……やあっ!」
ぎゅうう、と滑車に通されたロープはわたしの両腕を上に引っ張り、あっという間に頭のはるか上まで持ち上げてしまいました。もう、つま先立ちにならない と、立ってられない状態……で、あのヤスが天井に取り付けたロープの強度は、大丈夫なんでしょうか?……愛犬のボバの犬小屋作りも、途中で放り出してしまったヤス の仕事です……不安がこみ上げてきましたが……同時にわたしの中の、あんまり認めたくない部分……いわゆる、恥ずかしいことをされたい、ちょっとアブノー マルなことをされてみたい、という受身なエロ気分……いわゆるM属性が、ムクムクと大きくなってきたことも事実です。
「あかんっ……こんなん……あかんっ……って、何それ??」
ちらっと肩越しに背後を見て、またびっくりしました。
たぶん、テーブルの下に隠していたんでしょうけど……大きなポリタンク……たぶん15、6リットル くらい入るやつ……が3つ、キッチンの床に並べられていました。それぞれの取っ手に、クニトモさんがロープの端を結わえ付けているところでした。タンクには、たっ ぷり水が入っています。
あれが、わたしを支える“重し”なのでしょう。
「奥さん、体重増えてへんよなあ?」からかうように、クニトモさんが聞きます。
「し、知らんっ!!」わたしはプイ、と顔を背けました。ええい、こんなときに何をイラつくことを。太ってへんわ!!
そして……わたしは完全に天井から吊り下げられた状態になってしまいました。
『エイリアン』『ターミネーター』『ジョーズ』と、ハリウッド王道の世界の終着点は、こんなSM小説もどきの世界……それでも、前のセーラー服のときよ りもずっと……わたしのなかの『日常』が南極の氷みたいに、解けて、ひび割れて、崩れて、深い海に落ちて沈んでいく感じは……それほど悪いものではありません。
「ほら、奥さん、もっと気分盛り上げたるでえ……」
と、背後から忍び寄ってきた夫が、後ろからわたしの顔に何かを掛けました。
赤い、エナメル地のテープのようなものです。
「いっ……いやっ……何これっ……ちょっと……」
「ほら、じっとして……」
あっという間に、わたしの視界が塞がれ、そのテープが頭の後ろに鉢巻きみたいに結わえられました。
「なっ……何これっ……いやっ……何も見えへんのんなんか、いやっ!」
「それが感度を上げるんやがな……奥さん」
「あっ……ちょっと……」
気配で、夫が前に回り込むのがわかりました。
ほんとうに無防備な状態にされてしまっているので……スカートのホックを外されてジッパーを下げられ、すとん、と落とされるのも……カットソーを首まで 捲くり上げられるのも……ブラジャーのホックを外されて、さらに肩のストラップまで外されて毟り取られ、おっぱいを曝け出されるのも……ほとんど抵抗でき ませんでした。……まあ、バンザイで吊り下げられたまま、わたしも口で多少の抗議をしては、身体をなんとかくねらせて、抵抗の意志を示してみたんですけれ ど……そうすると、夫は、ヤスは、ってかもう、変態のクニトモさんは、そんな様子のわたしを見るとますます興奮を煽られるみたいで……ずっと無言でしたけ ど、どんどん鼻息が荒くなってくるのがわかります。それを聞かされると……わたしもなんか、全身が痺れたように上ずってきました。
わたしは、あっという間にあられもない姿に乱され……その恥ずかしい姿をクニトモさんに眺められています。無言と、触れられないこと、静寂のせいで聞こ える、リビングの壁掛け時計の秒針が打つコチコチという音が……わたしの日常感覚を溶かし、流し、液にしてしまいます……そして液になったそれは……入口から太腿を伝って、垂れていきました……ってこのへんの下品 な比喩は、ちょっと許してください。
「ううん……何か、足らんなあ……」暫く離れたところから夫の声。
「な、何よ」
「ちょっと、待っといてな」
夫がわたしの横を通り過ぎて、離れていく気配がします。
え、足らないって何よ……これ以上、どんな恥ずかしいことされるわけ?
不安と期待とドキドキのせいで……たぶん吊り下げられたわたしの身体は、大きく息づいていたと思います。こ、こんなとこ……もしご近所さんとこか、誰か に見られたら……ちゃんと、カーテン閉まってたっけ?……それにしてもヤスは、夫は、クニトモさんは、わたしに一体何をするつもりなんだろう……しっかりとM気分に浸 れる、僅かな時間でした。でもわたしにしてみれば、それは恐ろしく長く感じられた時間です。
ようやく、ヤスが戻ってくる気配がしました。
「ほら、足、ちょっと上げて」夫が、わたしの足首を握りました。
「なっ……なにっ??」
「ほら、あんよ、大人しゅうしときや……」
めちゃくちゃ意外でした……夫はわたしに、サンダルを履かせようとしているのです。
見えないけれど、靴底の柔らかい感じでそれとわかりました。
今年の誕生日に夫が買ってくれた、イタリア製の少しヒールの高いサンダル。
それなりの品物で、お気に入りでした。
「何なん?何なんいったい?……そんなん履かせて、どないするつもりよ!」
「こういうポーズには、ヒール履いとるほうがエッチなんよ……」
「へ、変態!変態!……ちょ、超へんたいっ!!!」
もう片方の足にもサンダルが嵌められ、ストラップがパチンと嵌められます。
なんとか……そのせいで床に対する足の密着度は高くなりましたがそれでも不安定です。
「ねえ、ほんま、もう……こんなヘンタイみたいなこと、許して……ヤス……やのうてクニトモさん……」
「そのわりには、腰がくねっとるやないか……ほれ」
「やあっ!……んんっ!」
いきなり、脚の付け根に指が差し込まれ、布の合わせ目に指が添えられました。
「ほうら……もう、下着、べちょべちょや……」
「わ、わかっとるわ。アホ……んっ……んんんっ……!いやっ!」
さらに激しく指がわたしのエロさを掘り起こして手懐けようと、激しく動き始めます。
わたしは全身をくねらせて、夫の目を喜ばせてしまいました。夫がいろいろと、いやらしいことを耳元で囁いてきます。
もう、自分でもわかるくらい、比較的さいきん買ったパンツは、ぐしょぐしょになっていました。
ついに……わたしから、夫に屈服して、屈辱的なお願いをするときがやってきました。
「ね、ねえ……」
「なんや、インランな奥さん」はあはあ言ってるクセに、なに余裕こいてんだよ、とマジで夫が憎たらしくなりました。「もう、欲しなったんかあ……」
「ち、違う……」
「ほな、何や」
「……んっ」わたしは唇を噛んで、甘い屈辱に耐えました。でも、言うしかありません。「お願いやし……もう……ぱ、パンツ……パンツ脱がせて……」
「ほおおう?」
夫がうれしそうに声を上げます。
じわじわとパンツがひき下ろされていきます……ぐっしょりと水分を吸い込んだ茂みをゆっくりと通過して……太ももの付け根あたりに。もう、ぶちん、と切れてしまいました。
「はよ脱がせ、ちゅーとるやろ!!」わたしはかなり語気を荒げていました。「す、好きにしたらええやろ!もう!……勝手に、なんぼでもヘンタイみたいなことしいなっ!……この、ドヘンタイっ!」
「そうか……そんなに欲しいんやな……」
ずるっとパンツが下ろされ、丁寧にサンダルの両足首から抜かれてしまいました。
……で、今わたしがなにをされているかというと……夫に腰を抱えられる形で、いかがわしい電動マッサージ器と、後から夫が取り出した……ピンクロータっていうんですか?……そういうおもちゃで、これでもか、というくらい攻め立てられているのです。
……はあ……アホな夫を持つと、ホント大変です。
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