大きくて、固くて、太くて、いきり立つ魔法

作:西田三郎


■7■ 滑車

 わたしは夫がDIYで天井に取り付けた滑車に釣られていました。
 手にはふわふわした手かせをつけられて、それに結わえたロープで引っ張られ、バンザイの格好を取らされています。ヤスに履かされたヒールの高い サンダルのせいで、なんとか、かかとは床に着いていましたが……体重のほとんどはは滑車に支えられていました。
 目にはエナメルっぽいビニールの目隠しをつけられていて、なにも見えません。
「ほら……ほら……恥ずかしい、恥ずかしい格好やなあ……」
あほっ!」わたしは声を荒げました。見えるわけないじゃない。目隠しされてるんだし。「アホ!変態!
「何とでも言いいな……いまその声を、かわいい喘ぎ声に変えたるから……」
 
…………ビィィィビィィィーーーーーーーーン…………

 えっ。
 何か、イヤな感じのモーター音が聞こえてきます。
「ちょ、ちょ、ちょっと何よ、何?……その不穏な音は……」
「こういうの……今まで使われたことないやろ?」
「ひゃっ!!」
 素で、声が出てしまいました。
 ちょうどおへそのあたりに、ピンポン球よりちょっと大きいくらいの物体が押し当てられたのです。
 それが、小刻みに……というか、かなり大刻みに振動していました。
「ほおら……どう?これ?
「って……これ、何?!何アホなもん買うてきたんよ!」
「これなあ……すごいねんで……」そういいながら……わたしのおへそから、ゆっくり、ゆっくり、まるでナメクジが這うように、その怪しげな電動危惧の 先端をスライドさせていきました……おへそから、今みたいに万歳で拘束されてるときは、浮き上がっちゃうあばら骨のほうへ……そのまま上に上がるか、と 思ったら……たぶん意表をついたつもりんなんでしょうけど、左のわき腹のほうへ。
 パンツはもうすでに、脱がされていました。
「ほら、どうや?……電マの具合は……」
電マ?……何それ?……そんなん、どこで買ってきたんや、っちゅーとるんよ!」
 まあ、夫が稼いだ分で何を買おうと自由なんですけど……電マ、ってアレでしょ。いかにも禍々しい形をしたマッサージ機。わたしは家で仕事をしてるんで、 仕事が手につかないときは、ちょっとばかりネットサーフィンをします。まあ、仕事に関係あるWebサイトプランナーさんやデザイナーさんのブログ を見て、『ケッ、あほか』と思ったり、発言小町を見て、『ああ、世の中ってバカばっかりなんやなあ』と思ったり、まあ多少、英語が読めないこともないので、CNNとかそのへんの海外 サイトを見たり。そんなことをしてるとたまに、偶然……ということにしておいてください……エッチな動画サイトに行き着いて、こんなふうにちょっと、SM チックに攻められている女優さんの嬌態を見て『うわあ……』と思ったりすることもあったりします。
 とはいえ、まさか自分が、夫に、ヤスにこんな目に合わされるなんて。

  ビィィィ…………ビィィィ……ビィィィーーーーーーーーン…………

「あっ、ちょっとっ!……そんなん、そんなんあかんって!」
「ほらほら〜……もうすぐ、もうすぐ当たってまうでえ……」
「い、いやっ……あっ!!」
 ほとんど触れるか触れないかの微妙な当て方で、その先端がわたしの……滑車によるバンザイ拘束のせいで無防備になっている乳房に触れました。
「い、いやっ!……や、やめてっ!……それ、それあかんっ!」
 思ったより、痛いということはなくて……じわーーーんと来るような甘い振動が、肩甲骨の裏あたりにまで広がります……そして次は反対側、右の乳首へ…… なんといってもそんな器具は初体験です。滑車で吊られるのも、それも服をえらく中途半端に脱がされて、しかもサンダルだけを履かされているという、実に奇 妙な格好で……こんな恥ずかしいことをされるのも。

 順を追って話します。というか、話は最初に戻ります。
 その日はわたしは珍しく、打ち合わせで外出していて、ヤスが代休を取って留守番をしていました。
 とはいえ、せっかくのお休みだからどっか遊びに行ってきたら、となんだかずっと元気のないヤスに言ってみると、「そうするわ……」と気のない返事が返っ てきたのを覚えています。
 わたしのほうの打ち合わせはアホみたいに長引き、もう夜ご飯の時間にも近くなっちゃったので、今晩はどっかで外食するか、それともピザかなんか頼もうか、とヤスにメー ルを送ったら、「そうやな。ピザがええな」という返事が返ってきました。それで、帰宅すると……
「ただいまあ……遅うなってごめんね〜って……、ちょっと、それ何!?」
「おかえりい……」あの“セーラー服”の一件のときと同じくらいいやらしい笑みをうかべて、ヤスがテーブルで振り返りました。「遅かったね。疲れた?……ピザ、 頼もか?……それとも……一発いこか?
「てか、アレは何???」
 わたしはキッチンに続くリビングの天井をまたぐ太い柱に取り付けられた、“滑車”を指指していいました。それはちょうど、リビングの天井のど真ん中にあって、 それを取り付けるためにヤスが使ったんであろう脚立や、その上に置かれた電気ドリル、それに……登山用のザイルとしてはちょっと派手すぎる真っ赤なロープ の束を指して、言いました。なんか、それらの物体は、実にいかがわしーい瘴気を放っています。
「……先にメシにしよかあ……今日のプレイはちょっと、ハードになりそうやでえ……“奥さん”」
 どきん、としました。
 その日のわたしは、ちょっとタイトな外出用の紺のカジュアルなジャケットに、インナーはベージュのカットソーと、下はフォーマルっぽくも見える、これまた腰まわり、お尻まわりが、 きゅっ、としまった、やや丈の短いタイトフレア。
 夫の視線が、その一枚一枚を、まるでレーザービームで焦がしていくかのように、全身を眺め回しています。
『やっぱり、メシは後やなあ……着替える前に、ヒイヒイいわしたるさかいなあ……』とでも言いたげな目線です。
 夫の目があまりにも、尋常ではなく、ぎらぎらしていたの で、ほんの少し怖かったのを覚えています。
「で、でもヤス、あの、あっちのほうは……」と言ってしまい、思わず自分で口を押さえました。
 そんなこと、気にしていると思われるのはまったく不本意だったからです。
 すると夫は……ほんと、ドヤ顔っていうのはああいうのを言うんですね……どこから取り出したのか、ドン、とテーブルに、あのバカバカしい、サプリメント のボトルを置いたのです。
 安っぽいプラスチックのボトル、ラベルには、金(っぽく黄土色で)印刷された、雲を貫く龍の絵。
『20代の硬さ!確かな挿入感を!ウルトラハイパードラゴン』と銘打たれたその薬……いやほんと、呆れました。
 手にとってラベルを読み込んでみると、ウン 日間でアレが何センチ大きくなるだの、長くなって、太くなって、固くなって、カリが高くなるだの、持続力がつくだの、アレの温度が熱くなるだの……たぶ ん、ネット通販で買ったのでしょう。今日、わたしが外出中に届くように。ひょっとしたらあの滑車もロープも……ドリルと脚立は、前からありました。脚立は ヤスが友人からもらったもので、ドリルはわたしたちが飼っている豆芝のボバの犬小屋を作るんだ、といってヤスが張り切って買ってきたのですが、結局作らずに諦め、ボ バは室内で飼われています。一日中ほとんど、ぐっすり眠っていて、よっぽどのことがない限り起きてきません……だからわたしとヤスは、思う存分……って、何を 考えているんでしょう。さっきまでヤスに呆れてたのに。
「こんな薬……どーせ、インチキやろ?」
「……そ、れ、が、や……さっきメールもろてから、飲んでみてんけど……」
 と、いきなりヤスが立ち上がり、わたしの背後に立ちました。そして、わたしを後ろから抱きすくめます……って、硬いっ!!……ヤスのカーゴパンツの布越し に、わたしのお気に入りの外出用スカート越しにでも、ヤスのあれが……そのギンギンに、ビンビンに、びんびん丸に、というか、そこ自体の熱がもう布越しに染みこん でくるくらい、熱くなっているのを感じることができました。
「ひ、ひえっ……」わたしはちょっと、怖くなりました。「な、何コレ……なんか、ヤバい薬ちゃうの?」
「大丈夫や……」ヤスはズボンのジッパーを開きながら、なんとかそれを取り出そうと努力していました。というか、ほんとうに突っ張りすぎて、なかなか外に 出てこないみたいです。「天然素材しか入ってへん、て書いてあったし……ほら、握ってみ……」と、軽く、わたしの手を取って、その部分に導きます。
「あっ……あつっ!」
 ほんと、死んだうちのおばあさんみたいに、耳たぶを掴んでしまいそうでした。
 ほんとうに、その部分はヤバいほど、というかたまに昔ながらの喫茶店に行くと出てくる、あのあつあつの布おしぼりみたいに、熱かったのです。
「ほら、ちゃんと握って……」
 ヤスがわたしの手を捉えて、その恐ろしいほど熱くなったアレに被せると……なんか怖くて、手元を見ることができませんでした……それくらい、尋常じゃな かったのです……自分の手のひらでしっかりと押さえつけます。「ひ、ひゃあ……」
 確かに、なんか太いです。ほんとにこれが、ヤスのアレなのかしら、という感じで、これならソフトボールくらいなら打てそうな感じ……ヤスに手を 導かれるままに、その表面に手のひらをすべらせていくと……と、とても長い。ってか、こんなに長くなるもんなの?ってくらいに……しかも、表面には、ボコボコ と太い血管が浮かび上がり、それぞれの欠陥が、ビクン、ビクンと禍々しく動くのを感じました……ほんと、ただごとじゃなかったです。
「ほら、もっと……」
「あ、あんっ……」
 先端の部分も触らされました……て、てか何これ……中ぐらいのマトリョーシカくらいある……わかりにくかったですか?……そうですね、標準的なアボカド くらいありました……その表面の感触が、ほんと、エナメルコーティングしたみたいに、つるっつるなんです。もう、今にも破裂しそうなくらいに。
「こ、こんなん……こんな怖い薬、買いなや……」わたしはその部分を触らされたまま、夫を肩越しに睨みました。「こんなん、あたし……入らへんやん……入った としても……壊れてまうわ……」
「でも、ほら」
「やっ……」
 先端の先端に、わたしの指を押し付けられます。
 もっと熱い、ねばった汁が、指に絡みついてきました。
「……お願いやし……」わたしは熱に浮かされたような声で言います。「……やさしくしてな……」




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