大きくて、固くて、太くて、いきり立つ魔法
作:西田三郎
■3■ フェラアンドクライ
てかまあ、わたしはフェラチオ……いや、ちょっと表現が下品でしたね……をしたわけです。
その、お口でする、ってことです……そっちのほうが、いやらしいですか?……まあいいです。
とにかく、わたしは吸い付けられるみたいに、夫の前に跪いていました。
アレが……カチンカチンすぎて……ってか大きくて、長くて、太くて、固くて、カリ…っていうんですか?……そ れが高くなってて……、もうヤバいくらいだったから。
あの、夫が買ってきたバカなクスリ、『ウルトラハイパードラゴン』の謳い文句みたいな感じ……だったかも知れません。
少なくともまあ、そういう感じのアレ……になる、ってことをあのクスリを販売する人や、それを買うバカ……うちの夫ですけど……は期待して買うわけで しょ?
でも、実際、そのときの夫のアレは……その、性器は、ペニスは、肉棒は、びんびん丸は、余りにもビンビンでした。ほんとわたし、気がついたときには
「ああっ……って……す、すごいやん」って……その側面に頬ずりしていました。
「舐めてくれんの?」
「……」上目遣いに、恨めしげな顔(それに夫は弱い)で見上げます。
「ちゅーか、舐めたいん?」
「……ヤスのスケベエ」
わたしはそういって、夫の太腿あたりに軽く、爪を立ててやりました。
これにも夫は弱いのです。というか、そういうのって男の人、好きなんですよねえ。
なんだかよくわかりませんが。
「……舐めてーな」
夫が言い終わる前に、わたしは夫のアレを……あといろいろと呼び名があるあの器官を、かぽっ、と口に含んでいました。
「ほうっ……」夫が、声を上げます。そんな正直なところが、大好きです。
あの、男の人はこーいう時、あんまり声とかを出さないほうがカッコイイ、とか思ってる人多いみたいですけど、そりゃAV男優(あんまりそーいうの、観たこ とないんですけど)みたに『ホッ、ホラ!イクよ!イクよ!?……イッていい?……一緒にイこうね?……イくときはちゃんとイくって言うんだよ?アッ、 アッ、アッ、オオオオオオッ……ウオオオオオッ!』みたいなのは、さすがにちょっとウザいですけれども、なんか男の人が書いた安物のハードボイルド小説と かにあるみたいに、『俺は喘ぐ●子の後ろ姿を見ながら、まだ余裕を感じながら、ニヤリと笑って腰を打ち付け続けた』とか、そーいうのがカッコイイと思って る男の人って、結構いるんじゃないでしょうか。わたしの少ない経験からしてみても。
それは、フィクションの世界で、ウソで、思い込みです。
とにかく、わたしは舌を使いました。
夫と付き合うようになってから……夫とこういうことをするようになってから、わたしはすっごく、こういう行為に関して、夫とエッチするたびに試行錯誤を 繰り返して、自分でもそれなりに上手くなろうと頑張ってきたつもりです。っかまあ……そんなに頑張った、ってほどでもなくて、夫が嬉しそうで、わたしもい ろいろやってみると、そのたびに違う夫の反応が楽しいので、実際は……人と比べて上手いかどうかは別ですけれど。
「あっ……おっ……うっ……」
わたしはわたしの口いっぱいに広がっていき、熱くなっていくアレの『生きてる感』を味わいながら、舌を使い続けました。口の中で夫が出しちゃったこと は、あまりありません。結婚してからは、ほとんどないんじゃないでしょうか。大学時代から結婚するまでの間、事情によって……その、場所が大学の物陰だったり、屋外の物陰だった り、そういうときは何回かあったと思いますけど……でも、そんなのしちゃうと、そのあとすぐセックスができないじゃないですか。わたしはそーいうとき、し たくてしたくてしたくて仕方ないわけだし。
先っぽをペロペロしたり、脇をハミハミしたり、袋のところを手で……すみません、調子に乗りました。
そのうちに、夫がわたしの肩に手を置きました。
「ふうっ……はあっ……あ、あ、ありがとう……もうええで……」
いや、こんな行為のあとでもやっぱり『ありがとう』と言われると嬉しいですよね。
みなさんも言いましょうね、いろんなところで『ありがとう』と。
「…………」わたしは無言で、口元を手のひらで拭って、また上目遣いで夫を見上げました。
『さあ、これからセックスのホンバンに行くで』という、わたしたち夫婦、というか夫とわたしが結婚する前から決めていた無言のルールみたいなものでし た。
わたしは全裸のまま立ち上がって、一瞬、夫に背を向けて立ちました。
と、いうのも、わたしはお尻が少し小さすぎるのがコンプレックスだったのですが、でも夫はわたしの、そんな『すとーん』とした体系を気に入ってくれてい るみたいです。なんだかよくわからないけど、『君の後ろ姿はサクランボみたいや』と、ちょと意味不明なほめ方をしてくれます。ということはつまり、夫はわ たしの痩せっぽちで、ちょっと『サクランボ』みたいなお尻をもつ後ろ姿が大好きだ、ということです。
だからわたしは、夫を喜ばせるためにそんなふうに全裸の後ろ姿を見せて上げたのでした。
サクランボのお尻を、ふらっ、と揺らせてみたりして。
「きゃっ!」
いきなり、夫がわたしをソファにうつぶせに押し倒しました。
そして、腰に手を回して、ぐいっ、とわたしの腰を持ち上げます。
いわゆるバックスタイルで挿入するつもりのようでした。
「あんっ……」夫の手が、わたしの脚の間から中へ滑り込みます。
「すごい……すごい濡れてるで……奥さん」
「やんっ!」にゅるり、と指が滑り込んできました。
ええもう、確かに、夫の指が入り込んだぶん、わたしの中で溢れていた蜜が、お湯を張りすぎたお風呂に身体を沈めたときみたいに、たらっ、とあふれ出したのを覚えています。
「……ほらほらあ……こうすると、ますます濡れてくるで……」ちゃぷちゃぷ、と入り口付近で引っかきだすみたいに、夫は無邪気にわたしから溢れてくるものをもてあ そんでいます。「すけべやなあ……ほんまに」
「……あっ、あほ!」
何百回とセックスをして、おんなじようなこともたびたびされてきましたが、やっぱりこんなふうに……四つんばいになった姿勢で、お尻も、あそこも、そし て……お尻の穴まで、アレをギンギンにさせた夫に眺められながら、そんなふうにハズカシメられていると思うと、やっぱりいつも新鮮な恥ずかしさがこみ上げてき ます。
夫がコンドームを装着している気配がしました。わたしはソファの上のクッションに顔を埋めて、夫がやってくるのを待ちます
ぴっちん、という音。
夫がコンドームをきっちり根元まで装着した音です。
「はっ……」ソファに上がってきた夫が、わたしのお尻の左右に手を添えました。
「いくで……奥さん」
「んっ」
ちょん、と先端が当たります……わたしは、伸びをする猫みたいに背をしならせて、夫がが入ってくるのを待ちました……。
数十分後、夫はぐったりとしたまま……コンドームも外さないまま、ソファに身を投げ出していました。
わたしは、はだかのまま身体を起こして、夫の肩にもたれました。
「……こんなこともあるって」わたしはそう言いました。「気にせんときーや、ヤス」
「……でも……」夫の声はいつになく暗いものでした。「……こんなん、ここまでのんって、初めてやわ」
「疲れてるんとちゃう?……それに、お酒も、たくさん飲んでたし……」
「ストレスのせいかな?」夫が呟きまます。「……ストレスが、溜まっとんのかなあ……」
「ほな……わたしがお口でしちゃおか?」
夫の顔を見上げても……笑顔はなく、青白く、げっそりとしています。
「いや、ええよ……ありがとう」
そのまま夫はソファを立って、コンドームをぶら下げたまま、お風呂場へ行ってしまいました。
その後姿があまりにもしょんぼりしていて可愛そうだったので……わたしは……ちょっとだけ泣いてしまいました。
もちろん、夫がお風呂から上がってくるまで には泣き止んで、鼻もかんでましたが。
それからです。夫のアレに元気がなくなった……つまり、夫の不能……じゃなくて……インポテンツ……じゃなくてEDがはじまったのは。
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