愛の這ったあと
ある寝取られ男の記憶の系譜

作:西田三郎




■17  『わたしたちは何かを取り戻すかのようにやりまくった。
 

 ……そこから先は……まあ想像どおりだ。
  いや、というのも何だから、あったことをそのまま書いておこうと思う。

 とにかく、わたしはこの時点ではっきりそれとわかるくらい発狂してしまった。これまでにも不可解なことを体験したり、不可解なものを散々見てきた。まあその流れに任せて、めちゃくちゃな生活を送ってきた。でも、ある一定の基準だけは踏み越えることがないように、その点だけは自分でも気をつけてきたつもりだ。

  それはなぜかといえば……妻が……妻のみどりがわたしのもとに帰ってきたときのために、「正気」をセーブし続けてきたのだ。みどりが帰ってきたら、わたしはありとあらゆる狂気を否定して、みどりとともに幸せに暮らせる世界に戻るつもりでいた。

  しかし、なにもかもが予想外で、わたしの想定を超えていた。結局、そんなもんだ。

 まずわたしがしたのは、縛られたままのみどりの頭をがっしりと捕まえ、あの薄い唇に舌をねじ込んだことだった。みどりは抵抗しなかった。

  「んんっ……むはっ……んぐ……」わたしが舌を絡めるより先に、みどりの舌が動き出す。
  薄目を開けてみどりの顔を見た。まるで肉にでもむしゃぶりつくかのようにわたしの唇を屠っている。
  わたしは無防備にむき出しになっているその胸の微かなふくらみを掴み、握った。
  「あううんんっっ!!」みどりがのけぞり、拘束台がギシリ、と揺れる。さらに乳首を両方強くつねり上げた。「あはあっっっ!!

  ぐらぐら揺れるみどりの顎を掴みがっちりと固定して、また唇をむさぼった。
  舌を食われるんじゃないかと思うくらい、みどりはわたしの舌を吸い込み、自分の舌を絡み付けてくる。

  「いてっ!!!

  引き離すときは両頬をつかんで離さねばならなかった。引き離すと、みどりの口は笑っていて、目は舐めつけるようにわたしを挑戦的に見上げている……その表情は、どこかあのいかれた女に似ていなくもなかった……俺の妻だと自己申告したあのもう一人の女が、わたしにハメ倒される前に見せた顔にも、似ているように見えた。

  口の中に血の味がする。どこか、唇を噛まれたらしい。自分の唇を手の甲で拭うと、べっとりと血がついていた。かなりきつく噛まれたようだ。みどりはまだ笑っている。鼻息と吐息で、前髪がふわり、ふわりと舞っている。少年のような顔立ちが邪悪さを帯びると、一層凄みがあった。
 
  「……あたしとしたい?」みどりが言った「ほかの誰かじゃなくて、あたしとしたい?……」
  「ああ
  わたしは唇を押さえていた手を離して、唇から血が流れるに任せることにした。
 
  わたしは自分のズボンの前を開いた。みどりは拘束台に固定されたまま、あざけるようにその様子を見ている。しかし固定された身体が大きく息づき、これまで以上に大きくくねっている様を見て、みどりの一層の欲情を感じることができた。下半身をごそごそしている間に、パンツのガマ口から必要以上に張り詰めた陰茎が自動的に飛び出した。ぼろん、という感じで。

 「じゃじゃーーん……」みどりがうつろに呟く。

 わたしは夢中で自分の足首にからまったズボンと、突き出した陰茎のせいでかなり脱ぎにくくなったパンツをむしるように剥ぎ取ると、身をかがめてみどりの大きく開かれた下半身の前に這いつくばった。
  何かを封印しているかのような 「×」印のテープに固定されているバイブレーターの握りを掴むと、一気に引き抜く。

  「あううんんんっっ!!
 
  テープが一気にはがれた痛みのせいかもしれないし、別の感覚かも知れない。あるいはそれらが渾然一体となって、みどりを襲ったのだろう。
  固定されたみどりの身体が、反対側に折れそうなくらい弓なりに反り返った。
 
  「うっ!うっ……はっ……!!」
  まるで失禁でもしたかのように、下で待ち受けているタライの水面に大量の液が滴り落ちた。
  「はあっ………あっ………はああっ………」
  大きく開かれたみどりのその部分が、真っ赤に充血して、半透明の液をじゅくじゅくと滲ませている。予想どおり、みどりの陰毛はすっかり、剃り上げられていた……ポタポタと、溢れる液がまだ滴っていた。わたしの手の中では、引き抜いたバイブレーターがまだ唸っている。バイブレーターは二股で、先端を回転させながら小刻みに振動している。わたしはスイッチも切らずにそれを床に放り出した。

 そしてそのまま……みどりを拘束台に固定したまま……わたしは膝立ちになって、陰茎の先端をみどりのその部分にあてがった。

  「んっ」みどりが、ぶるっ、と身体を震わせる。
  「欲しいか?……」
  「……な………なにがあ?」また、みどりが挑戦的にわたしを見上げた。
  「これがだよ!!!!」
  「うああああっっっ!!」

  一気に奥まで貫いた。
  ぎゅう、とみどりの内壁がわたしを締め付ける。みどりがわたしの耳たぶに噛み付く。痛みはなかった。噛み切られても感じることはなかっただろう。みどりの細くて長い胴を両手でぐっと押さえ、さらなる安定を求めて奥まで貫く。汗でぬめるわき腹に両手のひらを滑らして、そのまま背中に手を伸ばし、さらに下まで滑らせて、あの小さな、固い、少年のような……懐かしい尻を掴んだ。

  「あっ……うっ……うっ………くっ……くはっ……きつ、……きつ……い……んんんっ」
  「や、やっぱりこっちがいいだろ?!……ええ??」自分でも何を言っているのかわからなかった。
  「………くっ……ふっ……んんっ……」みどりが耳元で熱い息とともに囁く「……ぜ、ぜーんぜん………お、おもちゃの……ほっ………ほうが……ぜんぜんいい
  「ちくしょう!!!!
  「ああああんんっっ!!!

  後は……拘束台がきしみ、倒れそうになるくらいまで、固定された……正確にはわたしが固定した……みどりを、突き上げまくった。みどりは必死でわたしをあざ笑おうとしたが、そうはさせなかった。最後には泣き声をあげるまで突いて、突いて、突きまくった。不思議な話だが、痺れるような快感を伴う性交だったが、なぜかなかなか射精は訪れず、陰茎はずっと勢いを失うことがなかった。
  あの女が言っていたとおり、わたしのちんぽは素直だ。
  いじましくて、負けず嫌いで、偏屈で、偏執的だ。わたしそのものであると言える。

 「……もうだめっ!!けだものっ!!!…だめっ……もうだめえっ!!!……」
  みどりが根を上げたのに満足して、一端みどりの身体から陰茎を引き抜いた。タライはどけてあったので、床にみどりの液が滴って飛び散った。わたしはみどりの両脚を開脚に固定しているテープを乱暴に剥がし、手首と足首を台に固定していた枷を解いた。
  くたり、とみどりの軽い身体がわたしの腕に落ちてきた。陰茎は微塵も衰えない。

 「……まだまだだよ……」わたしはみどりの耳元で囁いた。
  「え……うそ……」驚いた様子を見せて、次に笑う「……やっぱあんた、病気だよ。洋二くん」
  「……ああ……そうだな……」

 みどりの身体を腹ばいに床に投げ出し、尻を持ち上げた。
  「あっ……」不意をつかれたみどりが、大人しく腰を上げる。

  みどりの懐かしい尻を見た。小さな尻だ。硬くて、ひきしまった尻。最後にこの尻を見ながらぶち込んだのはいつだろうか。こんなときに感慨にふけるわたしは狂ってるのだろうか。たぶん、狂ってるのだろう。

  「………ううううんっっ!!!!

  手を使わずに、一気に奥まで突き入れた。みどりの背中が反り返り、肩甲骨が浮き上がる様もまた懐かしかった。わたしは一向に収まらない陰茎を、派手に抜き差ししはじめた。何故だろう……?……まったく衰えないのはなぜだ?……終わりが来ないのはなぜだ……?……これが夢だからだろうか?……しかし抜き差しして、そのたびにみどりが泣き声を上げるのを耳にするたびに、下半身には電流のような快感が駆け巡る。
 
  「………も、もうっ……だ、だめっ……だめっ……もうっ……ゆ、許してっ……ほんとにいっ!!……」
 
  みどりが泣き声で許しを請うと、ますます下半身の痺れは高まる。
  許してほしいのはわたしも同じだった。でもわたしのちんぽはわたしを許そうとしない。あの男もたぶん、そうだったんだろうな、とわたしは思った。わたしの身体が溶け出すまで、わたしのちんぽはわたしを許さないのかも知れない。腰を打ちつけ続けた。バックに飽きると、みどりの身体を横向けにして、片足を高く持ち上げながら横からねじ込んだ。それでひたすら突きまくったけど、やはり終わりはやってこなかった。仰向けにして、両腿を持ち上げて突き入れて動かした。みどりの身体を起こして、腹の上に乗せて下から突き上げた。自分も半身を起こして、抱き合うようにしてさらに突き上げる。みどりの爪が背中に食い込んだが、痛みは感じなかった。それから何度、体位を変えたかわからなない。みどりは泣き続け、わたしは突き続けた。

 ……気がつくと、夜が明けていた。
  みどりはうつぶせになって、死んだように床に這いつくばっていた。
  わたしはぼんやりと床に立ち尽くしている。下半身は裸で、愛液まみれのまま。
  いつの間にか、射精したのだろう。みどりの下半身から、白い粘液が垂れている。
 
  終わったんだ、とわたしは思った。

  そして、窓から外を見た。
  それほど不思議には思わなかった。窓から……緑色の屋根の2階建ての家が見えた。
  それはわたしの家から見たあの家とそっくりだ。まるで鏡に映したように。

 

 

 

 

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