愛の這ったあと
ある寝取られ男の記憶の系譜作:西田三郎
■14 『すべてを、あのいかれた女に話してみた』
とりあえずあまりのことが起こったので、あのいかれた女を呼び出した。
目にしたこと、それで感じたことを誰かに伝えたかったのだが、一体こんなこと、誰に話せばいいのかわからない。そういう場合、相手はあの女くらいしか思いつかなかった。ところが女は家にやってくるなり、奇妙な目つきだった。
酒に酔ってる様子ではなく、瞳孔がバッチリ開いている。
駅の階段から落ちたときから、家の庭の垣根の前で男が溶けてなくなったことまでを、こんこんと話して聞かせた。女はいちおう相槌を打っていたが、聞いているのか聞いていないのかよくわからない。いや、たしかに素面ではまともに聞いてられない話なのかも知れない。女はだんだん的外れなところで相槌を打ち始め、ぜんぜん(わたしにとっては)可笑しくないところで大声で笑うようになった。
それでも一応、女は最後まで話を聞いてくれた。
しかし、話が終わるなり、女はわたしに手を差し出した。「これ、これ、とりあえずこれスゴいから。飲んでみなよ。まじスゴいって」
と女が差し出した手のひらの中には藤色の錠剤が2粒あった。
というわけでわたしは今、初体験の酩酊の中にいた。飲んで数分後……時計で計っていたわけではないので、あくまで体感時間だが……天井がグルグルと回りはじめた。立とうとすると、膝くらいまで床に足が沈みこんだ。女の顔もぐにゃりとゆがんで、女の着ていたピンクのTシャツの色が輝き始めた。女の履いているダークグレーのショートパンツから漆黒の闇が広がり、そこに部屋にあるものすべてが吸い込まれていくようにすら感じられた。そして……問題は女の肌だった。筋肉質でひきしまった、少し日焼けした肉体が……ぬめぬめと光り、うねりはじめた。ピクピク、ピクピク、とかすかに動く筋肉の動きの一つ一つが、はっきりと見てとれた……わたしは笑った。思わず笑い出していた。女は立ち上がって、ゆっくりと腰をくねらせて踊り始めた。
海底で波にそよいでいるワカメのような動きだった。
女の目がわたしを誘っていた。いたずらをたくらんでいる子供みたいな目つきだった。「ねえ……剥いでよ」女が言った「めんどくさいハナシはいいからさ……剥いじゃってよ」
わたしはそのとおりにした。女をリビングの床に押し倒し、裏返した。女はキャハハ、と笑いながら長い脚をバタバタさせた。腰をぐっと引き上げ、漆黒の闇を作り出すショートパンツの前を探り、ボタンを開けてジッパーを下げると、その下に履いているパンツの色も確かめずに一気に引きずりおろした。女の引き締まった尻と、肛門と、性器が見える。さも当たり前のように、目の前にはその三つがあった。薬のせいかもしれないが、肛門と性器が、それぞれヒク、ヒク、と息づいているように見えた。
女がおどけて、裸の尻をくねくねと左右に揺らせた。床にはいつくばったままで。「あたしのほうはもう準備おっけーよ〜ん」
そうして肩越しにわたしを見る。あざ笑うような、そして挑みかかるような目で。あくまで軽いノリだった。確かに面倒くさいことを考えないほうがよさそうだ。わたしはズボンの前を開けた。すると、見慣れない生き物が……ぬらぬらと濡れて、赤黒く染まり、ヒクヒクと息づいている生き物……いうまでもなくわたしの性器だが……飛び出した。パンツの入り口から『いざ鎌倉!』とでも言わんばかりに。
「……うっわー……あほみたいに勃起してる」女が、驚嘆と嘲笑の入り混じったため息をつく。
尻は相変わらず揺れていた。がっしりと尻を両手で掴まえる。
そこで、わたしは女の腰に黒い羽の刺青があるのを思い出し、女のシャツを一気に肩甲骨のあたりまでたくしあげて、女の背中を露出させた。思い出のとおりの位置に、黒い羽の刺青がある。
それを見て、またわたしの陰茎が激しく反応した。どこまで反応するんだ。「あれ……えーろ……コンドームろこだっけ?」もう、呂律が回らない。
「……いいじゃん。今日、だいじょうぶだから」女が腰をくねらせながら言う。
「れも……」
「ダイジョーブだって。ほれ、はやくそのくそちんぽをブッコんでよ」
「よーし……」わたしは自分の陰茎を握った。それだけで、静電気のような痺れが全身を襲い、わたしは軽く射精してしまった。硬い精液が、女の右の尻肉にべちゃり、と飛び散る。
「ええーーー??」女がびっくりして振り向く「なにそれえ〜??」
わたしも正直、焦っていた。いくら薬のせいとはいえ、これでは中学生レベルだ。しかし……これもまた薬の効果なのだろうか。わたしの陰茎は少しも衰えていなかった。それ以上に、さっきより硬く張り詰め、わたしの手の中で脈打っている。どくどくと、先端から粘液を滴らせながら。わたしは、自分のちんぽに話しかけた……おい、お前。いつからそんなになっちまったんだ?……薬のせいじゃないだろう?……まるでお前は飢えたけだものじゃないか……?
わたしの心の奥底で、ちんぽを構成している細胞が返答した……おれはお前の一部でしかないんだぜ……?……何でもかんでもおれのせいかよ?……お前はおれで、おれはお前なんだよ……とっととこの女の中にぶち込んでくれよ……おれだけじゃ、この女のなかにもぐりこむのはムリだからな……。「あうううううんっっ!!……うそっ!!……元気すぎ!!!」
一気に根元までめり込ませてやった。女の上半身がビクン、と立ち上がって背骨が弓なりに反り返る。
充分に塗れた熱い肉がぎゅうううっ、と陰茎を締め上げる。ズキーーーンとカキ氷を食べたときの頭痛に近いような痺れが、脳天を貫いた。めまいが襲ったが、意識の空白が晴れてくる前に、女がわたしの陰茎をくわえ込んだまま腰を使い始めた。「あっ……あっ……ほらっ……何やってんのっ……あっ……あつっ……かたっ……う、動かしてっっ」
「よ、よおーーし……」ゆさゆさと腰を揺らす。
「ひあっっっ………ちょっと……め、めちゃ、めちゃくちゃ……おっ……大きくなってるっっ…んんっ」
「……すげえよ!!」わたしは叫んだ「なんて気持ちいいんだ!!」
「……あっあっ………」女が腰を振りたてる。振り落とされそうだった「……あたしもっっ!!」
「……すげえ!!!」同じことを2回も叫んでしまった。「どうなるんだ??これ??」
「あああんっ!!!………わ、わかんないっっ!!!」できるだけ陰茎の表面を女の内壁にこすりつけるように、そして一突き一突きのインサイドアウトが深く、激しいものになるように、わたしはもはや芝居がかった調子で、腰を引いては刺し、引いては刺しを繰り返した。女の腰の黒い羽根が、羽ばたいているように見えた。女はいまや、床に這い蹲り、太ももを突っ張らせ、尻を8の字に振りたくっている。女のほうからも、できるだけ内壁をおれの陰茎の表面にこすりつけようとしているのがわかった。
「ああんっっ………けだもの!!このちんぽ男!!ちんぽの化身!!!」
「うるせえこのまんこ脳が!!!」わけのわからない罵り合いが続いた。女をののしると、頭の中がじーん、としびれた。また、女に罵られると、さらに腰がじーん、と痺れる。お互い、汚い言葉を吐きあった。言葉でお互いの身体を愛撫しているようだった。ひどいことを言えば言うほど、言われれば言われるほど、さらに熱情が高まって快感が強くなる。
このセックスが永遠に終わらなければいいのに、とあほらしいことを考えた。
しかしそうはいかなかった。わたしもぎりぎりまで、決死の思いで堪え、耐え忍んだが、女の肉壁が不意にこれまでにない強さでわたしの陰茎を締め上げた。「……あ………あ………あ…………死ぬ………これ、まじでヤバ……い……」
女もその快感を全身に蓄電し、できるだけ長い時間楽しもうとしているようだった。
長い滞空時間を経て、女がぶるん、とけつを揺らせて肉壁を弛緩させた。
それを合図に、わたしは女の中に大量に射精していた。
正気に戻るったとき、わたしは床に倒れていた。
女は開けけ放った窓のふちに頬杖をついて煙草を吸いながら、わたしに向けて尻を突き出していた。
さんざん絞りつくされたはずだったが、その形のいい尻を見ているとまた下半身が反応してくる。
まだ、薬が効いてるのだろうか?
女はわたしに気づいていないようだった。月が異様に明るくて、女のシルエットは妙にくっきりしている。わたしは床に寝そべったまま、女の尻を見上げていた。女の腰の上で、黒い羽根が休んでいる様をじっと見る。
わたしに尻を見られている女は、月を眺めていた。
「何見てんの?」わたしの視線を感じたのか、女がそのままの姿勢で言う。
「あんたの尻」わたしは答えた。「あんたは、何見てんの?」
「お月さま」女が答えた。そして小さな声でつけたした「……それと、溶けた男の家」
「え?」わたしは思わず、上半身を起こした。
そのまま、女のところまで這って行く。「……ほら、あの家でしょ?……溶けちゃったおっさんと、あんたがヤっちゃった奥さんが住んでる家」
女が窓から指を刺した。確かに……その先には緑の屋根の家があった。
なんと驚くべきことに、女はセックスの前にわたしがした話を覚えていたのだ。
「……男は溶けちゃったのに、家はまだあるんだね」女がにこり、と笑う。
月明かりの下で、このセックスの権化のような女のその笑顔は妙に愛おしかった。
「……そういえば……そうだな」
「……じゃあ、その溶けちゃった男の奥さんは……どうなっちゃったんだろうね?」と女。「まだあの家に……住んでるのかな?それとも一緒に………あっ!!!やんっっ!!!うそっっ!!!」こっそり女の背後に忍び寄っていたわたしが女の尻を捉えて、また深々と挿入したのだ。
TOP