愛の這ったあと
ある寝取られ男の記憶の系譜

作:西田三郎




■12  『男の指には、ねっとりとした液体が絡み付いていた』
 

  男は自分が語った体験の思い出を、わたしにおすそ分けでもするように、どことはなしに空を見上げた。
  不思議な話だが、わたしもその話を聞いて、下半身がうずくのを感じた。
  もちろんわたしは、この男の女房についてはまったく知らない。この男はその女が、わたしと不義を働いたとほざくけど、そんな記憶はまるでない。でも男の話を聞いていくうちに……その女の姿が、まるで粘土細工でも捏ね上げるようにだんだんと形をなしていった。

 「……それから、スカートを引きおろしました。あいつ、脇のところにレースの入った、黒いパンツを履いてましてね。……まあ、はじめて見るものははありません。風呂上りにそのパンツを履いてるところ、何度も見たことがあります。あいつ、腰が細くて、尻が小さいでしょう?……なんか、年頃の娘が、精一杯大人ぶってるみたいで、これがまたそのときのわたしには気に食わない。一瞬、引きちぎってやろうかと思ったんですけれど……それじゃさすがに芸がない」と、男が自嘲的に笑う。「そのいやらしいパンツを、グッショグショに汚してやろうと思いました。で、ソファの上であいつの身体を起こして、思いっきり脚を広げさせると、前から手を突っ込んでやったんです………あいつ、そこではじめて『いやっ』って叫びました。慌てて脚を閉じようとする。どうしたんだ、今さら……と思ったら……なんとまあ、わたしのほうがびっくりしちゃいましたね。もう、中がグッチョグチョなんですよ。ええ……いきなり指に絡み付いてきたアソコの液が、これまで触ったことがないくらい熱くてねえ……大げさに言うんじゃなくて、思わず指をひっこめちゃったくらいです。……たぶん、自分でもそんな状態になってることがわかってて、わたしにそんな浅ましいところを知られるのが恥ずかしかったんでしょうねえ……いやあ、泣かせるじゃないですか……でも、そのときのわたしにしてみると、そんないじらしい思いも何もかも亢奮の火に油を注ぐようなもんですよ。そのまま、一気に指を突っ込んでやりました。この中指を、奥まで……一気にね」

 と、男は中指を立ててわたしの鼻先手前にまで差し出した。
  一瞬、わたしは怯んで、一歩だけ後ずさった。

 「……一気に指を激しく突き立てたら、あいつの細い体がアーチみたいに弓なりになりました……小さな胸を突き出して、肋骨を思いっきり浮かせてね……あふれ出すあいつの液の音が、部屋中に響き渡るみたいでした。で、わたし、あいつに言ったんです……『どうだ、あのご主人の指と俺の指、どっちがいい?』って……ええ、自分でも最低のゲスなのはわかってます。あいつ、顔を背けやがったんで、わざと指を入口あたりまで後退させて、焦らすみたいに擽ってやったんです……焦らしてみると、あいつの反応、溜まらんでしょう?……ねえ、あんたもそれを楽しんだでしょう……?……唇を噛んで、顔を真っ赤にして、シッカリ目を瞑って、眉間にシワを寄せながら、あの短い髪を左右に振り乱して顔を左右に振るんです。『欲しいんだろ?』って言うと、ハッとしてまたわたしの視線から顔を背けます……いやあ、新婚のときも……あいつと結婚する前の……まだ知り合ったばかり、あいつとセックスするようになったばかりの頃にも……あれほど亢奮させられたことはありません。わたしはもう、たまんなくなってあいつのパンツを剥ぎ取りましたよ……ブラジャーと同じように、引きむしったんです………あいつの小さなけつにナイロンの布地が食い込むのさえ、その痛みさえあいつは受け入れて、快感に取り込もうとしてるみたいでした……思いましたね………なんて淫乱な女だったんだろう、って」

 吸い口近くまで燃えているタバコを、大事そうに味わう男。
  わたしは完全に勃起していた。
  頭の中で、男の細君は完全な映像を伴う実体となっていた。

 「そのまま、見せ掛けだけの抵抗で脚を閉じようとするあいつの膝頭を掴んで、左右に開きました。あいつがまた、『いやっ』って言いましたが、もちろん聞く耳は持ちません。そんなの、頭を叩かれたら反射的に『イタッ』って言うようなもんですよ。夫婦の『いやっ』は、いい『いやっ』なんです。そこで顔を近づけてまじまじと見てやりましたね……あいつの、赤く充血して、どくどくと液を垂れ流しているだらしないまんこを。……ああ、すみません。こんなお天気のいい気持ちのいいお昼に、青空の下で『まんこ』だなんて……いやまあ、とにかくその光景は一生忘れられませんね。ええ。確かに見慣れた部分ですよ。これまで何百回、何千回、何万回と……何万回は言いすぎか……まあそれにしても、何度も見てきた部分です。でも、そのときに観た、あいつのまんこの様子は忘れられない。べっとりと液にまみれた、あいつの薄い下の毛が、あいつの下腹に張り付いていたその一本一本の形だって、はっきりと思い出そうと思えばできそうです。生まれてはじめてまんこを見たときよりも、ずっと亢奮しました。それに……まあわたしはあなたほど女性経験が豊富じゃありませんがね……女とそういう仲になって、そーいうことができる状況になって、はじめてその女のまんこを目にするとき、ってのは、毎回独特の感動があるもんです。まんこなんて、どれも同じだと思う奴もいるかもしれませんが……そりゃとんでもない。まんこは、女一人ひとり違うもんです。時には、同じ女でも日によって、まったく違う表情をしているもんです……ねえ、ご主人。そう思いませんか?

 わたしは頷いた。ただ頷いただけだった。生理的に、反射的に、身体がそう反応した。
  というか、ここまでしょうもないこと、誰の心の中にももやもやと存在していることについて、これほど明確に言語化して突きつけられたことがなかったのだ。あほらしくて、思わず頷いていた。
  しかし、男は本気だった。

 「ええ、あいつが脚を閉じようとする中で、強引にあいつの太股に顔を押し込んで、あいつのまんこに口をつけようとしましたよ……あんたにはどう言ってたか知りませんけど……あいつは、わたしにはまんこを舐めさせなかったんです。いつも、そうしようとすると、本気で嫌がりましてね。ええ、わたしはフツウの男です。ご覧のとおり……何の変哲もないただの男です。だからあいつに言ってやりましたよ。『あいつには舐めさせてんだろうが!あいつは良くて俺はダメなんておかしいだろうが!』って。そしたらあいつ、『そんなことない、あの人にもそんなことさせてない』って言うでんす……(と、ここで男が端から口を挟む気などないわたしの言葉を制するように右手の平を上げた)……いやいや、いいんです。ほんとにあんたがあいつのまんこを舐めたかどうか、そんなことはどうでもいいし、聞きたくもない。でも無理やり膝頭を掴んでさらに左右に開くと、ほんとうにあいつのあそこがぷるん、とキスでも求めてるように震えましてね。でも、あいつはブラジャーで後手に手を封じられてるので、そうされても抵抗できない。一気に顔をうずめて、口をつけました。すると『やめてっ!!』ってあいつがまるで、レイプでもされかかっているかのように叫ぶんですよ。でもちょっと、鼻にかかった声でね。この状況で、女に『やめて』って言われてやめる男がいますか?……いやいやをするみたいに、腰をくねらせやがるのも、はっきり言って焦らされて誘われてるようなもんですよ。両手の平でがしっとあいつの小さなけつたぶを左右から掴んで、押さえつけました。それでも暴れるで、もう一気に唇を伸ばして吸い上げてやりました……どくどくと溢れてる、あいつのあの液をね。『ああんんっ!!』とか言って、あいつの身体がまた弓なりに反り返りました………」

 そこで男がわたしに見せ付けるように、舌を出してその先を猥褻に動かしてみせた

 「そこからはもう、完全にわたしのペースでした。ええ……それまであいつに、ロクに舐めさせてもらってませんでしたからね。わたしはあなたとは違って、発展家ではありませんがから、外で別の女のまんこを味わったりすることもありません、まんこの汁の味すら、忘れかけてたくらいです。だから、めちゃくちゃに舌を動かしました。あいつの肉をかきわけるみたいに、自分の顔を左右に振りたくってね。……『だめえ』ってあいつがほとんど半泣きみたいな声を上げ始めました。誰がやめるもんか、ってとこですよ。舌を突っ込みました。両手を使って、左右に広げて、まるで大きな貝でも食べるように舌をねじ込みました。その頃にはブラジャーで結わえてたあいつの手首が、いつの間にか自由になってたみたいでね。わたしの頭を両手でつかんでました。引き離そうとしてるのか押し付けてるのか、もうわかりませんでしたね。こっちとしてはタダでさえ薄い髪をむしられるのは溜まらんけど、そのときはそんなことお構いなしです。指を使って、クリトリスの皮を剥き上げると、舌先でなぶりながら、指をあいつの中に突っ込みました……ええ、へその裏くらいまで深くね……『あああああ』とか『ううううう』とか、もうあいつもそこまでされちゃあ、ほとんど人間の言葉を発してません。そうなるとね………これがまた、わたしの怒りに油を注ぎ、わたしをさらに亢奮させるわけです……ええ、てめえ、あの野郎の前ではこんなふうに悶えたのかよ。情けない声出して、身体くねらせて、感じて見せたのかよ、ってまあ……ええ、すみません……『あの野郎』ってのはあなたです」

 男に指を突きつけられる。
  わたしはわが目を疑った。男の指先に、ねっとりとした液体が絡み付いている。

 

 

 

 

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