無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第三章「ロスト・ハイウェイ」

妄想:西田三郎

■2005/05/20 (金) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜69

「ロスト・ハイウェイ-29」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

「???????!!!!?????」

 ノノ子たんは猛烈な目の痛みに襲われ、悲鳴すら上げることができませんでした。
 ペッパーガスは目だけではなく、ノノ子たんの鼻や口の粘膜をも直撃し、あっという間にノノ子たんは涙ぼろぼろ、鼻水じゅるじゅる、涎だらだらの三重苦に苦しめられることになりました。

「……な………な……何????」ゼーゼーと出る咳にかき消され、そう言うのがやっとでした。
大人しゅうせえよ」男の声色が、完全に変わりました。
 涙で男の姿すら見えないので、ノノ子たんは別の男が車に入ってきたのかとさえ思いました。
「………な………なにー………なんなんこれー?……」

咳の発作は漸く収まりましたが、涙はと鼻汁と涎は止まりません。わけもわからず左手首を掴まれ、何か冷たくて固いものをガチャリと填められました。一瞬、何だかよくわかりませんでしたが、男はノノ子たんの右手首も掴むと、そっちにも同じものを填めました。
手錠でした。
といっても、これまでノノ子たんは手錠などテレビで船越英一郎 演じる刑事が悪いやつに掛けるのしか見たことありませんでしたので、自分の両手にそれが掛けられたという事実がいまいちリアルに理解できませんでした。

 ノノ子たんは大パニックに陥りました。
 
 その日の夕方、“ミスターX”に会ったときに感じた恐怖など、まるで比べ物にならない生命の危機を感じました。ペッパーガスの与える激しい痛みのせいで悲鳴すら上げることのできないノノ子たんは、まじでおしっこをチビりそうでした。本当に、全身がガクガクと震えました。漸く目の痛みもマシになってきたころ、自分が今どんな有様なのかを知り、愕然としました。ノノ子たんの両手首の手錠を繋ぐ鎖は、2列目の座席のヘッドレストの2本の金属製支柱に通されており、完全に固定されていました。

 「ええか、おとなしゅうするんやぞ」男が言いました。「ギャアギャア言うたら、またスプレーやからな

<つづく>



■2005/05/23 (月) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜70

「ロスト・ハイウェイ-30」


※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 ククケンは亢奮と喜びの絶頂にありました。
 後部座席の少女は、催涙スプレーの威力に完全にビビり、無力化しています。これまでもククケンは数多の少女たちを同様の手口で制圧し、抵抗不能にした上で手錠で拘束→ラブホテルに連れ込んでレイプする様をビデオ撮影→約束した援交料金も踏み倒して少女を置き去り、といったいわゆる“暴力的ヤリ逃げ”を何度も繰り返し、性交を、否、成功を収めていました。そのことに対して、一片の良心の呵責も感じたことはありません。
 
 全ては、世の中と大人を舐めた、少女たち自身が悪いのです。
 
 とりあえずククケンの脳内回路では、そのように結論が出ていました。
 少女たちの受難は、大人を、男を、世の中を、そして自分を舐めきって、軽率な行動に出た少女たちの身から出た錆であり、このようなヤリ逃げを繰り返している自分は、いわば神の裁きを代行している正義の味方なのだああああ、とふと思うことがありましたが、やっぱりいくらなんでも“正義の味方”ってのはちょっとしょい過ぎか……その程度の考えがククケンの行動原理でした。
 
 中学教師である彼は、生徒達から(特に女生徒たちから)のいじめと嘲笑に、ママに愛情を与えられ過ぎた繊細な神経を大いに傷つけられ、休職中の身分でした。
 このように催涙スプレーを吹きかけられ、苦しみ、手錠を填めてのレイプ映像を撮影され、苦痛と屈辱に泣き叫ぶ少女たちの姿は、ククケンの傷ついた自尊心を大いに癒してくれました。

 生徒たちと自分が毒牙に掛ける少女たちとは何の関係もありません。そのことは理性的にも理解できました。しかしこうした非道行為に自らを没入させることで……ククケンはこれまでに奪い取られていた何かを取り戻していくような、言いしれぬ<B>カタルシスを感じていました。
 ククケンにとってこの行為は、復讐だったのです。

<つづく>


■2005/05/24 (火) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜71

「ロスト・ハイウェイ-31」


※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 ノノ子たんは激しく混乱し、当惑しながらも、今自分が置かれている状況を頭の中で整理しようと躍起でした。

 目や鼻の痛みは随分ましにはなってきたけども、あの男は大人しくしていないとまたスプレーをかけると言った。今、自分は手錠で拘束されている。車はどうやら高速に入ったようです。大人しくしないとスプレーをまたかけるぞ、と言うような凶暴な男に、自分は今、運命を握られている。一体、男はあたしに何をしようとしているのだろうか……?何か、男を怒らせるようなことを、自分がしただろうか?……何も思いつかない。さっき、停車したこの車の中でナデナデされたけれども、自分は素直にそれに従った。男の望み通りに、前髪を輪ゴムで留めてまでサービスした。ふつうならそれで終わる筈だけど、男はいきなり暴力的な態度に出た。恐い。恐ろしい。あの男はぜったいにおかしい。頭がいかれている。このまま、男は自分をどこに連れていくつもりなのだろうか?そして、連れて行かれた先で何をされるのだろうか?
 ハンドルを切る男は、何かとても恐ろしいこと、とんでもないことを自分にしようとしているに違いない。恐い、とっても恐い
 
 ひょっとすると、殺されるかもしれない。
 
 ノノ子たんははじめて、今自分を守るものが何ひとつないことを思い知りました。
 
 取りあえず、大人しくせえ、と言われているのだから、大人しくしていよう。男を怒らせないように、男の言うことは大人しく聞こう。そう、お父さんのテル夫さんだって、素直に言うことを聞いていれば暴力を振るうことはない……。
 
 そんなノノ子たんの思いをよそに、男の運転するワゴンは西宮名塩サービスエリアに入りました。

<つづく>



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