愛無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜
第三章「ロスト・ハイウェイ」
妄想:西田三郎■2005/04/20 (水) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜52
「ロスト・ハイウェイ-10」
※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
電話で助平な紳士諸君を完全におちょくりまくって満足したノノ子たんは、とりあえず20時くらいに自宅に戻りました。
「あんた、今何時やと思てんの!!お父さんに怒られたばっかりでしょう!!」
帰宅するなり、パートから帰っていた母・マナ子さんの罵声が飛びます。テル夫さんは不在でした。
母、マナ子さんはいつも疲れた顔をしていて、子どもたちに笑顔を見せることはありません。しかし叱るときだけは生気を取り戻すのでした。ノノ子たんは納得いきません。いつもお父さんの暴力エーンドナデナデを静観しているマナ子さんが、こんな時だけ母親面するのは余りにも調子がいいというものです。マナ子さんは最近、特にノノ子たんに口うるさく小言を言うようになりました……ちょうど、テル夫さんによるノノ子たんへのナデナデが始まった頃から……いつもいらついている感じで、ノノ子たんのやることなすこと、全てにケチをつけます。
ノノ子たんは珍しくキレてしまい、お母さんと大喧嘩をしてしまいました。
「こんな時だけおかんみたいな顔せんといてんかーーーーーー!!」
そう捨てぜりふを残して、ノノ子たんは再び家を飛び出しました。
家はあれど、ノノ子たんは家に居ることが大嫌いでした。ノノ子たんにとって、わが家はプレイス・トゥ・ビーな空間ではありません。かといって、前述したように児童擁護施設もノノ子たんにとっては天国ではありません。暴力やナデナデがない分、家よりは少しマシでしたが。
じゃあどうすればいいのか?ノノ子たんはどこで眠ればいいのか?
これがノノ子たんにとって最期の外出となりました。
闇に聞いても答はありません。ノノ子たんは携帯でお友だちのひろえたんに連絡をとりました。
<つづく>
■2005/04/21 (木) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜53
「ロスト・ハイウェイ-11」
※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
「ちょうど今、“活動”で知り会うた人に会いにいくとこなんやん
かー。自分もおいでーさー」
電話の向こうでひろえたんは言いました。
ノノ子たんは一も二もなくひろえたんの提案に応じ、21時前に阪急上新庄の駅前で落ち合うこととなりました。確かに“活動”に出かければ家の中のイヤなことは全て忘れることができます。ナデナデされることは一緒でしたが、今のところ“活動”の相手に手荒く扱われたことはありません。“活動”=援交=売春ですので、金で買われている時間、ノノ子たんの身の安全は“活動”相手が支払った金額と同額になるわけで、ノノ子たんのライフスタイルが実にデンジャラスなものであったことに代わりはないのですが、そこまで考えられるほど、ノノ子たんは頭が良かった訳でもなく、大人でもありませんでした。
しかし、そんな子どもの頭で考えてみても、暴力の被害に遭う可能性は、家に居るより“活動”しているときの方が、確実に低くなるのです。
ノノ子たんも別に男にナデナデされることがとりわけ好きだった訳ではありません。
しかし、実の親父にナデナデされるよりはずっとマシでした。
「ごめんー待ったー?」阪急上新庄駅前で携帯をいじっていたひろえたんに手を振ります。
「ううんー全然待ってへんー」ひろえたんは笑顔で笑います。
ひろえたんの前歯が欠けていました。ノノ子たんの腕や脚には、あちこち痣がありました。
でも、お互いにその事を指摘しあうことをしないのは、お友だちの間での暗黙の了解となっていました。さて、これからクレイジーな夜に繰り出そうとワクワクドキドキの“活動”に参らん、と気合いを入れて出かけようとしたその時、ガラガラ声のおっさんが、まるで「ターミネーター2」のT-1000のような走り方で二人めがけて走ってくるではないですか。
「くおおおおおおおうら!!!!クソガキ!!!なにさらしてけつかんじゃーーーー!!!!」
テル夫さんでした。
ノノ子たんは、吐いていたゴム草履をその場に脱ぎ散らかして、脱兎の如くダッシュで逃げました。<つづく>
■2005/04/22 (金) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜52
「ロスト・ハイウェイ-12」
※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。なんとかテル夫さんの追跡を逃れたノノ子たんでしたが、気が付くと裸足です。
ノノ子たんは人気のないJRの高架下でついに走り疲れ、座り込んでしまいました。
死ぬほど走りまくったので、足の裏は泥だらけであちこち擦りむいています。しかし、家に帰って暴力→ナデナデのフルコースを味わうことを考えれば、そんなものは屁でもないのです。携帯はテル夫さんからの発信で鳴りやみません。ノノ子たんは携帯の電源をオフにしました。
“一体どないすればええんやろー…………???”
いつもは数時間後のことはまったく考えないノノ子たんでしたが、このときばかりはそう考えざるを得ませんでした。とりあえず、今晩は、寝る場所も行くところもありません。死んでも家には帰りたくないし、かといってノノ子たんの年齢では、家を飛び出して自活していくことは不可能です。
“しゃあないなあ……また施設に戻ろっかなー……”
そうも思いましたが、自分が施設に合っていないことは明かでした。そりゃ、家にいたくないからと、自分から入所を希望した施設です。もう少し辛抱強く、そこに適応しようという前向きな姿勢を持たなきゃ、と思わないわけでもありませんでした。しかし、施設に居る限り、ノノ子たんは仲良しのお友だち6人と、自由に遊び回ることはできません。
殴られながら、ナデナデされながら、お友だちと遊び回っている方がいいか?
殴られたり、ナデナデされることはないけれども、お友だちと遊べない方がいいか?
究極の選択でした。ノノ子たんはしばらくそこで座り込みながら、一生懸命考えました。しかし、すぐ訳が分からなくなってしまいました。
怖々、携帯の電源を入れてみます。お友だちのひろえたんから、留守電が入っていました。
「ノノちゃん大丈夫?おっちゃんもう家に帰ったみたいやで。今、駅前のファミレスにおるんやけど、来えへん?」
ノノ子たんはあっさり苦悩から解放され、軽い足取りでファミレスに向かいました。裸足でしたが。
<つづく>
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