無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第三章「ロスト・ハイウェイ」

妄想:西田三郎

■2005/04/12 (火) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 46

「ロスト・ハイウェイ-4」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
 
 そんなこんなで明くる日の18日、終業式も間近でしたが、ノノ子たんはハードな虐待の結果、学校へ行けませんでした。19日も行けませんでした。
 昼間、一家の家系を女の細腕ひとつで支えるマナ子さんは郵便局へのパートに出かけ、リエたんは小学校へ、トオル君は幼稚園に行きます。
 
 家はノノ子たんとお父さんの二人きりです。
 
 「ノノちゃん、ちょっとおいで」子ども部屋にいたノノ子たんを、テル夫さんが呼びます。
 所謂、猫撫で声というやつでした。とにかく、テル夫さんが怒っている訳ではないことは確かですので、ノノ子たんはほっとしました。と、同時に、“…ああ、またかー。イヤやなー”とも思いました。テル夫さんがノノ子たんのことを“ノノちゃん”と優しく猫なで声で呼ぶときは……ほんとうにナデナデされるという事の合図なのです。いつもテル夫さんは酔っ払っていて、ノノ子たんを呼ぶ前にブン殴ります。足蹴にします。傘でしばきます。首を絞めます。しかし、“ノノちゃん”と呼ぶときは違うのです。
 
 それが始まったのは、1年くらい前からでしょうか。
 
 いつもは意味不明の喚き声か怒鳴り声しか出さないテル夫さんが、お姉さんのリエたんを、今日のノノ子たんを呼ぶように“リエちゃん”と、仏間に呼ぶことがしばしばありました。いつしか、ノノ子たんも同じように呼ばれるようになりました。はっきり言って、ノノ子たんもいやでいやで仕方なかったのですが、ブン殴られたり傘でしばかれたりするのよりはマシ、と考えていました。
 
 しかし不思議なことに、テル夫さんが暴力を振るうときとナデナデをする時、同じ顔をして亢奮しているようにノノ子たんは思えました。気持ち悪くて仕方がないけど、イヤだと言えば殴られるのです
 
 そんなノノ子たんとテル夫さんの“関係”さえも、仏間に飾られたイケダ先生の肖像は笑顔で見下ろしていました。
 
<つづく>


■2005/04/13 (水) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 47

「ロスト・ハイウェイ-5」


※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
  
 そんなこんなで中学校の終業式があった7月20日、ノノ子たんは大概にぐったりしていましたので、学校をお休みしました。そんな調子で前々前日から学校をお休みしていましたので、そのままズルズルと夏休みになだれ込んだ感じでした。
 
 7月21日、昼。
 “……あー……だるー……
 いつもどおりノノ子たんがそう言いながらひとり子ども部屋に寝転がっていますと、珍しく外出していたテル夫さんが家に帰ってきました。ああ、また何かナンクセつけられておしおきや、おしおきではないらしい別のことをされるのがイヤだったので、ノノ子たんは出来るだけ声を潜めて“居ないふり”を決め込みました。
 カメレオンみたいに周囲の風景に“擬態”できたり、透明人間になればどれだけラクだろう、とノノ子たんは思いました。
 
 ノノ子たんはわずか12歳のにして、もうすべでがどうでもよく、面倒くさいだけになっていました。お友だちと遊んでいる時は、そのことを考えずに済むのですが、いつまでもいつまでも友達と遊んで家に帰らないわけにはいきません。
 
 “ほななー……ばいばいー”とお友だちと別れた後には、どうしようもなくめんどくさいことが待っているのです。
 「ああ、うっとーしー。」たまに一人のとき、声に出てしまう言葉でした。
 施設は家に比べると、暴力やその他の被害に遭わない分、ずいぶんマシでしたが、かといって天国ではありません。共同生活施設には、施設運営を円滑にすすめるための様々な規則が存在します。それにいちいち従わないたびに叱られるのもまた、ノノ子たんにしてみれば同じように“うっとーしいー…”ことなのででした。
 
 「ノノちゃん、おるんか?」テル夫さんの声がしました。
 ノノ子たんは、大きく溜息を吐きました。
 
<つづく>


■2005/04/14 (木) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 48

「ロスト・ハイウェイ-6」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
  
  「昨日、お前は大人しゅうしてよう頑張ったんで、ご褒美や」
  そういっておとうさんがうやうやしく取り出したのは、小さな包み。お父さんからこんな感じでものを貰ったのははじめてなので、ノノ子たんは一瞬ヒきました。
  「ほれ、開けてみ」テル夫さんが即します。
  
  おっかなびっくり包みを開けると、それは新品の携帯電話でした。
  
  「わあー…」ノノ子たんは正直びっくりしました。実は前から携帯電話が欲しかったのです。「お父さん……ありがとー
  
   昨夜まで自分を散々ボコったり、ナデナデしたりしたお父さんに、ノノ子たんは笑顔を見せました。
  
  「モノより思い出やけどな」テル夫さんはニンマリと笑います「やっぱり、思い出よりモノやろ
  「……うんー」さっそく携帯をいぢりはじめるノノ子たん。
  「さあ、今度から、ノノちゃんがどこ行ってても、ソレに電話したら捕まるんやからな。ちゃんと家に電話連絡するんやで。ほんで、お父さんが電話したら、どこにいても、飛んで帰ってくるんやで。わかったか?ノノちゃん」
  「うんー……」
  
  それまでぐったりしていたノノ子たんは、有頂天でした。
  さっそくお友だちの携帯電話番号を登録し、着メロも大好きな浜崎あゆみさんの歌に設定しました。そんな風に携帯を弄ぶノノ子たんの姿を、お父さんとイケダ先生の肖像が目を細めて見下ろしていました
 テル夫さんは、これでノノ子たんにをつけたようなもの、とほくそ笑んでいました。
  
  “ああ、これで活動電話がラクになるわー……”ノノ子たんは心の中でそう思っていました。
 

<つづく>




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