無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第三章「ロスト・ハイウェイ」

妄想:西田三郎

■2005/04/07 (木) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 43

「ロスト・ハイウェイ-1」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

この映画は実際に起こった事件をモチーフにしていますが、登場人物の日常生活や心理描写に関してはフィクションです
−『誰も知らない』監督:是枝裕和
 
 2001年7月20日。土家ノノ子たんの通う中学校は夏休みに入りましたが、その前日と前々日から、ノノ子たんは学校を休んでいました。ですので、終業式にも結局出ずじまい。ノノ子たんは昨年11月から、大阪市淀川区の児童擁護施設で暮らしていました。」
 16日、ノノ子たんは施設の人に、
 
 「歯医者さんに行ってくるわー
 
 とウソをついて外出、そのまま戻らず、いつも遊んでいる小学校時代からの近所のお友だち7人と「活動電話」をして時間を潰していました。「カツドウデンワ」というのは、一般的に言うところの援助交際です。いや、辞書を引いても「援助交際」などという言葉はありませんので、詰まるところ売春していたのですね。

ノノ子たんが「活動電話」で遊び始めたのは、小学校5年の学年も終盤の頃から。ノノ子たんはお赤飯を迎えたばかりでした……といっても、実際に土家家では娘の初潮に併せてお赤飯を炊く、などということはしなかったのですが……。
 
 6人のお友だちは皆、気心の知れた仲間でした。夜遊び好きで、どこに行くのにも皆で自転車に乗って行きました。そして時には、「活動電話」で引っかかってきた、すけべえな男たちの家にも、全員では行きませんが、2、3人ずつで訪れたりもしていました。ノノ子たんはいつも、「活動」するときは
 
 「うち15さいー
 
 とど助平どもにウソをついていましたが、ど助平共にはそのウソはあっさりバレているようでした。バレても、男達は怯むどころか、ますます喜ぶようでした
 
 “なんか、世の中って余裕やん。楽勝ちゃうのー。あーこのまま家に帰らんでようならへんかなー
 
 ノノ子たんはそんなことを考えていました。
 
 <つづく>



 
 

■2005/04/08 (金) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 44

「ロスト・ハイウェイ-2」


※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
 
 しかし、そうは問屋が卸しません。
 2001年7月17日夕方、施設に戻らず自宅周辺で6人の仲間たちとブラブラしていましたところ、ノノ子たんはいちばん出くわしたくない人物と顔を合わせてしまいます。
 同じように仕事もせずに街をブラブラしていたお父さんのテル夫さんでした。
 
 「見つけたぞ!!見つけたぞ!!クソガキ!!
 
 お父さんはとても怖いのです。
 慌てて逃げ出そうとしたノノ子たんでしたが、テル夫さんにガッチリ襟首を掴まれてしまいました。
 
 「ごめんなさいー。ごめんなさいー。お父さんー」
 
 泣きながら許しを乞うノノ子たんでしたが、テル夫さんはノノ子たんのガードの上からジョージ・フォアマンもかくやと思われる鉄拳制裁を加えます。さっきまで一緒に笑っていたお友だちもポカーンです。道行く人は振り返りもしません。

 そうです。東淀川区●光のあたりでは、珍しくない光景でした。ノノ子たんのお友だちも、ノノ子たんを助けてあげたい気持ちはやまやまでしたが、どのお友だちのお父さん、もしくはお兄さん、さらにはお爺さんも、テル夫さんとさして変わりがありません。
 
 今、目の前でサンドバックになっているノノ子たんの姿は、お友だち6人にとっても、今日か、よくて明日には我が身に降りかかってくる災難なのです。子どもは好きなだけ殴ることができると考えているその辺一帯の親たちの暴力は、子どもたちにとってはある種、旧約聖書的なまでに理不尽であり、逃れがたいものでした。
 
 「これからウチへ連れて帰ってタップリおしおきやからな!ええか?!ヒイヒイ言うまで泣かしたるからな!!」
 「いやああああ

 ノノ子たんはテル夫さんに髪の毛を掴まれ、引きずられていきました。
 お友だち6人は、為す術もなくそれを見守るよりありませんでした。
 
 <つづく>



 
 

■2005/04/11 (月) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 45

「ロスト・ハイウェイ-3」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
 
 7月17日夜、家に帰ってからノノ子たんはテル夫さんに 死ぬほどブン殴られ、蹴られ、踏みつけられました。
 お母さんのマナ子さんは家計を養う為に、近くのスナックへパートに出て不在でした。というか、見て見ぬ振りを決め込んでいるようでした。とばっちりがイヤだからです。
 
 妹のミキたんと末っ子のトオル君は、ノノ子たんが激しくブチのめされ、悲鳴を上げているのを、お布団の中で耳を抑え、震えながら聞いていました。ミキたんにとってノノ子たんは、とっても優しいおねいさんでした。そんなお姉さんが、お父さんにいたぶられて悲鳴を上げています。助けてあげたいのはやまやまでしたが、そんな事をするとテル夫さんの暴力の矛先が自分に向けられ、こってりとコラテラル・ダメージを受けるのは確実でした。

 ちなみに……姉のリエたんは、昨年の12月から、ノノ子たんとは別の養護施設に入所していたので、不在でした。
  
 テル夫さんの寝起きする仏間は、土家家の子どもたちにとっては、アウシュビッツのガス室よりも……或いは地獄よりも恐ろしい場所でした。
 
 リエたんとノノ子たんがずっと家から離れていた所為でしょうか。
 今日のノノ子たんへのテル夫さんの暴力は、いつになく気合いが入っている感じでした。ノノ子たんが居ないときは、お母さんのマナ子さんか、妹のミキたんがテル夫さんに殴られねばなりません。何故かテル夫さんは……唯一の男児であるトオルくんにはそれほど暴力的ではありませんでした。まだ6つだったからでしょうか?……とにかく土家家の仏間は、テル夫さんの王国であり、テル夫さんが全てを支配していました。テル夫さんはテル夫さんで、別のものに支配されていました。
 
 お酒です。
 
 痣だらけになって泣き叫ぶノノ子たんと、悪鬼の如く荒れ狂うテル夫さんの姿を、テル夫さんが崇拝するイケダ先生の肖像画が穏やかな顔で見下ろしていました。

<つづく>




NEXT/BACK

TOP