無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第三章「ロスト・ハイウェイ」

妄想:西田三郎

■2005/03/28 (月) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 35

「黙りこくる少女たち-1」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 さて、私の家庭の事情でしばらく中断しておりましたこの気の滅入る連載ですが、ようやく再開です。いつも読んで下さっている全国20人前後の皆さん、お待たせいたしました。
 
 中尾幸司氏のルポ「修羅の家」はその非常にセンセーショナルな内容で世間をアッと言わせましたが、事件から1年が経過、世間はアッといったことすら完全に忘却していました。ノノ子たんの事件を覚えていたのはわたしのような粘着の変態だけだったのか……?いえいえ違います。

 事件の2年後に出版されたフリージャーナリスト・宮淑子氏の著作『黙りこくる少女たち〜教室の中の「性」と「生」』(講談社刊)はいわゆるスクール・セクハラ、つまり教師という立場を利用して教え子によからぬことをするクズ教師たちと、その気の毒な被害者たちにスポットを当てたものでしたが、宮氏はその著作の三分の一を、この「中国自動車道中一少女手錠放置死事件」に割いています。後に詳しく触れますが、この事件によってククケンが受けた量刑は実に不可解というかなんというか、徹底的に<不条理なこの事件をダメ押しするかのように不条理であるとしか言いようのないものでした。

性犯罪というものには決まって「被害者自己責任論」がつきまといます。

 ホラ、よく言うでしょう。「ヤられた方にもスキがあったんじゃないの?」とか「夜中に女一人が出歩くからだ」とか、あたかも暴力犯罪の被害者であるはずの女性たちの行動が気の毒な性犯罪者を欲情せしめ犯罪を生み出した、とでも言わんばかりのトンデモ理論。日本は世界に名だたる文明大国であり、世界に先駆けて2足歩行するロボットを完成させたりもしますが、こと性犯罪に対する考えは土人レベルです。

 その悪癖が司法の世界の常識まで支配してるのですから性犯罪の被害者の皆さんは溜まったものではありません。宮氏の著作は、この上辺だけは文明大国の土人度を真正面から告発するものでした。

<つづく>


■2005/03/29 (火) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 36

「黙りこくる少女たち-2」


※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 宮氏はこの事件の公判に足しげく通い、事件を取り巻く不条理を追及していきます。
 この件に関する裁判に関しては第四章で詳しく触れますが、何といってもこの本の白眉は、宮氏によるノノ子たんのお父様、テル夫さんへの宮氏による、マイケル・ムーアそこのけのアポなし突撃取材です。
 
 と、いいますのも、先に挙げました中尾幸司氏のルポ「修羅の家」は、大部分をノノ子たんのお母さんマナ子さんと、ノノ子たんの妹、ミキたんへの取材で構成されており、中心人物であるはずのテル夫さんへの突撃は情けないくらいに少ないのです。あれだけテル夫さんの鬼畜の振る舞いを告発しておきながら、テル夫さんには「そんなこと、あるわけないやろがあああ!」と言われて引き下がるだけだった中尾くん、宮さんの爪の垢でも煎じて飲みなさい。
 エラそうですか?わたし。

 宮氏はノノ子たんが生前入所していた大阪市内の児童擁護施設(※)の施設長にも取材を行いますが、ノノ子たんとその家族に関することにははっきりとした情報を得ることができません。施設長は児童虐待に関する一般論でお茶を濁すばかりで、ノノ子たんの個人情報には硬く口を閉ざします。

 そこで宮氏は「(引用)こうなったら父親本人に直接糺すしかない」と英断するのです。
 素晴らしいジャーナリスト魂。わたしの最も尊敬するジャーナリストは江川紹子さんですが、この国では女性ジャーナリストのほうがデカいタマをぶら下げている、と思うのはわたしだけでしょうか?

(※)同施設はこの事件に関する報道を集約したサイトを現在も公開されています。わたしのこの駄文も、そのサイトから多くの情報を得ています。(現在は事件内容に関するページは削除されています)

<つづく>


■2005/03/31 (木) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 37

「黙りこくる少女たち-3」


※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 「(引用)阪急京都線『上新庄』駅から、JRの高架線に沿って二十分ほど歩くと、右手に大阪経済大学のキャンパスが見える。学園都市の雰囲気がある一帯だが、そこから北に流れる淀川近くになると低層の団地が続き、町工場や商店が軒を寄せて、まるで東京の下町のような猥雑な雰囲気を醸し出す。その一角にある『大阪市営**住宅』は三階、四階建ての棟が九棟あり、扇のように肩を寄せ合って並ぶ。近くを淀川が流れており、土手に上がれば見渡せるところだ。その一棟に伸夫(宮氏のルポ中のテル夫さんの仮名)さんの一家はあった」

 中尾氏のドストエフスキー級の陰鬱な描写とは異なり、宮氏の風景描写は案外アッサリしています。とても同じ地区を描写しているとは思えないくらいに。確かにその一角の雰囲気は陰鬱です。しかし、後にわたしがその地区に訪れた際には、宮氏の描写は実に正確な道案内となりました。

 テル夫さんちのブザーを宮氏がドキがムネムネしながら押しますと、「(引用)長女の玲ちゃん(仮名)とおぼしき体格のいい少女」が顔を出しました。「お父さん、居ます?」とそのおねえちゃんに聞きましたところ、
誰や!!!」と野太い声とともにテル夫さんが登場。
 「(引用)フリーのジャーナリストだと名乗ると、『フリーは信用できん!書いた記事について出版社に文句言うても、うちの社の者ではありません。もう辞めましたと言われて埒があかん!』と伸夫さんの声が気色ばむ」

 ウソかホントか知りませんが、本当だとするとフリーライターってのは本当に無責任な仕事をするのですね。当然、テル夫さんは中尾氏のルポ「修羅の家」におかんむりでした。アル中で凶暴な近親相姦野郎と書かれたのですから仕方ありません。宮氏もその同類と見たテル夫さんは警戒心も露に宮氏を攻撃します。

<つづく>




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