無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第三章「ロスト・ハイウェイ」

妄想:西田三郎

■2005/02/25 (金) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 28

「修羅の家-4」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

 さらに中尾さんは、ノノ子たんの母、マナ子さん(仮名:36歳)のインタビューに成功します。
 マナ子さんに対する中尾氏の不信感は文章の端々に表れています。
 まず、その人となりの描写。

 「(引用)…小柄で、痩せた女性だ。長袖のアーミー風のTシャツに、濃紺のジーンズ。携帯電話にキティちゃんのストラップをつけ、若づくりに気を配っている。…だが、実際の年齢よりも、彼女は十は老けて見えた陰気な性格らしく、抑揚のない、独りごとを呟くような話し方をする。斜視を気にしてか、人と目を合わせて話そうとしない。俯き加減に、まるで呪詛を吐くように延々と不満を口にするのだった
 
 …中尾くん。いくらなんでもシロウトさんにこの描写はヒドいよ。取材がやりにくかったのは判るけどさ、斜視とか、何の関係もないじゃないか
 とは言うものの、我々読者もこの中尾氏のルポを読んでいるだけで、マナ子さんをブン殴りたくなるような苛立ちを抱かずにおれません。その後も中尾氏は、カラオケ喫茶と郵便局を掛け持ちして働き、一家唯一の収入源として、ダンナと4人の子ども(その時点では一人減っていたのですが)を食わしているこのタフネスな女性を「家事をまったくしない」とか「舐め上げるように人を見る」とか「ミキちゃんにばかり辛く当たって弟のトオルくんを甘やかしている」とか、おおよそ一回こっきりの取材では知り得ないような事実を織り交ぜながら、マナ子さんを貶め続けます
 
 一体この憎悪と怒りはどこから……?戸惑う我々読者を置いてけぼりに…ライター・中尾氏の暴走は続きます。まるでこの事件の犯人・ククケンのことなどすっかりわすれてしまったかのようです。いえ、事実、そうだったのでしょう。このルポの趣旨は事件そのものよりも、それを産んだ土壌に標準を定めたものでした……つまり、ノノ子たんの家庭について…そして、父テル夫さんについて。

<つづく>


■2005/02/28 (月) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 29

「修羅の家-5」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。

「あんたらね!!なにを考えとるんですか!!12歳の少女をですよ!!手錠を掛けて高速道路に放り出すような男がですよ!!子どもに勉強を教えてたんですよ!!わかってるんですか!!」

 ヒステリックに叫ぶ、ノノ子たんのお父様=テル夫さんの姿をわたしがテレビで見たのは、その年の9月、ククケンが逮捕された直後のことでした。テル夫さんに怒鳴り散らされてショボンとしている姿を全国のお茶の間に晒されているのは、ククケンが勤務していた中学校の校長と教頭。しかも場所は土家家が居住する公営住宅の前。屋外です。近所の皆様も口アングリで、その様を眺めています、
 
 大事な娘をあんな形で失った父親が、やり場のない怒りを容疑者の上司にぶつけている…。
 まあ、好意的に見れば、そんな構図です。しかし…この映像を見たわたしを含む日本国民は、それでもなんだか納得のいかない想いを抱かずにおれませんでした。だいたいからして、テル夫さんが怒りをぶつけているのは、容疑者の上司、という、はっきり言って直接的にはなんの責任を負うべきでもない人々であり、その職場にて休職中の身分であったククケンの犯した犯罪について、彼らが責められるべき合理的理由はなんら見あたらないからです。
 
 …それに…それよりも衝撃的だったのはテル夫さんの容姿です。「行列のできる法律相談所」のレギュラーである丸山弁護士から人の良さを排除し、狡猾さを5倍増ししたようなステテコ姿の白髪のテル夫さんは、大阪市内ではよく見かける“手に負えない酔っ払いのオッサン”そのものだったのです。
 
 …もうひとつつけ加えると、その頃、世間はもうその事実を知っていました。殺されたノノ子たんは死の直前まで、児童養護施設で家族と離れて暮らしていました。そして、その理由は、父・テル夫さんによる、ハードな虐待だったのです。
 
 <つづく>


■2005/03/01 (火) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 30

「修羅の家-6」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割9分くらいまでが妄想です。

 また、中尾幸司さんのルポからの引用です。
 
「(引用)父が向かう仏壇には、大好きだった姉の位牌が据えられていた。戒名はなく、「妙法神尾則子(中尾氏のルポにおけるノノ子たんの仮名)」とたけ記してある。父の寝起きする、その四畳半の仏間をみか(ノノ子たんの妹・ミキたん)は異様に怖れていた。仏壇横の書棚には『人間革命』というタイトルの本が並べられ、青いパーカーを着た姉の遺影が置かれていた。近くの壁には法被姿で金扇子を持った男の写真。その大きな顔の男を、父はセンセイと呼んでいる」

 …まるでホラー小説の導入部分です。
 言わずもがな、テル夫さんがセンセイと呼んでいる、“法被姿で金扇子を持った大きな顔の男”というのは、池田ダイサク先生のことです。そう、あの第三文明の人。レイプ魔疑惑のある人。ずーっと“週間新潮”とモメてるあの人。テル夫さんは、バリバリ君の一人、つまり創価学会の信者でした。信仰は憲法で認められている国民の自由ですが、その時点で新潮的にはかなりアウトです。
 
 誤解を恐れずに言いますれば、中尾氏がこのルポで槍玉に挙げたかったのは、事件の容疑者であるククケンンではなく、このテル夫さんだったのです。
 
 「(引用)お父さんなあ、則ちゃんが死ぬまで三年間くらいは酒は止めてたんやで。でも、また酒を飲み始めた、それからはひどいわ…。断酒会にも入っとるて、お母さん言うとったけど、意味ないわ
 
 とは中尾氏のルポ中のミキたんの弁。
 
 テル夫さんは近所でも有名なアル中であり、酒乱であり、嫌われ者だったようです。
 そして、酒を飲んでは暴れだし、妻や我が子にハードなヴァイオレンスを加える、ドメスティックな暴君でもありました。
 
 <つづく>




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