愛無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜
第三章「ロスト・ハイウェイ」
妄想:西田三郎■2005/02/22 (火) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 25
「修羅の家-1」
※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
前々章でも触れましたが、この事件に関する様々な報道の中で、とりわけ話題を呼んだのが「新潮45」2001年11月号に掲載された、ルポライター・中尾幸司氏の手によるノンフィクション・ルポ「修羅の家」です(現在、新潮文庫・「新潮45」編集部・編『殺ったのはおまえだ 〜修羅となりし者たち、宿命の9事件』内に「高速道路で轢死した少女が夢見た『家族の情景』」と改題されて収録)。
世間を騒がした犯罪とその周辺の根本的な問題性にも深く切り込んでいくのがお家芸である「新潮45」誌の数々のルポの中でも、この中尾幸司氏の「修羅の家」は凄まじいテンションで、ルシオ・フルチの「地獄の門」のようにドリルで頭にじわじわと穴を開けられるような不快感と苦痛を、我々に与えてくれます。
ルポそのものは、ノノ子たんが暮らした大阪市東ヨド川区瑞●近辺の、なんとも気の滅入る陰惨な街並をさらに重苦しく、おぞましく描写することから始まります。
「(引用)埃っぽい街のメインストリートは人通りも少なく、ひしめく家や路地のそこかしこに沈滞の気配が漂っていた…(中略)…各団地のベランダには洗濯物や布団がヘン翻(注:変換しない)とひるがえり、一見して平和な光景が広がる。だが、奇妙なことに、いつ訪れても、おかみさんや子供たちの歓声、キャッチボールやサッカーに興じる親子の姿はどこにもなかった、住人の多くは老人で、あたりは水をうったように静まり返っている」
おお…なんだかブンガク的。そう、このルポは単なるルポではなかったのですね。<つづく>
■2005/02/23 (水) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 26
「修羅の家-2」
※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
ライター・中尾幸司氏のブンガク的描写は続きます。
「(引用)狭い廊下を隔てた仏間から経を読む父の声が聞こえてくる。その陰々滅々とした節回しに、三女のみか(仮名・10)=年齢は当時、以下同=ははかなく萎れ、うつろな表情を浮かべた。朝の景色や爽やかな秋風、小鳥の声、ピアノの音色、金木犀の香りがたちまちのうちに色褪せていく」
取材が行われ、ルポが書かれたのは、ククケンが逮捕された9月8日より間もない頃。人のウワサも75日、といいますが、人々は殺されたノノ子たんが12歳の少女であったこと、下手人が現役(休職中)教師だったことに大層おどろきましたが、事件自体が早くも忘れか掛けていたところでした。
このルポの大部分は、ノノ子たんのお母さんであるマナ子さん(仮名:中尾氏のルポでは雅子さん[仮名])への自宅インタビューで構成されています。そのなかで、わけても中心に据えられるのは4人兄弟だったノノ子たんの妹、ミキたん(仮名:中尾氏のルポではみかちゃん)。です。
「(引用)みかは自分を鼓舞するように、テレビ番組『ナースのお仕事』の主題歌を口ずさんでいる」
ちなみにみか=ミキたんに対する中尾氏の描写は以下のとおり。
「(引用)マドラスチェックの安物のシャツ、デニム地のキュロットスカートを身につけている。玄関のたたきには、お気に入りのピンク色の厚底スニーカーが揃えてある、身長は一五〇センチに満たない痩せた女の子。色白で細面、薄い眉と一重の目。亡くなる直前の姉(注:ノノ子たん)にブリーチしてもらったおかっぱ頭が、真っ茶色に染まっている」
…ジャーナリズムの使徒であるこのライター氏は次第に、ノノ子たんの幼い妹、ミキたんに萌え上がっていくのです。
<つづく>
■2005/02/24 (木) 愛無き世界に(第三章) 〜ロスト・ハイウェイ〜 27
「修羅の家-3」
※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。9割8分くらいまでが妄想です。
ミキたんは中尾さんの取材に対して、はじめは凄まじく警戒し、ダンマリを決め込もうとしたようです。余計なことを言おうとする弟のトオル君を叱りつけ、何を聞いても「知らん!!」
仕方ありますまい。
ジャーナリズムは大衆のゲスな好奇心を満たし、そのために奔走する新聞記者やジャーナリストは「知る権利」と「報道の自由」を振りかざして、他者のプライヴァシーを侵害し、泥靴で踏みつけるどどころか、連中の靴は泥だらけな上に犬のクソまで踏んでいます。
第一章でも触れたように、ノノ子たんの死後、各マスコミはククケンに関しては犯罪行為の糾弾よりも、そのエロビとテレクラにまみれたその千擦りライフを面白おかしく伝え、その反面、12歳にしてテレクラにハマり、無断外泊を繰り返していた少女・ノノ子たんのおませな中1ライフを、これまた面白おかしく垂れ流して来ました。
ミキたんにとってノノ子たんは、とっても優しいおねいさんでした。
それを生前の行動だけを捉えて、「中一でテレクラにハマったクソガキ」と断罪して、何か有意義なことをしたつもりでいるマスコミに対し、ミキたんが良い感情を持てる訳はありません。
中尾さんのルポによると「知らん!」と「あんなん嘘や!」というのがミキたんの口癖だったといいます。ミキたんにしてみれば、中尾さんもそうした蛭にも劣るゲス野郎ばかりのマスコミの一員にしか見えなかったのでしょう。
「(引用)子どもとは思えない、おとなびた口調でみかは言った。自分が凝視されていることに気づくと、今度は唇の端を歪ませてうっすらと笑う、この子は、一体いつからこんな笑い方をするようになったのか。半ば呆然としながら、私はその挙措を見守っていた」
…そんなミキたんに、ライター中尾氏はどんどん萌え殺されていきます。
<つづく>
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