わるいおまわりさん
作:西田三郎
「第4話」 ■こらしめられて
はっきり言って、殴られたときは……こんなあたしでもやっぱりショックを受けた。
目の前が一瞬暗くなって、月並みだけど頭の中でチカチカと星が瞬いた。
あたしの中にあった全ての前提が消し飛んで、あたしは自分が間違ったことを言ったことを思い知った。いや、間違っていたかどうかはわからない。社会全体の基準から言って、三島をバカにしたことが間違っていたかどうかはどうでもいい。
とにかく、あたしはこの状況において、とてもまずいことを言った。それは確かだった。びっくりするくらい頭が早く回り始める。
次に、ようやく頬に痛みがやってきた。「このあばずれ……クソなまいきなエロガキが……」
三島の顔を見る……そこにはあたしが知ってる三島とは全く違う人物が居た。
鼻や口はつけるのを忘れたとしても、決して彼の顔から消えることのないあの腑抜けたニヤけ面は、もうそこには見られない。いつもは底が浅く、手に取るようにその頭の中をうかがえるその一重まぶたの奥の瞳は……まるで底なし沼のように深く、その水面は静まり返っている。あたしはここにきてはじめて怖くなった。
「……えっ……」いきなり三島があたしの胸倉を掴んだ。
あたしはてっきりまた殴られるもんだと思って顔を手で隠した。
でもとにかくその日は……あたしの予想とは違う方向に全てが事が進む日だったようだ。「ほうれ」三島があたしのブラウスの前を引き裂く。
あたしは殴られたショックからまだ立ち直っていないところに、こんなことが起こってますます思考不能になった。
ぶちぶちっという音の跡に足元にブラウスのボタンが散らばる音がする……ああ、いったいいくつ外れたんだろう、とあたしは思った。ていうか、このブラウスはもう着れなくなった……ちょっと待てよ、一体、こんなのメチャクチャじゃん?次に胸元に三島の息が掛かった……ブラの上のはみだしてる部分に、いきなり三島が吸い付いてきたのだ。
「……この乳が悪いんだよ……この乳が……」はあはあ言いながら、三島があたしのおっぱいの上半分に被りつく。
一瞬、噛み切られるんじゃないかと思って焦った。
三島はあたしのおっぱいが大好きだった。別に自慢するわけじゃないけど、あたしのおっぱいは大きい。あんまりおっぱいが大きいのも考え物だ……肩は凝るし、服にもそれなりに気を使わなければならない。特に学校の制服を着てる時なんか胸がパンパンになったりして最悪だ。
いや、あたしははっきりいってとても賢そうな顔なんかしてないけれど……突っ張ったおっぱいのせいでますますバカっぽく見える。
「……これを、あいつにも揉ませたんだろうが?……ええ?……こんなふうに……こうやって……」
「んっ……」
三島がいつもより乱暴にあたしのおっぱいを両手で掴み引きちぎらんばかりに引っ張ったり、押しつぶしたりしはじめた。実際痛かったけど……なんだかその場では“痛いよ”という当たり前の抗議すら許されないように感じた。
「……まったく……なんちゅう乳だ………悪い乳だ……ほんとに悪い乳だ……」
「……あっ…」三島があたしのおっぱいを掴んで上に持ち上げる。思わずあたしはつま先立ちになっていた。「……んっ……」
「……感じてんのか?……感じてんだろう?……まったく、ちょっと揉んでやりゃあすぐよだれたらしてハアハア言い出しやがる……おいこらエロガキ……聞いてんのか?……聞いてんのかってんだよエロガキ!」
「…………」あたしはおっぱいを持ち上げられながら、恐々、三島の顔を見上げた。
「………いいんだろう?……ええ?こんなふうに乱暴に揉まれるのがイイんだろうが……そうだろ?ええ?……俺はこれまで優しすぎたからなあ………それじゃあ不満だったんだろ?……え?……そうじゃねーのか?」
三島はそう言いながら今度はいつもみたいにやわやわとあたしのおっぱいを揉み始めた。いや、いつも三島はどんなふうにあたしのおっぱいを揉んだっけ?……はっきり言って、そんなことはいちいち覚えていない。
でもそのときの三島の手つきは妙に慎重で……なんだかいやらしかった。
いや、その、“いやらしかった”という表現が不適切なのは充分理解しているのだが、少なくともそのときのあたしはそんな風に感じた。
そう思うと……不思議なもので、それまでただ恐くてしょうがなかった状況そのものが、なんだかいやらしいもののように感じられてくる。
「………ん………」なんだかまた、素でへんな声が出てしまった。三島はその声で調子付けられたみたいで、さらに念入りに、ねっとりとあたしのおっぱいを弄ぶ……って、なんだかいやらしいね“もてあそぶ”って響き。
「……ええ?……どうなんだよ?……こんな風に……いつもの俺みたいに……優しく揉まれるのがイイのかよ?……なんだよ……ほら……ほら……息が上がってきてるじゃねえか……どうだ?……ええ?おい。……ほら……どっちがイイんだよ?……こうやって優しくされるの方がイイのか?……それとも……さっきみたいにめちゃくちゃに乱暴にされるのがイイのか……ほら、言ってみろよ」
三島が好き勝手なことをあたしの耳元で囁きながら、おっぱいへのやわやわ攻撃を続ける。ここでこんなことに関して言及しておく必要があるのかないのかわかないけれども……三島は確かに冴えない男だが、声だけはとても素敵だ。なんというか……その、バリトンっての?そんな感じのイイ声なのだ。
耳元で囁かれると……なんだか躰の奥がムズムズしてくる。いや、わかってるよ。そんな状況でムズムズしてくるなんてヘンだって。
でもムズムズしてきたんだからしょうがないよね。またあたしは余計なことを考えていた……この状況でこんな事を言ってみるとどうなるんだろう、って。
「……ぜんぜん良くないよ……」あたしは言った。「……もっと、メチャクチャにしてよ……あいつの方が、ぜんぜん良かった。あんたのなんか、ぜんぜん感じないよ」また三島の顔が素に戻る。
次の瞬間、あたしはさっきとは反対側の頬を張られた。
その次の瞬間、ブラウスとブラジャーを引き毟られていた。びっくりした……人間の力で、引き毟れるんだね、ブラジャーって。背中でホックがはじける音がした時は、背筋が凍りついた。「いやあっ……」
こうなるのわかってて、バカだなあ……って今から思い出してみるとつくづく思う。
「……そうか!わかったよ!メチャクチャにしてやる!メッッッチャクッッッチャにしてやるからな!覚悟しろこのエロガキ!!」
三島はあたしを壁に押し付けると、顎を掴んで口を開かせ、そこに丸めたブラウズの残骸をを無理に押し込んできた。
「むぐ、ぐ、ぐ」
「……大人しくしてろよ、お前がそうして欲しいって言ったんだからな……これはお前が悪いんだ……わかってるよな?」
三島はそう言うと、スカートのホックを外す手間も省いてあたしのスカートを引きちぎり、膝で引っかかる布に足を掛けて一気に踏みおろした。
<つづく>
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