わるいおまわりさん
作:西田三郎

 

「第2話」

■で、ご満足かね?

 「いやだってば……ねえ、ちょっと待ってったら……痛いって……痛いよ……」

 三島に連れ込まれたのは、公園の奥に建てかけのままほったらかされていた、植物園の裏だった。この公園のことはずっと前から知っていた。なぜなら三島が何度か連れて行ってくれたからだ。あたしはここで、何回か三島とキスをしたことがある。
  いや、そりゃもう……キス以外のこともした。
  おっぱいを揉まれたりとか……その、スカートの中に手を突っ込まれたりとか。

 この植物園の建設がほったらかしになって、もう2年になる。
  白かったコンクリートの壁も、今では風雨にさらされてねずみ色に変色していた。
  はじめて三島があたしをここに連れ込んだとき、三島は随分この場所に関して詳しい様子だった……ってことは……三島はあたしを連れ込むより前に、誰かとこの場所にしけ込んだことがあったんだろうな。
  いや、きっとあったに違いない。
  たぶん、あの子も……あたしとは別の日に、三島にこの場所へ連れ込まれていたのだろう。今となっては本当にどうでもいい話だけど。

 その場所はつまり、恋人たち(……ウゲー)がそういうことをするのに最適の場所だった……雨の日は屋根がないのでちょっと辛いけど、奥まった場所なのでいったん潜り込んでしまえば四方は死角だ。たしかにちょっと埃っぽくて冬は寒いだろうけど……あたしはまだ冬にその場所に連れ込まれたことがない……そこに連れ込まれると、なんだかその閉塞感のおかげで、何か妙な気分があたしの中でウズウズするのを感じたものだ。

 しかしその日はちょっと雰囲気が違った。
 
  三島はとっても怒っていた。

 あたしの手を乱暴に引きながら、一言も口を効かなかった。
  あたしは手が抜けそうになりながらも、足はちゃんと三島の引っ張る方向に歩かせていた……うすうす感づいてはいたけど、向かう先があの出来かけ植物園の裏だと判った途端に、

 “……おいおい、今日もここかよ?”と思わざるを得なかった。

 あたしは全然そんな気分じゃなかった……けども、その場所に引っ張られると、なんとなく心が少しだけずきんと疼いた。ああ、バカだなあ、あたし。でもまあ……三島も怒っているみたいだし……ここでちょっとなんやらかんやら、くんずほぐれつしたら、三島も少しは機嫌を直すだろうか?……みたいなアホらしいことをぼんやり頭で考えていた。

 「きゃっ……!!

 すっかりその“おさわりゾーン”に連れ込まれたあたしは、ねずみ色をしたコンクリートのばっちい壁に背中を押し付けられた。

 「……このあばずれ……淫乱娘が……お前にはお仕置きが必要だ……なんでこんな目に遭うか、わかってるだろ?」三島があたしに顔をくっつけて鼻息荒く言う「……お前は、俺を失望させた。とんでもない淫売だよ、お前は……なあ、わかってるか?俺がお前にこんなことする理由を?」
  「……………」

 あたしは何も答えずに、ふてくされたような顔(……に、三島には見えたんだろうね。いや、事実そういう顔をしてたんだけどさ)で三島の足元を見ていた。とてもじゃないけど……“単にあんたがやらしいことしたいだけでしょお?”と正直な気持ちを吐く気分にはなれなかった。

 「………何とか言えよ!!」いきなり、三島があたしのを掴んで乱暴に上にあげる。 「……………」それでもあたしは何も言わなかった。

 あたしにも言いたいことはたくさんあった……でも、この場で三島をさらに怒らせるのはよくないと考えたからだ。それに……ほんの少しだけども、怖くもあった。三島が無害で口ばっかりな男であることはわかってたけど……ここは誰の目も届かない死角だ。
  ふつう……こんな場所でかんかんに怒ってる(のかどうかよくわかないけども)男と二人きりで居るとしたら……少しくらいは怖くなるものだ。

 ただ、その時に感じていた恐怖は、靴の中に小石が入り込んでいるときの心地悪さくらいの、ほんの微細なものだった。

 「……おれは………おれは、お前を信じてたんだぞ……それなのにお前は……」

 三島はそれだけ言うと、いきなりあたしのスカートの中に手を突っ込んできた。

 「……いやっ………ちょっと……やめてよ、やめてったら………」
  「なにが、“やめて”だこのエロガキ!」三島はそんなことを言いながら、あたしの太股と太股の間に手を差し入れて……パンツの布の合わさった部分に指をぐいぐいと押し付けてきた。「………ほうーら………なんだかんだ言って、もう湿ってるじゃないか……」
  三島は得意げだった……いつもと、まるっきりおんなじ。
 
  いや、その濡らしてたかって……?
 
  さあ、どうだろ。ふつうはすこし湿ってるもんだし、その日は熱かったしねえ。
  まあ、この場所に連れ込まれた時点で、あたしの方もだいたい何が起こるか想像はついてた訳だし……それに三島が俄然やる気まんまんだったし。
 
  見ると三島の色あせたジーンズの前は、ぎんぎんにテンパっていて、あたしは正直言って呆れた
 
  ……ああもう、なんであたしこんな男と付き合ってんのかしら。なんでこんな男にこんな場所にやすやすと連れ込まれてんのかしら。で、それであたし濡らしてんのかしら?……それだとすると、ほんとうにあたしって大バカだなあ……なんてことをぼんやり頭で考えていた。

 「……ほれほれ、こうするとますます濡れてくるぞ……」

 とかなんとか言って、三島はあたしの脚の間の布地をぐりぐり、ぐりぐりした。
 
  「……んっ………くっ………」あたしは痛さ半分、興奮四分の一、演技四分の一くらいで、やらしい声を出した「………や、やめてっ………たら………」
  「……やめてとか言って……なんだよ、この濡れ様は……ほうら……ほれほれ……」
  「はっ………ん…………やっ………」

 そんな感じで、三島があたしの股間をパンツの上からぐりぐりし、あたしはその程度の攻撃に相応しい声を出した。しばらくそんな退屈なやりとりが続いた……この辺は、いろいろ言っても退屈なだけだから割愛する。
  でもあたしの三島に対する、何か特別な熱い思いは……ずっと最低値に下がったままで、ピクリとも動かなかった。

 「……いっ………やっ………

 三島の指が、パンツの脇から中に入ってきた。
  三島は指の第一関節くらいを挿れると……にやーーーーーっと、あの5歳のいたずら坊主みたいな顔をあたしに見せた。その次に三島が見せたのは、すばやくあたしのパンツの中から抜いたその指だった。

 その指は確かに……第一関節のあたりまで粘液で濡れ光っていた。

  「……ほうら……見てみ。こんなに濡らして………なんていけない子なんだお前は」
  「…………」

 あたしは黙ってその指を見た。本気でこいつはアホだと思った。
  よせばいいのに、あたしはその場で言わなくてもいいことを言った。

 「……で、ご満足ですかね?

 さっと、三島の顔からあの無垢な笑みが消えた。
  三島が真顔になり、あたしがそれを見て怖がるべきだと判断するより早く………三島の手の甲が飛んできてあたしの右頬を打った。


 

<つづく>

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