わるいおまわりさん
作:西田三郎

 

「第11話」

■ひどいおまわりさん

 あたしはコンクリートの壁に手を突こうとした。

  昨日三島に突き飛ばされて手をついた部分と、ぴったり同じところに手をつこうとした。
  ……目をこらして壁を見る。そうしてあたしの手形を探した。目をこらしてみると……なんと、壁には無数の手形がついている。何十、何百、何千という手形が壁のいたるところに……ほとんどは女の子の小さな華奢な手形だった。その中には、小さな子供のものらしい可愛らしい手形もあった。……それはふつうの手形がついているところよりも、かなり下についている。

  あたしはそんな小さな子がこの場所で壁に手をつかされて、どんなことを、どんなふうにされたのかを想像した。それは少し痛ましい情景で……珍しいことにあたしの心は少しだけ痛んだ。

  いやいや……別にこの場所に居たからって、誰もがいやらしいことをしているとは限らない。そうだ、あたしはこの場所はいやらしいことをするところだと勝手に決め込んでいた。そんなことをしていたのは、ひょっとするとあたしたちだけだったかも知れない。

 はてさてそんなことはどうでもいい……とにかくあたしは、あたしの手形を探さなければ。

 目を凝らしてじっと見てみる……と、ひとそろいの薄く緑の色がついている手形を見つけた。もしやと思い、自分の手を当ててみる……ああもう、なんて素晴らしいんだ。
  その手形はあたしの手の大きさにぴったりだった。

 「さあて……そろそろ挿れるけど……もういいかあい……?」背後であたしのパンツを降ろしていた速水が言う。その声にはますますエコーが掛っていた「……手形、見つかったあ………?
  「うん……見つかった……」あたしは肩越しに速水を見て言った「……いいよ……」
  「よーし……」
  速水が何かごそごそしているのがわかった。
  と、次の瞬間、あたしのあそこに、ぬるっ、と丸いものが入ってきた。
  「……えっ………な、なにそれ……」次に、それが速水の指によってぐっ、と奥に押し込まれる。「んんんっ………」
  「ああ、さっきのキャンディだよお……」と速水。「下のお口からでもおいしいんだよね、これ………」
  「あっ………んっ………ひゃあっ………」

  別の手を使って、今度は速見があたしのクリトリスを刺激してきた。
  いきなり下半身全体が、まるで長時間正座した後みたいにびりびりと痺れはじめる……自分の躰が波を描いてくねり、勢い良くお尻を突き出したので、速水のお腹に激しくぶつけてしまった。
  「……どう……すごいでしょ」速水はそのままあたしのクリトリスを転がす。
  「……やっ………やめ………やめて……ってか……おかしくなっちゃう………頭がへんになっちゃう………」
  「まだまだだよ……さっき挿れたのが溶けてきたら……もっとすごくなるからね」
  「……ひっ……そっ………そんな…………んんんっ………」
  クリトリスを撫でられたのかと思ったら、実は内腿をやさしく撫でられただけだった。もはや下半身のどこまでがクリトリスで、どこまでがクリトリスじゃないのかわからないくらいである。

 そのまま速水は、あたしのお尻や、腰、太股や内腿を、ゆっくり時間を掛けて撫で続けた。そのたびにあたしは大きな声を出して、躰をびくんびくんと躍らせた。まるで下半身の皮がぜんぶむけて、むき出しの肉にそのまま触れられているみたいだった。

 「……ほ、ほんと……もう……もうダメだって………し、死んじゃう……」
  「いやいや、これからじゃないか……死んだりしないよ。おかしくなったりもしない………人間は誰も……自分で思っているよりずっと強いんだ。」速水があたしの下半身を撫でながら言う「……君だって……辛いことがあったって、ちゃんと生きてるじゃないか。頭がおかしくなっちゃったかい?……どうってことないよ。薬もいつかは効果が切れる……そしたらなにもかも元通りになってるよ……一昨日までと、何にも変わらない」
  「で、で……でも……」
  「……すっごく溢れてる……なんか、おもらししてるみたいだよ……君の中が熱くなってるから……薬の溶けも早いんだろうね……」そういって速水は、あたしのあそこの中に指を入れてきた「……ほら、もう中でこんなに小さくなってる……」
  「いっ……やっ………やめて………

 あそこの中で小さくなった錠剤を速見が指の先でとらえて……ころころと転がしはじめる。あたしは顎を閉じることができなくなったみたいで……涎が下に向かってだらだらと零れ落ちた。くちょくちょと、ほんとうになんともいえないいかがわしい音が、これまたエコーつきで耳まで届いてくる。
 
  「……ああもう……すごいなあ……どう?こんなになったことある?
  「……な……ないよこんなの……でも、ほんと……あたしもう………」

 もう立っていられなくなっていた。あたしはずるずると壁を伝って、崩れ落ち居ていく。

  ああもう、なんてひどいおまわりさんなんだろう。
 
  あたしは地面にお尻をつけないようになんとか踏ん張った。
  踏ん張ると、新たな液が染み出してきて、あたしの内腿を伝っていく。
  昨日散々三島にぶっかけられた精液より、それは熱かった。
  まるで塩酸かなんかのように、その熱さがあたしの内腿を焼く。

 あたしが恐々振り返ると……自分の腰が暴れ馬みたいに跳ねまくっているのが見えた。 全く感覚を失っていたので……自分の腰がそんなふうに動いていることには気づかなかった。ああもう、あたしどうなっちゃうんだろう……?

 「……あ………ん……………う…………」
 
  コンクリートの壁におでこをくっつけて目を閉じた。

  昨日、この同じ場所で散々な目に遭ったことが……まるで映画でも観ているかのように早回しで頭の中を流れていく。殴られて、おっぱいを引きちぎるように揉みまくられて、正面を向いて立ったままで一回。そして裏返されてうしろから一回。その後、さんざん顔に精液をぶっかけられて、その後は口に突っ込まれて精液を飲まされた。

  で、あたしはどうなったんだろう?
  何も変わってはいない。
  その後、キスしてくれと三島に迫った。お腹を蹴られて、その場にうずくまった。
  それでも、あたしの中で何かが決定的に変わってしまったということはない。
  それからあたしはボロボロの服のまま、この場所で夜を待って……闇夜にまぎれてひとりで家に帰った。
  それでも、あたしは何も変わっていない。

 あたしの脳裏に、さっき速水が見せてくれたあの画像が蘇ってきた。

  灯油を頭からかけられて、手錠を嵌められ、お尻にバイブを突っ込まれて泣き叫んでいる三島のあのなさけない姿。それであたしは心の平穏かなにかを得ただろうか……?……やっぱり、そんなものを得ることはできなかった
  というか、この一連の事件によってあたしの心に、小石を水面に落とした程度の波紋すら生じただろうか?
 
  それでいいんだろうか?
  ……それでいいかも何も……あたしには何も感じることができない。

 「……ね、ねえ……」あたしは速水に言った「も、もっと………へ……へんなこと……して……」
  「へんなこと?……」速水が聞く「……どんなことかな?具体的に言うと………」
  「その………あの………ええっと……」何故そんな考えが浮かんできたのだろうか?時折人の頭には、とんでもない考えが気まぐれにふわりと舞い降りる「………そ……そ、その………あの………お、お尻に………挿れて……
  「え、………あいつに、そんなことまでされたの?」
  「……う、ううん」あたしは首を振った「……そうじゃなくて、あたしがしてほしいの
  「よし……」速水の指が、あたしのお尻の穴に触れる。
  「あっ……」そのまま、速水はするすると指を根元まで滑り込ませた「………くうっ……」
  「……ちょっと、ほぐすよ

 速水はあたしの前から溢れる大量の液を救い上げると、丹念にお知りの穴の周辺に……そして指を突っ込んではその内側に、丹念に塗りつけ始めた。
  ああもう……その感じをなんて表現したらいいんだろう?
  ほとんど痛くはなかった……錠剤の影響か、あたしの躰は筋肉が弛緩して……完全な無抵抗状態にあったみたいだ。まあ薬のせいだけじゃないだろうけど……そういうことにしておいてほしい。

  「挿れるよ……オッケー?」速水がいつ出したのか、自分の陰茎の先端をあたしのお尻の穴に押し当てる。「……大丈夫だとは思うけど……ほんとにいいの?
  「……うん………………ううううんんんっっっ!!!

 入ってきた。かなりきつかったが、薬のせいか痛みはほとんど感じなかった。
 
 「おおおう……」三島も悲鳴らしきものを上げる。

 三島があたしを痛がらせないように……慎重に、丹念に腰を動かす。
  あそこから喉元まで、全身を太い杭で突き通されているようだったが……あたしは手を突いたコンクリートの壁を反対側に倒しかねない勢いで手をふんばって、その激しい感覚に耐えた。
 
  いろいろといやらしいあえぎ声を出したり、ここでは言えないようなふしだらな言葉を言ったような気がするけど……それらはいちいち覚えていない。悪しからず。

 「ううっ……う、う……うっ!!!」三島があたしのお尻の穴からアレを引き抜き、あたしの靴のほんの数センチのところにしたたかに精液を飛ばした。「は、は……はあ……こ………こりゃたまらん……この歳には堪える………」

 三島はあたしの背中にぐったりと身を伏せた。
  あたしもしばらく息があがって………何も言えなかった。

 「……あの………」あたしは言った「……その、もう一回…………キスしてくれる?」
  「え、そんなんでいいの?」速水はびっくりしたように言った。

 それからあたしたちはまた、地面に座り込んで……ねっとりとキスをした。
  何度も何度もキスをしたり、お互いの耳たぶを噛んだりしながら、二人の薬の効きが弱まっていくのを待った。
 
  見上げると空はすこしオレンジ色に染まっていて……鳩たちのかわりに、カラスが時折その四角い空を左に右に横切っていった。

 

<つづく>

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