わるいおまわりさん
作:西田三郎
「第10話」 ■死んじまえ、この売女
とんでもない量だった。
あたしの目の前で、三島のアレの先っぽの穴が、何回も、何回も開いては閉じた。
そのたびに、熱いべっとりしたやつがあたしの顔めがけて飛んでくる。あたしはぼんやりそれを見ていた。あたしの顔はべとべとになって、顎から首に伝って流れる精液はとても熱かった。
「……うっ……うっ……うっ……ううっ……うっ………」三島が呻く。何度も目に入りそうになったし、当然口や鼻にも入ってきた。
何回か三島に精液を飲まされたことがあったけど、別にそんな状況だったからと言って、味に何か変わりがあるわけじゃない。
あたしはとりあえず、じっとしていた。
髪にかかるのがイヤだったからだ。そりゃ完全に髪にかかるのをカバーすることはできなかっただろうけど、どうせもう裸も同然の格好にされていたんだし、あと守らなければならないのは髪くらいだった。
「……うっ……うっ……うっ……ううっ……うっ………」
ああもう、一体どれだけ出すつもりなんだろう?
あたしはとにかく、じっとして……三島の射精が収まるのを待った。「……は………あ、はあ………はあ………」
顔にかかる精液のつぶての勢いがだんだん弱くなって……最後の一滴はあたしの顔まで届かなかった。あたしはまだじっとしていた……だらだらとそれは流れて、あたしの鎖骨のくぼみやおっぱいの上に溜まっている。その一筋は、おへそにまで垂れた。
みるみる精液は冷たくなっていった。
「………はあ……はあ……」三島が満足げにあたしを見下ろす。
「………」あたしはあんまり目を開けてられなかった……目に精液が入るからだ。
「……よ、よし」そう言って三島はあたしの頭を掴んだ「……ほら……きれいにしろ………」
「………」あたしは抵抗なく口を開けた。やれやれ、まだ続くのか。あたしがまだひくひくして、完全に柔らかくなっていないそれを口に含むと、三島はいきなり喉の奥まで押し込んできた。
「うげっ……」思わず、吐きそうになる。
「噛んだらまたぶん殴るぞ……わかってるな、丁寧にやれよ、丁寧に」というわけで……あたしは言われたとおりに丁寧に舌を使った。
かいつまんで言えば、その何分か後に……三島はあたしののどちんこめがけて、再び大量に射精した。どんなふうにあたしが舌を使ったとか……その間に三島にどんなことを言われたとか……あたしの口の中でそれがどんなふうに硬くなっていったかとか……。もういいでしょ?……聞かされるのもいい加減飽きてきたよねえ?
「ちゃんと飲めよ……こぼさずに、一滴残らず……」
あたしはそのとおり、全部飲んだ。
まあそれもあたしにしてみれば、はじめてではなかった。他の男はどうだか知らないけど、三島は以前にも、あたしに精液を飲ませてはたいそう喜んだ。さぞ昨日もお喜びのことだったろう……とにかくそれで、三島の怒りは一段落した。「……どうだよ?……あいつのと比べて……味はどうだった?」
「………」あたしは黙っていた。もう、アホらしくて答える気にもならなかった。
「……どうだったかって聞いてんだよ!!」あたしはしばらく黙っていたけど……ついにそれを言うことにした。
ああ、もう……また殴られてもいいや。これだけの事をされたんだから、言いたいことくらい言わなきゃ。殴り殺されるかも知れないけど……それもまあしょうがないだろう。
あたしはようやく口を開いた。「あんたが、あいつをあたしに押し付けたんじゃない……」
「何だと?」三島が反射的に手を上げる。
「殴りなよ」あたしは言った。「……あんたが、あたしにあいつを押し付けたんでしょ。忘れた?……あの日、駅前のファミレスで、あいつを紹介したんじゃない……そうじゃなかった?」
「…………」三島は手を振り上げたまま、じっとしていた。
「……そんで、あの日、あんた……いきなり用事が出来たって言って……あいつとあたしを二人にしたじゃん……」
「……だからって……」三島が口を開いたが、あたしは遮った。
「……その次のデートのときも、あたしがあんたを駅で待ってたら、あいつが来たじゃん。……で、あんた来なかったよね。それも一回じゃないよね。その次のデートも、その次のデートもそうだったよね。なんであいつ、あたしの携帯の番号知ってたの?……ねえ、あいつの前の彼女も………あんたが前につき合ってた子なんだってね……そうでしょ?」
「………………」今度は三島が沈黙する番だった。三島の手が、どんどん下りていく。「……ねえ、あたし、知ってんだよ。あんた、あの子と……もうヤっちゃってるんでしょ?……ほら、この前バイト先に居た、あの髪が長くて背が高くて、おっぱいがあたしよりおっきい子……あたしと別れて……あの子と付き合いたいんでしょ?……だからあんた……あたしにあいつを押し付けたんだよね?……そうでしょ?」
「……だ……だからって……」
「あたしは……」あたしは手の甲で目に入りそうな精液を拭った。「……あたしは、別にどうでもいいよ。もう。あんたのことも……あいつのことも。それから、あの髪が長くて背が高くておっぱいの大きな子のことも。……あの子と心置きなくつき合いなよ?……別に……気をつかってくれなくて良かったんだよ……はっきり別れたいなら別れたいって……そう言ってくれたら良かったんだよ」
「………………」三島がついに、手をだらんと垂らした。三島は黙ってそそくさとズボンの中にちんこを仕舞った。
その後、足元に散らばったあたしの服の残骸を拾い集めると……それをひとつに丸めてあたしに投げつけた。
それはボロボロでとてもじゃないけど着られるものではなかったが……あたしはのろのろと、ブラウスらしいものに袖を通して、スカートらしいものを履いて、腰のところでは留められないのでそれを手で押さえた。それから……顔を拭くものがなかったので、ブラウスで顔をごしごしと拭いた。三島は黙ってそれを見ていた。
「……お別れだね」あたしは言った。思ったより普通の声だった。
「………」三島は黙ったまま、あたしに背中を向けて……立ち去ろうとした。
「待ってよ……」あたしは三島の肩を掴んだ。
「……離せよ……まだなんかあんのかよ」
「キスしてよ」なんでそんなことを言ったのか未だによくわからない。
「な……」三島はぽかんと口を開いた。「……何だって?」
「……だから、キスしてよ」
三島はあたしの顔をまじまじと見た。
ブラウスでちょっと吹いただけだったから、あたしの顔には三島の精液がまだかなりこびりついていたんだろう。それは自分でもわかっていた。しかもあたしの口は、ほんのついさっきまで……三島のアレをさんざんねぶりまわしていた。
三島はまるで汚れ物でも見るような顔であたしを見る。
「しょ……正気かよ?」
「してよ………してったら!!」あたしは三島をぐい、と振り向かせて、その首に手を回す。
三島がもがく……必死にあたしから顔を遠ざけているのがわかった。あたしは愉快になった……なんとしてもあの三島の唇に吸い付いて……舌をねじ込んでやるつもりだった。舌を絡めて、唾液を飲ませて……三島にも自分の精液を味あわせてやるつもりだった。
「離せ!………離せって言ってるだろうが!!!」三島があたしのおなかを膝で蹴り上げる。
あたしはひとたまりもなく、その場に崩れ落ちた。息が出来なかった。「……死んじまえ!!この売女!!」
地べたに這い蹲るあたしにそう言い残して、三島は立ち去っていった。
呼吸を取り戻すのに……2、30分かかった。
もう、夕方近くなっていた。しかし、この格好で帰るにはまだ明るすぎる。
あたしは壁にもたれて上を見ながら……何回も鳩の群れが行ったり来たりして、さらにカラスの群れが行ったり来たりして、次にコウモリの群れが行ったり来たりして……空が暗くなるのを待った。結局あたしは一回も泣かなかった。
暗くなってから……なんとか無事に家に帰ることができた。
<つづく>
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