ヴァージン・ホミサイズ
作:西田三郎

「第8話」

■ヴァージン・ホミサイズ

 先週の水曜日と同じ時間、あたしと宮本は伊東と藤田が人知れず(ってあたしらは知っているのだが)わいせつな行為をしている、校舎の屋上に居た。
 宮本はなにも言わず、タバコを吹かしている。
 日が落ちるのが、だんだん遅くなってきたみたいだ。
 昨日と同じ時間にここに居るというのに、今日はだいぶ遠くまで街を見下ろせる。
 
 あたしはその時、正直言って、なんのつもりで自分がここに居るのかわからなかった。
 宮本は藤田と伊東を殺すと言っているけれど……どうなんだろう。ほんとうにやる気なんだろうか。正直言って、あたしは伊東にも藤田にも何の怨みもない。ただ不快な存在であると言うだけだ。藤田のけたたましい喋り方には毎休み時間うんざりさせられているし、伊東が誰に対しても向けるあの好色な視線は我慢しがたい。
 
 でも……彼らを殺すとなると話は別だ。
 
 宮本にしてみれば、あの二人が“不快”であるという事実が、そのまま殺意に結びついているらしい。
 彼女の目を覗くことはできても、頭の中を覗くことは不可能だ。多分、誰にとっても。
 彼女はドアに指紋を遺さないように……掃除用のゴミ手袋まで用意していた。
 
 しばらくして、足音がしたので、わたしたちはまた貯水タンクの裏に隠れた。
 
 「えー……先生、マジ?」藤田がそう言いながら姿を現す。
 「頼むよ、一回だけだよ」続いて伊東の登場。
 「……でも……そんなんって変態じゃん……」
 「お前だってちょっとは興味あるだろ?ほら、こういうのも用意してきたんだ」
 そう言って伊東はジャケットの内ポケットから平べったくて丸い缶を取り出した。あたしにはそれが何を意味するのかわからなかった。
 「……痛いんでしょ?」と藤田。
 「痛くないように、やさしくすっからさ」伊東の声は、亢奮で少し上擦っていた。「ほら、いつもの態勢になる!
 わたしは笑いを堪えながらながら宮本と顔を見合わせた。こんなときも伊東の口調は教師らしい
 「……もう…」そう言って藤田は、屋上の低い縁に手をつき、丸く大きなお尻を突き出した。
 
 伊東が藤田のスカートのファスナーを外す。今日の藤田のパンツは、薄いグリーンだった。
 伊東はかなり慌てた様子で、藤田の下着を降ろして、また片足だけを抜いた。そのまま藤田に、大きく脚を開かせる。あたしたちが隠れているところからも……藤田のあそことお尻の穴が見えた。
 
 だんだんあたしも、胸がむかついてきた。
 
 伊東がさっき取り出した缶を開け、そこからクリームのようなものを指でひとすくいする。そしてその指を藤田の大きく開かれた脚の間に指を持っていって、なんとまあ、お尻の穴にそれを塗りつけた。
 
 「あん……」びくっと藤田の腰が一回大きく震える。
 
 「あれ、あれだよ……えーと……ワセリン」宮本があたしの耳元で囁く「うしろでやるつもりだよ、伊東……やだなあ
 「……後ろって……お尻の穴のこと?」あたしはびっくりして言った。
 「しっ……静かに」
 
 伊東は何回もワセリンを指に塗りつけては、その指でマッサージするみたいに藤田のお尻の穴を愛撫した。藤田の腰はビクン、ビクンと跳ねている。まんざらでもなさそうだ。ほんとうに、どうしようもない二人だ。
 
 「……指、入れてみるね」伊東が言う……そしてゆっくり……人差し指を藤田の肛門に指し入れた。
 「んん……っ」藤田の上半身が持ち上がる「……なんか……なんかだよ、先生」
 「……大丈夫だって。ほら、前も触ってあげるから」
 藤田は左手を前に持っていき、ごそごそと動かしはじめた。
 「あっ………やんっ………そ、………それって………」
 肛門には指、そして前からは……たぶん陰核をまさぐられているのだと思う。
 あたしは何故か、先週末、宮本の家に泊まったときのことを思い出した。今、すぐ横に居る宮本にされたことを……なぜか、お尻がムズムズした。それに反して、吐き気が込み上げてきた。
 「だんだん柔らかくなってきた………指、もう一本増やすね」伊東はいちいち解説をつけて藤田をいじる「……ほら」
 「ううんっ………」藤田が腰を逃がそうとする。「……ちょっと……ちょっときつい
 「大丈夫だよ、ほら、ほら……中で指に吸い付いてくるよ………」
 「……せ……先生って……やっぱ……変態だわ」藤田が熱っぽい目で伊東を省みる。
 
 “お前も変態じゃねーか”とあたしは思った。
 
 「ほうら……もう、指三本入っちゃった……だんだん良くなってきたでしょ」
 「……ん……あ……」伊東がかなり激しく手を動かしているのが見えた、藤田はそれに陶酔していたる様子だ。だんだん藤田の腰が上がってくる。まるでゼンマイ仕掛けの玩具のようだった。
 「……じゃ……挿れるよ……」伊東がズボンとパンツを降ろして……またあの薄汚い尻をあたしたちに見せた「ゆっくり、挿れるからね……力を抜いて……」
 「ん……」藤田の腰が静かになる。

 伊東は缶からたっぷりワセリンをすくい取ると、自分の……その……性器に塗りたくっているようだった。
 そして一呼吸置いてから、藤田の尻を引き寄せる。
 「……痛くしないでね……」藤田がしおらしい声で言う、あれも、男を喜ばせるための演技だろう。
 伊東が、自分の性器を持って(おえっ)藤田の腰をがっちり固定し、ゆっくりと挿入をはじめた。
 「んん………っ」藤田の背中が強ばる「…………き…………きつい………」
 「……痛くない?」伊東がせっぱ詰まった声で聞く「このまま奧までいくよ?」
 「うん……来て………」藤田ががくがくと震える。
  伊東の汚い尻が緊張して(おえっ)……やがて弛緩した。
 「……入っちゃった……すごい、すごいよ。入っちゃったよ」伊東は少年のように喜んでいた「……ほんとに痛くない?」
 「………い………い、いたく……ないけど……」藤田は息も絶え絶えだ「……なんか……変なかんじ………」
 「動いていい?」伊東の声はますます上擦っている。
 「……うん………その……ゆっくりね……」
 伊東がゆっくりと腰を使い始めた。
 その度に、藤田はくぐもった声を出す。
 
 おぞましい眺めだった……こんなものを見るくらいなら、屋上に来なければよかったと思った。でも、目を背けることができなかった。ますますお尻がムズムズしてきた。ふと宮本の顔を見ると、彼女もやはり紅潮している。しかし目だけはいつものように透き通っているだけで……彼女の考えを伺うことはできなかった。
 
 「……すごい……先生……なんか…………すごいよ…………」藤田がか細い声で言う。
 「……おれも……おれもすごいよ……こんなの初めてだよ」そう言って伊東は藤田の前に手を回した。その手が藤田の尻の前で、もぞもぞと動き始める。
 「……あっ……そんな……ダメだよ……両方いっぺんなんて……あたし、おかしくなっちゃうよ」
 「……おお……締まる………」藤田がしわがれ声を出す「……ほら、藤田……“お尻もすごくいい”って……言うんだ」
 「……や、やだよ………そんなの……あっダメ……」
 伊東の手がさらに激しく藤田の前をまさぐっているのが見える。
 藤田の太股に、粘液がたれて光っていた。
 あたしは本当に吐きそうになった。
 
 と、その時、宮本がすっくと立ち上がった。
 「宮本?」
 あたしは宮本を見上げたが、宮本はそのまま足音を忍ばせて藤田と伊東の背後まで歩いていった。
 あたしも、それに続いた。
 「……お……お尻も……すごくいい………」あたし達にまったく気づいた様子もなく、藤田が嘶く。「すごくいい!!
 「……そうだろ……藤田。もっと、もっと可愛がってやるからな……」伊東が腰と手を激しく動かしながら言う「……まだまだこれからだぞ……」
 
 「違うよ、先生。これまでだよ」宮本が伊東に声を掛けた。
 「?!」伊東は紅潮した顔で振り返った。藤田も同時に、あたしたちに振り返った。
 二人の顔は滑稽なまでにみるみる青ざめていった。
 
 宮本は、伊東の右足を持った。あたしは、左足を持った。
 「……おい、やめろ……何するんだ……」伊東が言った。
 「死んでよ。いいでしょ」宮本が冷たい声で言う。
 
 まるでずっと練習を繰り返していたみたいに、あたしと宮本は伊東の脚を持ち上げ、自分の背の高さくらいまで上げた。さらに宮本は、肛門で繋がったままの藤田の脚に自分の右足を引っかけ、ぐいっと持ち上げた。あたしも宮本に倣って、そうした。

 「……なんで……」それが藤田の最後の言葉だった。
 「さよなら、伊東先生、藤田

 そのままわたしたちは、二人をぐるっと一回転させる形で、屋上の縁から落とした。
 ふたりは肛門で繋がったまま落ちていった。思ったより、ゆっくりと。
 やがて、どすん、という音とともに、二人の身体は繋がったままで、地面に打ち付けられた。

 あたしも宮本も、しばらく繋がったまま地面に横たわっている二人を見ていた。ゆっくりと……藤田の頭のあたりから血が広がっていった。少し暗くなってきたので、それは真っ黒に見えた。
 
 「あー………スッキリした」宮本は藤田の頭から流れ出た血が2メートル四方に広がった頃、大きく伸びをした「さてと、帰るか」
 
 あたしと宮本は、屋上を後にした。
 

<つづく>

NEXT/BACK

TOP