確かにシークァーサーの味がした

作:西田三郎
「第7話」

■路地裏。国際交流。ベレッタ。

 「ってか、すごくない?」
  そそり立ったライスの陰茎を指差して、りみが笑う。
  まるで水族館でめずらしい魚でも見た5歳の子供のような笑顔だった。
  おれは何故か娘のことを思い出した。娘はまだ3歳だが。

 ライスはヘラヘラと笑い、相変わらずの挙動不審な態度を保ちながら……その汚い路地裏の壁にもたれて巨大な陰茎を突き出していた。

  いやあ……世の中にはまだまだ知らないことがたくさんある。

  とにかくあんな大きな陰茎を見たのはこれが生まれてはじめてのことだった。ライスが小柄だから、特にその部分が強調されて大きく見えるのだろうか?……いやいや。違う。実際ライスが目の前でパンツを脱いだそのとき……こいつは股間にもう一本腕を生やしているのかと目を疑ったほどだ。
  さすがにあの社長も……こんなものを間近で見たことはないだろう。

 「……すげえな」おれは少し離れた場所でオリオンビールのプラスチックケースを裏返し、それに腰掛けていた「それ見ただけで、2000円の価値あるよ」
  「じゃあ、もっとふっかけりゃあよかった」

 りみがライスの前に跪いて……大口を開けてその先端を口に含もうとする。

 「リミサン、ダメッスヨ、ヤバイッスヨ」ライスが口先だけで言う。ニヤニヤ笑いながら。「ダメッス、ヤバイッス
  「……あぐ……あーん……らめら」りみが口を離す「……ダメだ。あごが外れちゃう」
  「……どーした。頑張れよ」おれは大喜びで野次を送った。「2000円払ってんだからさあ……気合入れてよ」
  「とんでもねーゲスだね、ホリエさん」りみが一瞥をくれた後、ライスを見上げる。「あいつね、日本のクズだよ」
  「クズ、クズー」とライス。
  「うるせえ、この土人野郎
  「ってか、それ人種サベツだよ」りみがまたおれを睨む。「どこまで心が荒んでんの?」
  「うるせえ、どうにかしろこの売女
 
  りみがおれを睨んだ後……躰の位置を変えて、ライスの巨大な陰茎の側面に舌を這わせはじめた。ライスが目を閉じる。

 「オオウ」りみが本格的に舌を這わせはじめたので、ライスはその分厚い唇をすぼめた。

 いやもう、何て言ったらいいか。

  まるで小学生のようにしか見えないくらい華奢で小柄なりみが、その巨大な側面に小さな舌を這わせて……複雑な涎の跡を次々と作っていく。ハーモニカを吹いてるような感じだったかって?
  いや、違うね
  オーケストラの端のほうに居る、ファゴット奏者がボーカル部分(口つけるとこだ)を忘れてきたみたいな感じだった。りみは沖縄に来たのに水着を持ってこないようなだらけた投げやりな女らしいが……その仕事は実に丁寧だった。目を閉じ、一生懸命に舌を走らせる……テニスボールくらいある亀頭を、掌でやさしく撫ぜながら。もう片方の手はそれぞれ洋梨くらいある陰嚢を持ち上げたり下げたりしていた。

  もちろんりみは好きでやってるんだろうが、その様は少し痛ましくさえ見えた。
  ライスは汚い壁に背中を擦りつけながら、ひとりアフアフと悶えている。
  たぶんライスは今後国に帰っても……こんないい思いをすることはないだろう。このままイラクかどっかに派遣されて、死んでしまったほうがいい人生になるかもしれない。

 「リミサン………」ライスが言う「ケッコウ、モウケッコウデス」
  「……え?もういいの?」りみが顔を上げる。
  「テカ、イレタイデス」
  「えー……」

 りみがおれに振り向く。なんだか助けを求めるような……縋るような目つきだった。
  悪いが、知ったことか。

 「……そうだよ、挿れさせたげなさいよ」おれは無責任に言った。
  「……てか、こんなの……入んないよ……いや、でも入るかなあ?」
  「モウ、ダメッス」
  「きゃっ」

 ライスがりみを立たせて、そのジーンズとパンツ……さっきおれが買ってやった薄いグリーンのパンツだ。を一気に引き降ろした。数時間前と同じりみの尻が、また目の前に現れる。確かに……あの小さい尻にあの陰茎が収まるところはなかなか想像つかない。

 「ってか、ちょっと待ってよ。ねえ、ウェ、ウェ、ウェ、ウェイト、メーン
  慌てるりみを、ライスが壁に押し付ける。そしてそのまま……片足を抱えるように持ち上げた。おれの目の前には、ライスの黒く汚い尻がある。いや、汚いのはその質感であって、別に黒いことは汚いことではない
  「アシヒラケ、コノbitch」ライスが甲高い声で言う。
  「ひ、ひどーい」
  「今日はみんなに同じようなこと言われるね」おれは大笑いしながら言った。
  「って、てか、ちょっと待ってよ。ねえ、アンタ、あれ、エイズ、エイズ関係、そっちの方だいじょうぶ?OK?
  「アタシエイズネーデス」とライス「ッテカ、アンタエイズダイジョーブッスカ
  「あ、あたしは違うけど……あ、あれ、アレちゃんと持ってない?」
  「オオウ」

 そう言うとライスは脱ぎ捨ててあった色あせたジーンズの袋から、小さな包みを取り出した。何と……コンドームの袋だった。その袋は緑色で……言っとくが、これは断じてウソじゃない。袋にはさらに濃い緑色で、「U.S.MARINE」の文字と、錨に跨るワシの絵が印刷されていた。

  いや、賭けてもいいが……絶対あの社長はこんなものを見たことはないだろう。

 ライスがそれをぶきっちょな手で装着し終えるのを、りみは心配そうな目で見守っていた。

 「……入るかなあ……どうかなあ」
  「入るよ、きっと」おれは言った。
  「ヨウイデキマーシタ」

 かくして……またもりみは壁に手をつき、尻を突き出す姿勢をとり……脚を大きく開いた。刑罰を待っている囚人のように見えないこともなかった……しかしりみ華奢な肉体があの人間離れした(言っておくが、差別ではない)凶器を持った黒いけだものに(これはさすがに差別だ)蹂躙されつつあることを思うと……おれは普通に興奮していた。

 「あっ………」
  ライスが腰を押し付ける……先端を押し当てたのだろうか。りみの背中が強張り……また鎖骨がぐっと浮かび上がる。
  「What a Hell……」ライスがなんだか言っている。
  「お、お、お願い………や、やさしくして……お、おねがいだから……そんな……んっ……だ、だめ、だって……はいんないよ……ムリだよ……」
  「Shut the fuck up,bitch」またライスが何か言った。
  「あ、あ、あ、や、やだ……ええっ……入ってくる……ほんとに入っちゃうよお……ええっ……す、すごい……そんな……だ、ダメだって……う、うげげ……吐きそう……」
   またライスが何か不遜なことを口走ったが、よく聞き取れなかった。
  「あっ……ひっ……んんんっ………ダメ……ああんっ……し、死んじゃう……」
  ライスがゆっくり動きはじめた。
 
  りみが子供のような泣き声をあげ始める。
  ライスが腰を押し付けるたびにりみの細い躰は壁を這い登り、引くたびにずり落ちた。
  ライスが早く動くと、りみもその動きに習って上がったり下がったりした。
 
  「おっ………お願い………も、もうやだ……ほんとに……ほんとに死んじゃうよお……ゆ、許して……ねえ、もう、許してったら………」

 ライスは情け容赦なかった。さすがは海兵隊員だ。なにがさすがなのかわからないが。
  りみは激しく蹂躙されつくした。
  肉食獣に貪りつくされる脆弱な草食動物そのものだった。
 

 そりゃ悲痛な眺めだったが……正直、見ていて胸がスッとした。
  ざまあないぜ、あの小娘。

 「た………たすけて………い、いやあ………いやあ………お、おかあさん……」
  「オウウ」
  「し、しんじゃうよお……ほんと、もう、ダメだって、いや、いやあ……ああああんっ!!!
  「オオオウ」

 りみは壁を伝ってそのまま下に崩れ落ち……ライスもそれに続いた。
  いやあ、2,000円どころか20,000円払っても惜しくないショーだった。

 ズボンを履き終えたライスに声を掛ける。りみはまだ尻を見せたまま蹲っている……死んだかな?……いや、大丈夫だろう。

 「ところで、ライス君、きみ、海兵隊の人?」
  「ソウデース」ライスが満面の笑みで答える。
  「……こんなこと聞くのもアレだけど……何だっけ?アレ……ベレッタ?あれ一丁くらい手に入んない?
  「………ムリデース」そう言ってライスは本当に申し訳なさそうに肩を落とした。
  「そうか……そうだよな」おれも肩を落とす。「ちなみにライス君……海兵隊では何やってんの?」
  「経理デース」ライスの歯はまぶしいくらいに白かった。

 

 

<つづく>




 
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