終電ガール
作:西田三郎

■後半線・快楽発罪悪行き
 
 野尻と藤岡が満のショーツを元通り引き上げた。
 電車が停車し、いつものように、多くの人が乗り降りする。
 満、桐東さん、藤岡、野尻もその波に押されてホームに吐き出された。
 吐き出される人々に交ざった4人は、乗り込んで来る人々に押されてまた電車の中に収まった。
 よく考えてみれば…と後になって満は思う。逃げようと思えばあそこで逃げられたのだ。
 しかし何故かその考えが頭には浮かばなかった。躰が貪欲にそれ以上の刺激を求めていたからだと言われれば、それはそうなのかも知れない。
 今度は藤岡が前に、野尻が後ろになって、満をサンドイッチにした。
 桐東さんは満の左側につく。計ったかのような、見事なフォーメーションだった。
 またショーツが降ろされ、前からは藤岡の、後ろからは野尻の手が攻撃を再開する。
 藤岡はすでに限界まで膨張している満の亀頭を焦らすようにいじり、時に尿道口から止めどなくあふれ出す先走りの液を、ローションのぬめりと絡める。野尻は細い人差し指を、一気に満の肛門に貫通させ、あっという間に前立腺を探し当てた。
 満は強く下唇を噛んで、目をしっかり閉じ、藤岡の肩にしがみつくような格好で腰をゆすり初めていた。閉じた口の端からは熱い喘ぎが漏れ、さらにきつく閉じた目からは涙が一滴こぼれた。
 「…あんまり気持ちいいんで泣いちゃってるよ。この変態少年…」桐東さんはそう言うと、満の頬をつたう涙を舐め取った。それでも涙は溢れ出る。悲しさからでも苦痛からでもない、初めての涙だった。
 むせ返るような情欲の渦中にあって、満は全身にからみつくような視線を感じていた。
 薄目を開けて周りを見回す。
 “……み…見られてる………
 4人の周りを十数名の乗客たちが取り囲んでいたが、それらの視線がすべて満に注がれていた。金曜の夜、一杯やって週末の家に向かう十数名のよき父よき夫、もしくはよき恋人でもある者たち…そうした“普通の人々”が、繰り広げられる痴態を、そして屈辱的な快楽に悶える満を熱いまなざしで見つめ、それを愉しんでいた。恐らくそのほとんど全員が、いま満が置かれている状況を、正確に把握してはいなかっただろう。満が実は男であることはもちろん、藤岡や野尻や桐東さんがグルであるということも。痴漢は反社会的行為で犯した者は法により裁かれるが、それを黙って目で楽しんでいた者まで罪に問われることはない。そんなわけで小市民たちは、嬲られ、辱められる満の姿を熱いまなざしで見つめていいるのだ。
 そうした視線と劣情を認識することにより、満の陰茎はますます固さを強め、目には涙が溢れる。
 “……ああ………こんなに………たくさんの……人に………
 自らの状況の悲惨さを思えば思うほど、満の躰は熱く燃え上がった。
 野尻がセーラー服のすそを満の胸の上までずり上げる。
 膨らみのない満の胸の上で、小さな両方の乳首がぴんと立ち上がっていた。
 周りの乗客の中から“おお”という声が漏れたような気がするのは気のせいだろうか?
 後から回した手で、野尻が満の右の乳首を、前からは藤岡が左の乳首を、同時に転がし始めた。
 ローションと満の愛液でぬめった二人の手は、ぬらぬらと満の乳頭を濡らしてゆく。
 「…ピンピンに立ってるじゃん」藤岡が言う。
 「…ほんと、触られてもないのにスゴイねえ…」野尻が嗤う。
 「…ねえ、アンタ、いま、男に触られて乳首立ててんだよ?判る?」桐東さんが言葉で責める「…こーんなにアンタがすけべだったとはねえ」
 「……や……やだ………」首を絞められた時に出るようなかすれた声で、満は喘いだ。「……もう………もう、止めて……」
 「…何言ってんの?まだイッてないでしょ…イきたいんじゃないの……?」と桐東さん。
 「……ダ…ダメだ…よ…………こんな………とこ……で」満は涙目で桐東さんの顔を見た。
 桐東さんが、また口の端を歪める。何かを思いついた時の顔だった。
 「……ねえ、そろそろ、アレとアレ、出そうよ。時間もないし」桐東さんが野尻の耳元で囁く。
  野尻が電気屋の紙袋の中から、二つの器具を取りだし、ひとつを藤岡に渡した。下を向いた満は、藤岡の手にあるものを見て、思わず目を見開く。ピンクローターのことは知っていたが、実際それを目にするのははじめてだった。
 しかもそのピンクローターのカプセルには、マジックテープのついた短いベルトが付いている。
 それをどのように使うのかは、満にも容易に想像できた。
 背後の野尻が何を手にしているのかは見えない。満は藤岡の胸に顔を埋めて涙を流しながら懇願した。
 「……お願い……やめて………お願いだから………そんなの……」
 「…いいねえ、この反応」藤岡が桐東さんに言う「ツボ押さえまくってるじゃん」
 「…桐東ちゃんの仕込みが良かったんじゃない?」野尻がそれに答える。
 「まあね、でも、あたしが思ってたより、この子ずっといやらしいわ」と桐東さん。
 藤岡が、ピンクローターのスイッチを入れた。そして満の尿道口に、それを押し当てる。
 「ひいいっっ!」ビクン、と満の腰が跳ねる。
 じっくりと満の陰茎の形をなぞるように動くモーターの振動。あわてて満は腰を後に逃がした。
 そこに何が待ち受けているかも知らずに。
 「……あっ?!……やっ!!」
 前を責めるピンクローターと同じような振動が、今度は肛門に押し当てられる。
 満はそのような器具の存在すら知らなかった。
 溜まらず前に逃げると、藤岡が振動するカプセルを掌に置いて、その手で陰茎を握ってきた。
 「……んっ…あ、ああ………」振動するカプセルを握り混んだ手で、そのままゆっくりと陰茎を扱かれる。
 後ろから押し当てられた物体は、何か細長い棒のようなものらしく、それがゆっくりと侵入を開始した。
 散々藤岡と野尻にいじられたその小さな出口は、すんなりとその物体の侵入を許した。
 産まれてこの方味わったことのない甘美な痛みを、満は味わっていた。膝が嗤い、喘ぎを通り越して含み笑いのようなへんな声が、しっかりと唇を噛みしめた口の端からこぼれ出る。
 野尻はさらにその棒を押し込み、ぐいっと捻った。
 痛みなどは感じなかった。そして振動が、前立腺を直撃する。
 「……ふああっっ!」思わず出た声を、桐東さんの手がまたを押さえて止めた。
 野尻がゆっくりと振動する物体を引き抜く。無意識のうちに、満の尻はおねだりするようにくねり、その物体に追いすがる。もはや肉体を制御する理性は枯れ果てていた
 藤岡が振動するカプセルをマジックテープのベルトで満の陰茎に固定し…野尻がずり下げられていたショーツを元通りに履かせる。小さなショーツの中でバイブレーションを最強にしたローターが、唸りを上げていた
 藤岡に右手を、野尻に左手をつかまれた。両方の手に、いつの間に外に出したのか、それぞれ熱く固いものを握らされた。
 右手に握っているのは細く長い藤岡の怒張…左手には太く短い野尻の怒張。
 どちらも熱く、固く張りつめ、ぬらぬらと濡れている。
 「…ほら、こんだけしてもらったんだから、さ、アンタもお返ししなきゃ。ほら、扱いて…擦ってやんなよ」満の口を押さえていた桐東さんが囁く「あたしもアンタに…イイコトしてあげるから」
 そういって、桐東さんは満の左首筋に噛みついた
 ふっと金木犀の香りが漂う。
 正確に言うと、強く吸い込むようなキスをしたのであるが、その時の満には噛みつかれたように感じられたのだ。
 満は素直に藤岡と野尻の陰茎を激しくこすり立てていた。
 目の前の藤岡の顔が紅潮し、油じみた顔がますます油っぽく汗ばんでいる。臭い息も盛大にかけてくる。
 後からかかってくる野尻の息は、それにもまして臭かった
 「…ああ、イきそう…?」満の肩越しに、藤岡が言う。
 「…うん、もうイきそう」野尻が答える。
 「…アンタは?イきそう?」桐東さんが唇を首筋から話して、耳元で囁く。
 満は無言で、大きく頷いてそれに答えた。
 周りの視線がさらに熱く感じられる…しかしそれももう感じなくなっていた。
 両手の感覚、脚の感覚、頭の中の感覚…すべてが、真っ白に塗りつぶされていく。
 「…あ、あ、あ、あ、………あああっ!………むぐ……」
 満はショーツの中に、激しく射精した。
 続いて前からスカートの前部に向け、藤岡が激しく発射する。
 その半秒後に、スカートの尻に野尻のザーメンが当たる感触がした。
 桐東さんはその様子を、すこし悲しそうな顔で見ていた。
 見間違いだろうか?
 
 間もなく、電車が目的の駅に到着する。
 藤岡は満のパンツの中から、満自身の精液でべとべとになったロータを引っぱり出すと、満の目の前に精液を滴らせるそれを翳した。満を辱めるつもりでやったんだろうが、もはや満は抜け殻となって立っているのがやっとの状態である。無反応な満に少し不満そうな顔をして、藤岡はそれをそのままズボンのポケットに仕舞った。
 電車が駅に到着して、降りる人々の波とともに、4人はホームに降りる。
 満はほとんど引きずられる人形のような状態で、藤岡と野尻に両脇を抱えられて電車から出た。
 最終電車がホームから出でいく。
 自力で立とうとしない満に疲れたのか、藤岡と野尻が手を離す。
 満はそのままへなへなとホームの床にへたり込んだ
 
 見上げれば、藤岡と野尻がニヤニヤと、そして桐東さんは何か子犬でも憐れむような目で、満を見下ろしていた。桐東さんのそんな顔を見るのははじめてだったが、満はただそれを、ぼんやりと見上げるだけだった。
 「…ごめんね」桐東さんが、その時そう呟いたような気がする。
 しかし、それは駅員の声にかき消されて、はっきりと聞こえなかった。
 「……ちょっと!大丈夫ですか!!」50を越したベテラン然とした駅員が、大声で叫びながら駈けてきた。
 桐東さん、藤岡、野尻の3人は一目散にダッシュで逃げた。
 満はひとり、そこに残された。金木犀の香りだけが、辺りに残っていた。

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