終電ガール
作:西田三郎

■終電ガール2号 本格デビュー

 いつの間にか夏が来て、夏休み中の誕生日も過ぎ、満は14歳になっていた。
 毎週金曜日の秘密の遊戯は、母や姉たちの不安をよそに、欠かさず続けていた。
 満の尻を求め、桐東さんをないがしろにする客は増える一方で、桐東さんの態度はますます冷たく、固いものに変わっていく。はじめ。そうした雰囲気にに言いようのない幸福感を覚えていた満だったが、やがてその幸福感に影の存在を感じるようになった。その理由は、自分の躰が確実に少女を装える幼い少年のものから、ふつうの少年へ成長し始めていることに気づいたからだ。尻の肉は以前のような柔らかさを失い、少し固くなりはじめている。口の上に産毛が増え、ほんの少しだが筋肉をつけはじめた上半身。事実、姉のセーラー服はすこし窮屈になり始めていた。
 今でこそ誰にも気づかれずに少女を装うこともできる。
 しかしその時期にも、いつか終わりがくるのだ。
 自分でもそれは充分に理解していたが、その終わりが思いがけず早く訪れたことに満は戸惑っていた。
 最近は、桐東さんの目線には、明らかな妬みがやや少なくなり、確実に少年への成長していく満への冷笑を感じる時がある。そんな時、満はいつも、どうしようもない不安と寂しさを覚えた。
 
 そして、9月がやってきた。夏服のセーラー服で過ごすことのできる最後の月である。
 先々週、痴漢ごっこのお客にしては、珍しく若い(つまり桐東さんより若い)サラリーマンが、満にかなりの執着を見せて桐東さんには目もくれなかった。それが桐東さんの気分を大いに害していることは、満にも判っていた。
 いつものホーム喫煙コーナーに満が顔を出した時、桐東さんはひそひそと携帯で誰かと話していた。
 「…うん、そうそう。なかなかこんな機会あるもんじゃないよ。多分、アンタが想像しているのよりずっとイイから。うん、可愛い。めちゃくちゃ可愛いよ。ホント。会ったらびっくりすると思うね。…で、もう友達来た?うん、遅れないようにしてね。なんせ最終だからね。」電話で話しながら、桐東さんは横目でちらりと満の姿を捉えた。そしていつも意地悪を言うときみたいに、ニヤッと口の端だけで笑う「…うん、じゃあ、待ってるから。2番ホームだよ。2番ホームの喫煙コーナーにいるからね。じゃあね。バイバイ
 桐東さんは電話を切ると満の方を見ず、煙草に火を点けた。またあのセルロイドの眼鏡を掛けている。煙草の煙が盛大に満のほうに流れてきて、思わず満は噎せた
 「おはよう」桐東さんがまた口の端を歪ませて笑う。
 「…おはようございます」いつかこの水商売のような挨拶をするようになっていた。
 「今日、あんた良かったね。4万稼げるよ」
 「…え?」
 「…今日のお客さん、あんた男だって知ってるから。それがいいんだって。あんたに今日は全部任すよ。……いい話でしょ?」
 「……」奇妙な胸騒ぎがした。
 
 20分後、その二人がホームに現れた。一人はデブで、もうひとりはやせ形ののっぽ。二人とも30を過ぎているのは明らかだったが、その服装や雰囲気から何者であるのかを推測するのは難しかった。
 デブの方は“藤岡”と名乗った。色あせたジーンズを履き、ピチピチの黒い長袖Tシャツを着て、銀縁眼鏡を掛けている。髪は不自然なほど短く刈ってあったが、それが若ハゲを隠すためであることは明らかだった。汗っかきらしく、Tシャツに汗が染みだしている。額は常に濡れているようだった。
 やせ形ののっぽは“野尻”と名乗った。シワの入った白いワイシャツを着て、ボタンを上まできっちり留めており、シャツの裾は履き古したチノクロスのパンツにこれまたきっちりと入れている。足には妙に真新しい白いテニスシューズを履いていた。近くの大型電気製品点の紙袋を下げ、中には何かが入っている。神経質そうな笑みを浮かべて、その視線は常に宙を泳いで落ち着きないことこのうえない。
 「…へーえ」先に口を開いたのは野尻だった。「ほんっと可愛いねえ
 野尻はちらちらと小刻みに、満の全身を盗み見るようにして言う。
 「…桐東ちゃん、コレいいわ。想像以上だわ。いや、感動した」そう言ったのは藤岡の方だった。奇妙に明るい声が、なおさら不気味だった「ほんもんのそこいらの女子高生より、ずっといいわ
 満は居心地の悪さを感じずにおれなかった。全身がムズムズし、思わず内股を摺り合わせてしまう。
 「でしょ?」桐東さんが答える。満に対する野尻と藤岡の手放しの賛辞に、気分を害していることは明らかだった。「……好きなようにしていいから
 「……」満は黙っていた。好きなようにってことはつまり…胸がドキドキする。
 「頑張ろうね」そう言って桐東さんは、満の肩をぽん、と叩いた。
 
 最終電車がホームに入ってきた。
 藤岡は前に、野尻は後に、満を挟む形で列車に乗り込み、桐東さんはその右横につく。相変わらず金曜の最終電車は酒臭いサラリーマンやOLで一杯だった。ドアが閉まり、列車が動き出す。
 電車が助走に入り出すとすぐ、藤岡の手が前から、野尻の手が後ろから満のスカートの中に侵入した。
 「…あっ」満は不安を感じるいとまもなかった。
 前からは藤岡の鼻息を額に。後ろからは野尻の鼻息をうなじに感じた。ぞくぞくと泡立つ全身を後目に、二人の手は乱暴に動き始めた。桐東さんがそれを横から、ニヤニヤ笑いながら見ている。
 藤岡の手は桐東さんからの借り物であるショーツを掴むと、乱暴に引っ張り上げた
 「…んっ」少しの痛みを感じ、満が身を固くする。
 尻の割れ目にショーツの布がTバックのように食い込む。やや少し固くなりはじめていた満の両の尻肉が、スカートの中で剥き出しになる。
  その間、前の野尻の指がショーツの上から明確に満の陰茎をつまんだ。いとおしげにその形を愉しむ指の動きに、満はあっという間に反応した。
 「………ん」
 「……ほら、もう固くなってきちゃった……」野尻が満の左耳元で囁く。
 「……」あまりにも早計に快楽を求めようとする自分の躰を思い、満は赤面した。
 背後では藤岡が両方の手を使って、満の尻肉を捏ねている。
 「……まだ柔らかいねえ……」今度は右耳元で、藤岡が囁いた。「……肌もすべすべで…ほんとに女の子みたい…」
 そういって藤岡は、さらに満のショーツを上に引っ張り上げた。
 「…ううんっ……」痛みは少なくなり、甘美な感覚が満を襲う。
 野尻は手の平を使い、パンツの中で窮屈に隆起している満の陰茎を下から上へ、ゆっくりとなで続けた。その焦らすような動きに、満の快感は嫌がおうにも高められてゆく。
 必死に快感を堪えているような表情は、桐東さんが以前にアドバイスしてくれた通りだったが、今日の快感は偽りのないほんものだった。
 「…ねえ、この子、立ってる?」横から見ている桐東さんが、野尻に耳打ちする。
 「……うん、もうギンギン」野尻はわざと満に聞こえるように、桐東さんにそう耳打ちした。
 「……やっ……や……だ」満はいいように高められていく快感に不安を覚え、思わず追いすがるように桐東さんの手を探して、握りしめた。「……やっぱ……やだ……」
 「…ふん」桐東さんが鼻を鳴らし、満に握られた手を振りほどく「…今更、なに甘えたこと言ってんのよ。もう引き返せないよ。我が儘いってないで、ちゃんと愉しみなよ
 「……そんな…」泣きそうな目で、満は桐東さんを見つめた。
 しかし桐東さんはそんな満を嘲笑うように、意地悪に見ているだけだった。
 「…そうだよ、キミ」凄まじい鼻息とともに、さっきから満の尻肉をこね回している藤岡が背後から囁く。「愉しまなきゃ…
 「……ん………あっ」
 藤岡は右手をスカートの中から抜いて、満の少しきゅうくつなセーラー服のブラウスに脇から手を突っ込んだ。あっという間に、右乳首を指先に捉えられる
 「……ひっ………んっ………」産まれて初めて味わう、他人から乳首を転がされる感覚に、満は敏感に反応した。
 そう、それはいつも自分が鏡の前で、鏡の中の少女にさせていたことだった。
 今度は野尻が、亀頭の先端部分をショーツの上から捉える。
 「いっ……」思わずその手を払おうとしたが、その手を野尻に掴まれ、野尻自身のズボン前に導かれた。掌がズボンの上から野尻の固くなった肉棒の感触を味わう。それは熱く、太く、明らかな生命力をたたえて、大きく脈打っていた。
 思わず満も、言葉を失う。
 「……もう、諦めて愉しみなよ」野尻が囁く「まだまだ始まったばかりだよ」
 満は思わず目を閉じた。ほんとうにそれは、まだ始まったばかりだった。

NEXT / BACK

TOP