終電ガール インテグラル
作:西田三郎
■第三章 『終電ガール』第八話「快楽の終着駅」
その器具は、テシガワラの巧みな操作により、終電ガールに様々な刺激をもたらした。
あるときは回転し、まるでガソリンスタンドの洗車マシーンのように陰茎を嬲ったかと思うと、その次には前後運動で扱き挙げる。激しい上下の振動の後で、締め付けと開放を断続的に繰り返す。
器具独自がもたらすいくつもの刺激のパターンに加えて、テシガワラ自身が、前後させたり、捻ったり、あるいは先端寸前まで抜いてから焦らした上で、改めて一気に押し込んだり……変幻自在に操るので、いったいどこまでが機械の性能なのか、どこまでがテシガワラの手腕なのかは測りかねた。終電ガールが数えることができたのは、4回目の射精までだった。
後は激しい痺れと狂おしいまでの律動が、ずっと続いた。
正直な話、どこまでが射精の感覚なのか、器具とテシガワラが与える刺激なのか、区別がつかなくなっていた。ずっと射精時の律動が続いていたような状態、といっても過言ではない。
もはや自分が射精しているのかいないのか、それすらわからなくなっていた。
視界はひたすらまぶしく、やがて一切の音が消えた。
自分があまりに激しく喘いだからだろうか、口には誰かの丸めたハンカチのようなものが押し込まれた。
死にそうになり、首をグラインドさせて、溺れたように手足を振ろうとしたが、がっちりと四肢を押さえ込む周囲の手は、依然、強かった。いつのまにか終電ガールを取り巻く一団は、彼を抱えるようにするとドア部に移動していた。
ドアの窓に、顔を押し付けられる。窓は冷たかった。
窓の外には深夜の街が流れていた。
つまり、外から自分は見える状態にあるということだが、そのことすら現実感を持って受け入れられなくなっていた。いつも眺めている、同じ景色が流れていく。
色とりどりのネオンや、ビルの窓に灯る光が、長い尾を引く残像となって目に残った。
流れ星のようにも見えたし、シャッターを開きっぱなしにして星の動きを撮影した写真……教科書で見たことがある……あの写真のようでもあった。皮肉な話かもしれない。今、目にしているいつもの風景と、今、自分が置かれている状況の距離は……夜空の星と自分よりも遥か彼方に離れているようにさえ思える。
もちろんこれは、後になってからそう思っただけの話だ。
その状況の元では、終電ガールは快楽にすべての知覚を支配されていた。
ぐいっ、と腰を引き寄せられた。
前につんのめりそうになり、ドアの横に設えられた金属製の手すりに両手で掴まる。
さらに腰を引き寄せられ、上半身は手すりにつかまったまま、ほぼ90度前に折れ曲がった。
つまり……手すりに掴まったまま…… 後ろに、尻を突き出すような格好になっている。そういえば、スカートは取り払われて、下半身には靴下と靴以外、何もつけていない。いや、今や、左の靴も脱げている。みじめな自分の姿を、頭の中で客観的に映像化してみた。すると股間で唸る器具の中で、また陰茎が大きく脈打った気がした。
と、そこで突然、視界が闇に覆われた。
後になってわかったことだが、それは自分のセーラー服から引き抜かれた紺色のスカーフだった。
頭の後ろで、布切れがしっかりと結わえられる感覚があった。
暗闇に戸惑っていると、突然下半身を別の違和感が襲った。最初に入ってきたのは、指だった。
「……あうっっ…………んんんっっ」
細い指だ……誰の指なのかはわからない。それがいきなり、にゅるり、と奥まで入ってきた。
「かわいい穴だなあ……」
最初は……テシガワラの声だった。しかしその後に続く声は、どこから響いてくるのかは判然としない。
「ひくひくしてる……」
「これ、マジ処女じゃん」
「ってか、キレイよね」視界を奪われたせいか、ヒソヒソした囁き声に奇妙に敏感になった。
ぐにっ、と侵入した指が体内で曲がり、縮み上がっている陰嚢の裏を刺激した。「あああんんっ、そ、そこっ………」
顎を跳ね上げて、喘いでしまった。
器具の中で、また陰茎が跳ねた。また射精したのかもしれないし、そうではないのかも知れない。指の持ち主は遠慮がなかった……その部分を散々押したり、捏ねたりするのに飽きると……指が2本に増やされた。「あっ……うっ………ううっ……………」
奇妙な感覚だった。
細い指であることに変わりはなかったが、自分の躰が2本もの指を受け入れているということが信じられなかった。2本の指は、内壁をほぐすように丹念にマッサージを続けた。気付かぬうちに、尻を跳ねさせていたのだろう。数本の手が自分の腰や尻をがっちりと押さえ、動きを封じられる。
やがて、指は3本に増えた。「……すっごい………この子、マジ、欲しがってるよ」
聞いた事の無い声がして、クスクス笑いが漏れた。
にゅぽん、と指が引き抜かれ………何かもっと、丸くて太いものが押し当てられた。「………あ、ついに行っちゃいますか?」おどけた声がする。テシガワラの声ではない。「……初物は縁起がいいからなあ」
ああ、もうダメだ。
終電ガールは思った。
ここまで許す気なんて、絶対になかったはずなのに。
もう、戻れない。
頭の中に、ひとつの顔が浮かんだ。
それまでは、あえて頭の隅の闇の奥に、追いやっていた一人の人物の顔だった。
その顔が、声が、手触りが………とても懐かしいものに思えた。
今は、そこに戻りたくて仕方が無い。
でも、もう戻れない。
自分がその顔から、ずっと遠く離れた場所にいることが、とても悲しかった。
ぐぐっ………。
その丸みを帯びた物体が、終電ガールの内壁を巻き込み、かきわけながら……奥に侵入してくる。
痛みはなかった。固い排便の感覚を、逆回しにしたような感覚だった。
痛みよりも屈辱よりも、ただその圧迫感に圧倒された。
息が止まる。手すりを握る両腕に、力がこもる。つま先立ちになった両足が、床を踏み抜きそうだった。
脹脛の筋肉が緊張し、破裂しそうだった。
とても口を閉じていることなどできずに、口の端からとめどなく涎があふれ出た。
左右の肩甲骨が、背中で盛り上がり、お互い触れ合うのを感じた。「うっ………ふっ………ふっ…………ふうっ」
相手の腰が、尻に触れた。
一気に、押し込まれたのだ。「あはあっ……………あああああ、あ、あ、………」
手すりから手が離れて、前に倒れそうになった。親切なことに、数本の手が終電ガールの躰を支えてくれた。慌てて手探りで、掴まるものを探す……誰かがドアの前に割り込んできたのか、その身体に縋りつくような格好になった。
後ろの人物が、腰を動かしはじめた。
「………あっ……は……ああっ……んっ…………も、もう……もう………ゆるし……て………」
その言葉に勢いづいたのか、後ろの人物はさらに激しく終電ガールを攻め立て始めた。
「……ほんとうにかわいいなあ……なんで、君は男の子に生まれてきたんだい?」
不意に、目の前の男が囁いた。テシガワラだった。
ほとんど抱きしめるようにしていたのは、テシガワラの身体だったのだ。「ほら、自分がされてるとこ、見てごらん」
不意に、目隠しを外された。
急に明るくなった視界に目をしばたいた。まず目に入ってきたのは、自分を見下ろすテシガワラの乾いた笑顔だった。テシガワラは左目で終電ガールの顔を見下ろし、右目で終電ガールの背後の人物の様子を見ていた………今も後ろの人物は、終電ガールを激しく……何か怨みでもあるかのように攻め立てている。
………恐る恐る、肩越しに背後を振り返った。そこには、あの30過ぎのOLの姿があった。
OLは髪を振り乱し……顔を真っ赤にしながら、腰を打ちつけ、喘いでいた。
終電ガールの細い腰をしっかりと掴み、その肛門を蹂躙する悦びに我を忘れている。
獰猛な動きには……何か怒りか怨念のようなものさえ感じられた。女と……いや、女の姿をしたその生き物と、視線がからみ合う。
熱に浮かされるようだったその表情に、冷たい嘲り笑いが浮かんだ。
「あうんっ………」
にゅるり、といきなり引き抜かれて、終電ガールはつい物欲しげな声を出してしまった。
OLの姿をしたその人物は、終電ガールの肛門から引き抜いたそれを、彼に見せ付けるように掲げた。
……それは男性器を模した、おそまつなまがい物だった。
ゴムか何かで作られた、にせもののペニスだった。
それが粘液にまみれ、濡れ光りながら、ふるふると震えている。OLはそのまがい物の性器を、腰にがっちりとベルトで固定していた。
勝ち誇ったような表情で、OLが終電ガールの尻を捉えなおす。
ふたたび突き入れられたとき、終電ガールは気を失った。
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