終電ガール インテグラル
作:西田三郎
■第三章 『終電ガール』第七話「ソフト・マシーン」
おびただしい手が、体毛を剃りとられた陰部に、われもわれもと群がってくる。
「い、い、いや、だって………んっ………むぐっ………」背後から口を押さえられる。誰の指かはわからないが、太くて湿ったしょっぱい中指が、唇を割って口内に侵入していきた。一体何本の手が股間に集中しているのかわからないが、それぞれが5本の指を持っている。
無数の指が……まるでイソギンチャクのように下半身を嬲る。
一本一本の指が、意思を持った生き物のようにさえ思えた。
それぞれが、 陰茎をくすぐり、亀頭を撫で、睾丸をすくい上げ、さらに奥まで入ってきて窄まった後ろの入り口をほじくろうとする。「ううっっ………んんっ……ぷはっ……」口の中を犯していた指をなんとか吐き出して叫ぶ「や、やめてっっ!!」
「すっかり女の子口調だね……ノッてきたね」答えたのは、テシガワラだった。「これからが本番だよ」
「……だめ……だめっだって……も、もうだめっ………は、はああっ」追い上げられるように射精感がせりあがってきた。もうそれを堪えようという意思すら、湧いてこない。
テシガワラは自らは手を触れず、終電ガールの股間に群がる数多の手と、それによって一直線に追い詰められていく少年の姿を目で楽しんでいたが、その絶頂が近いと見ると、いきなり残酷な行動に出た。「おっと……」陰茎の根本を右手でぎゅっと握ると、陰嚢の付け根を指で押さえる。 「 まだまだ我慢しなきゃ」
「くうううううっ………!!」
狂おしいまでの射精感は、無常にもそこでせき止められてしまった。「あ、あ、あ………だめ……そ、そんな………」
「だらしのない子だなあ……皆んなが見てるのに、そんなに簡単にイっちゃって恥ずかしくないのかい?」
「だ、だ、だ、だって………」
「イきたいのかい?」
「………くっ………」まだわずかばかりの……恥の感覚が残っていた。
テシガワラから顔を背け、唇を噛み……欲求のままに動こうとする舌と唇を諌める。
「……イきたくて、仕方ないだろう?………じゃあ、これだ」
テシガワラが陰茎から手を離す……と同時に、群がっていた数十本の手も引いていった。
「はあっ………」
真っ赤になるまで熱された鉄が水につけられたように……射精感が急激に冷まされていく。
終電ガールは自分の腰が、物欲しげに、ベーリーダンスでも踊るように左右にくねるのを見た。まったく意識していない動きだった。もはや自分の身体をコントロールできなくなっていることを思い知らされた。
周囲を取り巻くいくつもの顔が、醜く歪んでその様を嘲っている。またコートの懐から……奇妙なものが取り出しされた。一体、テシガワラのコートの内側はどうなっているのだろう?
……その物体は……赤ちゃんをあやす『ガラガラ』を、二周り大きくしたような代物だった。ハンドルの上にプラスチック製の大きな円筒が取り付けられ、円筒の先端部分には、穴が開いている。薄目で……その穴をちらりと見た。やわらかそうな透明プラスチック製の、何層もの“ひだ”が覗いている。無機質な外観の中で、その内部だけが奇妙に有機的だった……もちろん、そんなものを見るのは初めだ。
テシガワラはその器具を左手に持ち換えると、右手で……またもコートの内側からだ……ローションのボトルを取り出した。そして……その『ガラガラ』の穴に、たっぷりと注ぎ込みはじめた。
その器具が一体、どのように使われるものなのか、そしてこれから自分がどのような目に遭わされるのかを、終電ガールは一瞬で悟った。「い、いや………そ、そんなの………や、やめ…………んっ!!」
充分にローションを注ぎこんだ『ガラガラ』を左手に、テシガワラが終電ガールの陰茎をしっかりと握る。
そして、ほぼ垂直に立ち上がったその部分を強引に水平の位置まで下げると……その先端を『ガラガラ』の穴にぴたり、とくっつけた。「……ほら、ご覧」テシガワラが呟く。「……こいつが、君のはじめての相手だよ」
「やめてっ……!!」首を激しく振って叫んだ。それはテシガワラを含む周囲の誰もを、悦ばせた。
「……ほら、ふつうのセックスなんか、これに比べればままごとだよ。忘れられなくしてやるからね」
「んんんんっっっっっ………あっ!!」『ガラガラ』の孔が、終電ガールの先端をにゅるり、と飲み込む。
中はぞっとするほど冷たく、想像以上に柔らかかった。「ああっ……あっ……あっ………あっ………あああああっ………」
じわじわと押し付けられ、陰茎が奥へ、奥へと飲み込まれていった。
どこまでも続く底なし沼のようだった。ローションと内部に設けられたひだが、滑らかに陰茎全体を包み込んでいく。
陰茎の根本に、『ガラガラ』の縁が触れた。陰茎はすべて、器具の中にすっぽりと収まってしまった。「ああああっ………」
いつの間にか身体を弓なりに反らせて、つま先で立っていた。
左のローファーがかかとから外れて、カタン、と床に落ちた。これまでに味わったことのない感覚だったが、もう嫌悪感はなかった。だだひたすら、次の刺激を待ち望んでいる自分がいる。そう、この器具がどのように動くものなのかは、だいたい想像がついた。終電ガールは、自分の予想通りに……いや、その期待どおりに器具が動き出すのを待ち焦がれていた。それをテシガワラに見透かされたのか……テシガワラは器具の取っ手を握ったまま、次の行動に移ろうとしない。
「………気持ちいいかい?……最高の気分だろう?」
目を閉じて、唇を噛み締めて、首を横にぶんぶんと振った。
こうして、一旦は拒絶のポーズを見せてから味わったほうが……屈辱も快感も甘いものになる、ということを今日、終電ガールはいやというほど学んでいた。
「……ウソつきだな、君は。さあ、どうして欲しい?……イかせてほしいんだろ?」
さらに首を横に振る。当然、ウソだった。テシガワラがゆっくりと器具をゆすりはじめた。
「ひやっ………」
器具の中でローションが、淫らな水音を立てる。前後に動かされた。
一個一個のひだが、器具の中でめくれ、撫ぜ、ねじれて……終電ガールをじわじわと追い立てた。あと一歩……あと一歩で……限界がやってくる……何度もその寸前で、テシガワラは手の動きを止めて、終電ガールを言葉で嬲った。「………ほら、イきたいんだろ?……正直に言えよ」
限界だった。首を横に振ったつもりが……気がつけば縦に振っていた。「………よし、内臓を吐き出すほどイかせてやろう」
スイッチが入れられたらしい。
器具が、唸りを上げて動き出し始めた。「あ、あ、あ、は………ああああああっっっっっっ」
なす術もなく、シリコンの孔の中で……終電ガールの陰茎が跳ねた。
一回目の射精だった。まだそれは、一回目に過ぎなかった。
BACK NEXT TOP