終電ガール インテグラル
作:西田三郎
■第三章 『終電ガール』第五話「塗りたくられて」
テシガワラの手によって、スカートの布がひき下ろされていく。
と、スカートが何かに引っかかった。「……おやおや」テシガワラがからかうように囁く「……おい、君。つっかえてるぞ。一体、いつからこんなにしてたんだい?……そんなに待ち遠しかったのかい?」
「……んんっ………んぐっ……」皮肉にもスカートが下に落ちるのを食い止めたのは、今やほとんど垂直に硬直した陰茎だった。
口を塞ぐ何者かの手越しに、その無様な様子を見下ろした。
スカートの落下を止めた陰茎の先端が、布地に丸く浮き上がり……内側から粘液を染み出させている。「んんんんっ………!!」首を左右に振った。
今、ここで自分の身に起こっているすべての現実を、振り払いたい気分だった。
しかし、ここでまた皮肉なことが起きる。……その動きのせいで、陰茎のつっかえが取れ、ふわりとスカートが足の周りに落ちたのだ。
もはや終電ガールの下半身を覆っているのは、黒いハイソックスとローファーだけだった。
下半身のすべてが、周囲に晒された。「んんんーーーーーっっ!!」
テシガワラがしゃがみこむようにして、陰茎を覗き込んだ。
二人を取り巻く十数人の輪が、一段階内側に狭くなった。それぞれの顔が、終電ガールの下半身を向いている。そのうちの何人かは、すでに携帯電話やデジタルカメラを突き出していた。「んんんっ!!んんんんんっ!!」
必死で顔を振り、暴れようとしたが、周囲から終電ガールを押さえ込んでいる手の力は一向に収まらず、唯一固定されていない腰が、まるで誘うように踊り……濡れそぼり、固く立ち上がった陰茎が冗談のように左右に揺れるだけだった。
パシャ……パシャー……カシャ……カッシャン。
方々からシャッターを切る音がする。
撮られているのだ。
むき出しにされ、晒しものにされている下半身を、人々がカメラに収めている。
本気で暴れれば、逃げ出せるかもしれない。こんなはずかしめを、これ以上受ける必要はないのかもしれない。このままこの状態に甘んじていると、テシガワラをはじめとする周りの連中に、どんな酷い目に遭わされるかわからない。それがいかに、自分から望んだこととはいえ。
「でもこれは、君がしてほしい、って言ったことじゃないか?」テシガワラが顔を近づけて囁く「……ほら、こうされたかったんだろ?……いまさら暴れたって、騒いだって無駄だよ。……だいいち君、そんな恥ずかしい格好で、どうやってここから逃げるんだい?」
口を塞いでいた手が、唇からゆっくりと離れていった。
その何者かよくわからない手のひらと唇の間に、よだれが糸を引く。「ぷはっ………で、でも、でも……でも……こ、こんな………」
「ほら」どこから取り出したのか……恐らく、ぶかぶかのコートの中からだろう……いつのまにかテシガワラの手に……何か透明なジェルが詰まったチューブがあった。
「……あっ……あ、ああ………」
「こうしてほしかったんだろう?……君がしてほしい、って言ったことじゃないか?」
テシガワラは動けない終電ガールの目の前で悠々とチューブのキャップを開けると、自らの手のひらにたっぷりとジェルを垂らし、小山を作った。
「……で、でも………待って…………こ、こんなの………あうっ!……」
むき出しになっている臍の下の辺りに……ジェルにまみれたテシガワラの手が触れる。
予想外の冷たさだった……どうもこのジェルには冷却素材が含まれているらしい。
「……ほら、冷たくて気持ちいいだろう?」
「あんっ……い、いやっ…………待って………んんっ!」手のひら一杯に盛られたジェルが、どんどん塗り広げられていく。
臍の下のさらに下……陰茎の根本の、まだやわらかな陰毛が芽吹いているあたりに。
その部分にはこってりとジェルを塗りこまれた。さらにジェルが増量される……不必要かと思われるくらいに……今度は、ジェルが盛られた手が陰嚢を鷲づかみにした。「ひゃっ………あっ……だめ………」
「ここにもしっかり塗っとかないとね……ほら、もうせり上がってきてる」粘液にまみれた手が、その薄皮の中にある二つの器官を転がすように弄んだ。
何本もの、ケータイやデジカメを持った手がその部分に伸びてきて……それぞれのシャッター音がまた鳴り響く。接写されているのだ。陰嚢を弄んでいたはずの指の一本が、わざとらしく滑ったような不可抗力を装って、股の奥深くに滑り込んだ。
そして、 すぼまっていた肛門にちょん、と触れる。「ひゃああっっ!………い、いやっ……そ、そ、そこだめ……」
びくん、と全身が反応する。そんな反応がテシガワラを始めとする周囲の連中の心に火をつけたらしい。
暴れようとする終電ガールの手脚がさらりしっかりと押さえ込まれた。
……テシガワラは左の手のひらにチューブに残っていたジェルをすべて絞り出すと……また陰嚢から肛門にいたる部分へ、こってりと塗りつけはじめた。
「………だめっ……だ、だめだって………そ、そっちは………んんんんっ………」今回、特に集中的に攻撃されたのは、肛門だった。
テシガワラの指先が執拗にその部分に粘液を塗りこみ……ときにからかうように……進入してこようとさえした。「んんっ!……や、や、や、やめ……て…………」
「さて、と………」テシガワラが、不意に手を離す。
がくっと熱が引いて、今度は股間に塗りたくられたジェルの涼感素材が効果を発揮し始め、終電ガールの全身に鳥肌を湧かせた。
終電ガールはしっかりと目を閉じていた……見下ろせば、ジェルを塗りたくられた自分の陰部が、ぬめり、光っているのが見えるだろう。とても見る勇気がない。
想像するだけで……もう充分だった。「ほら、見るんだ」
「んっ」いまだジェルに濡れたテシガワラに顎をつかまれて、思わず目を開いた。
目の前に翳されていたのは、安全カミソリだった。「……ほら、これも君の希望どおり」テシガワラが、目のほんの少し前でカミソリを揺らせながら囁く。「……まだ君は、髭を剃ったことがないだろう?……うん、そうだろうな……(テシガワラは、終電ガールの顎を掴んだまま、左右上下に向かせてじっくりと吟味した)頬や顎の下に……固い、毛が生えてくるのは、まだちょっと先だろうね……これから……君に、髭剃りの手本を見せてやろう……いいか、髭というのは、髭の生えている方向に剃って、やさしく剃るもんだよ。そうすれば、肌を傷つけない。……このカミソリは、3枚歯だ。もし、不意に手元が狂ってカミソリを横に引いたとしても……肌に傷を作らないストッパーもついてるらしい……でも」
ここで、テシガワラがぎゅっと終電ガールの頬を押しつぶすように手に力を込めた。
「……ここは電車の中だ……実際、よく揺れる。だから、いかにこれが『安全』カミソリだとはいえ……何が起こるかわからない。だから、できるだけ、大人しくしてるんだ……いくら気持ちいいからって……あんまりいやらしく腰をくねらしたり、前に突き出したり、引っ込めたりしちゃだめだよ?……君の大事なところに、傷をつけたくない。……大きく手元が狂ったら………」
テシガワラの目がまっすぐに目を覗き込んでくる。
まるで終電ガールの水晶体を焼き潰そうとでもしているかのようだった。「……君はほんとに女の子にならなくなっちゃうかもしれない」
クスクス、クスクスと周りから含み笑いが漏れた。
テシガワラが、終電ガールの前にしゃがみ込む……そして、注意深く……亀頭の先端を摘んだ。「うあっ!……」
そこは3分の1ほど包皮から露出しており、ジェルと、そして自らが絶え間なく垂らしていた粘液で濡れ光っていた。テシガワラの手のひらが、その部分を包み込み……ジェルと粘液を絡ませて揉み込みはじめる。
「あ、あああっ………だっ……だめっ……ぜ、ぜったい……こ、こんなの………」
腰が狂ったように踊り出した。しかし、陰茎の根本に、ぴたり、とカミソリの歯を押し当てられた途端……わずかに残っていた理性が危険を察知し、終電ガールの躰に『止まれ』の指令を出した。「そうそう……いい子にしないと……ほんとにちんちんがなくなる」
ジョリ。
テシガワラのカミソリが、陰茎の根本部分をわずかに覆っていた陰毛の一部を、確実に剃り落とした。
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