終電ガール インテグラル
作:西田三郎
■第二章 『輝』第二話「終電ガール2号」
「……あああああああんんんっっっ!!」
輝はほとんど、立ったまま弓なりに反り返っていた。
突き出すかたちになった、千切れそうに硬直した陰茎を、迎えるように千春がぱくっ、と口に含む。
千春の舌が亀頭に巻きつきはじめた頃には……輝にはもうスプーン一杯の理性も残っていなかった。
ほとんど勝手に……口が喋りだしていた。「……そ、そ、そうだよ……あれから……ずっと……あの子のことを想像しながら……電車の中のあの子に自分を置き換えて……ずっとオナニーを続けていた………でも………どこまでやっても、ぼくは満足できなかった……いろいろと……あの夜、電車の中であの子が味わっていた……気持ちよさや、恥ずかしさや、屈辱感を想像してみるんだけど………想像すればするほど……何かが足りない、と感じた……そりゃ、あの夜……ぼくは見ていただけで………実際に電車のなかで、あんなことをされたことなんかない……もちろん、あんな恥ずかしいことが自分の身に起こるなんて……想像しただけでも怖かったけど……怖いと同時に……ほんとうに自分にあんなことが起こったら……どうなるんだろう、って思いは消えなかった………想像してみると……どうしようもなく亢奮するんだ……亢奮すればするほど……『何かが足りない』って思いがますます強くなった……」
ねっとりと、亀頭に、陰茎に舌を絡められる。
そして肛門の奥深くに侵入した指先は……なだめ、手なずけているかのように、そのポイントをやさしく捏ね続ける。
限界までせりあがってきていた射精感を、輝は全精神をかけて押さえ込んでいた。
べつに、それを千春にも……誰にも強制されているわけではない。大げさなようだが……それは自分との戦いだった。
すべてを話し終えるまで、自分に射精してしまうことを許さないつもりだった。
そうすることによって、この極限状況を楽しんでいるのかも知れない。
そうだとすると、自分はとんでもない変態だ、と改めて思った。しかしそれを思えば、また頭の中の混乱と躰の昂ぶりが渾然一体となって……なけなしの現実感が薄く、軽くなっていく。まるで永久機関だった。
輝はさらに言葉を続けた。
「……あ、ある日……その日は……朝から家には………誰もいなかった……お母さんも、上のお姉ちゃんも、下のお姉ちゃんも……それぞれの理由で家を開けてて……家にはぼくひとりだった……たしか、中学に入って……最初の夏休みの……初めの頃だった……ぼくは……なにもすることがないので……部屋の中で……いつものようにベッドの上で……あの終電車で見た光景を思い出しながら……お、オナニーをはじめた………でも……さっきも言ったみたいに……その想像で亢奮すればするほど……『何かが足りない』という思いが強くなってきた……これだけじゃ……こんな頭の中の想像だけじゃ……ぜんぜん足りないんだ……ぼくは……その時、どうすればもっと………もっとすごい刺激が得られるか……はじめて気付いたんだ……」
「……へえ……」千春が陰茎から口を離す。「……どうしたの?」
千春が下から表情を伺いながら……陰茎をじらすように指を絡めはじめる。「……んんんっ……」じゅわ、と先端からさらに熱いものが滲み出すのを感じた。しかし、ここで話を中断するつもりはない。「……ぼ、ぼくは……パンツを履いて……そのままそっと部屋を抜け出した……家の中は、しんと静まりかえってた……ぼくしかいないんだから当たり前だけど……でも、心臓がすごくどきどきして……なぜか廊下を歩くときも、音を立てないように……注意深く歩いた……それで……下のお姉ちゃんの部屋に……忍び込んだ……」
「下のお姉ちゃん?」と千春「なんで……下のお姉ちゃんなの?」
「……上のお姉ちゃんは、ぼくよりもずっと背が高くて……体つきも……う、ううん……その……なんていうか……ちょっと違うんだ……ガタイがいいっていうか……でも、下のお姉ちゃんは……どちらかというと……僕に体型が似ていた……で、僕は下のお姉ちゃんが……ちゅ、中学時代の制服を…………まだ、大事に……クローゼットに仕舞っていることを知ってた………お姉ちゃんの……か、通っていた中学は……せ、セーラー服だった……カラーもあの子が着ていたのと同じ、紺色だった……そのことは……ずっと気になってたんだ……あの終電車で……あの子のことを見てから……それに……こうやって……その事を想像しながらオナニーをするようになってからは………」「……………」千春は、食い入るような目で輝の顔を見上げていた「……で、それを……持ち出しちゃったわけだ?………で、着てみたんだ?……そうでしょ?
「そ、そうだよ……着たよ……自分の部屋で……姿鏡の前で……服を全部脱いで……スカートを履いて、ブラウスを着てみた……あのときのナフタリンの臭いは、いまでも忘れられない……でも、鏡の中に映った自分の姿を見たときに感じたことは……もっとはっきり思い出せる………鏡の中に……映ってたのは……想像以上に……あの終電車で……デブとハゲにいたぶられていた……あの子にそっくりだった」
「……あたしも、想像しちゃった」熱っぽい声で千春が囁く。「……似合ったろうね」
「……似合ったなんてもんじゃないよ……あんなに……あんなに我を忘れて……狂ったようにオナニーしたのは……生まれてはじめてだった……鏡を自分で映しながら……オナニーしたのも…………僕はセーラー服の上着をまくりあげて、自分の胸を露出させて……自分で自分の乳首を弄くった……スカートを捲り上げて……かちかちになっていたちんちんを無我夢中でしごいた……家には誰もいなかったから……大きな声を出してた……思いっきり大きな声を……かんぜんに女の子になった気分で……自分で自分の躰をいじくりながら……その手は誰か他人の手だと……あの、デブとヤセの手だと思いながら……めちゃくちゃにいじりまくった……両方の乳首を痛いくらいにつねって……乳首に飽きると……乳首をいじってた手を……スカートの中に突っ込んで……お尻のほうに回した……それで……それまでもベッドの中で……何回も、何回もやってたみたいに……ちんちんを右手ではげしくしごきながら……左手の中指を……お尻の穴に指を突っ込んで……」「……今、あたしにされてるみたいに?」陰茎をしごく千春の手の動きが激しくなる。
「……そう……そんな感じで……もっと激しく……めちゃくちゃに……自分を犯してるみたいな気分で……右手でめちゃくちゃにしごいて……左手をこれでもか、ってくらいに動かして……自分を攻め立てた……信じられないくらいあっという間に……これ以上ないってくらいに……気が遠くなるくらいの気持ちよさが襲ってきて……ものすごい量が出た……信じられない勢いで……自分の精液が……目の前の鏡の表面に飛び散った………」
「……今日もおもいっきり出してよ」千春が陰茎に唇を近づける。「……あたしが口で、受け止めたげる」
「そ、そんな……ダメだよそんな……あああっ!!」はじけ飛んでしまいそうに充血していた亀頭を千春がまた口で包み込んだ。
奇妙な感じだった……自分の陰茎のほうが、熱を持っていたからだろうか?……千春の口内が……さっきより冷たく感じられた。「………あっっあっっ………で、でもその日は……それ一回じゃすまなかった……実際に数えなかったけど……汚れた鏡の前で……何回も何回も、オナニーを繰り返した……どんなにイっても……どんなに出しても……そ、そ、それじゃあ足りなかった………い、一体何時間、オナニーを繰り返してたのかわからないけど………気がつくと………まるで抜け殻みたいになって……鏡の前に………へ、へ、へたり……こ、込んでた………そ、そ、それから……んんんっ……あっ……はあっ………それから……家に……だ、誰もいないときを見計らっては………あ、あ、あああ………お、おっ……お同じことを………」
くん、とアッパーカットを喰らったみたいに、輝の顎が持ち上がった。
心臓の鼓動さえ、一瞬止まったのではないか、とさえ思えた。
「あああああああっっっっっ!!!!!」千春の口の中で、陰茎がのたうつように律動した。
恐ろしい量の精液が、千春の口内を満たしたはずだ。でも千春は輝の陰茎から口を離し……頬をふくらましたままいたずらっぽく輝を見上げると……ごくり、喉を鳴らしてすべてを飲み下した。
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