終電ガール インテグラル

作:西田三郎



■第二章 『輝』

 第二話「終電ガール」



  輝にとってそれは目もくらむような感覚だった。
  千春はこともなげに、輝のその部分を口に含むと、舌で転がし始めた。

  普段自分の指でその部分を弄くりまわすときに味わう感覚など、小さなあくびがもたらす快感くらいに感じられるほど、その刺激に輝は翻弄された。

 最初に感じたのはするどい痛みのような激しい感覚で……つぎに熱と、湿りが、やさしく亀頭を包み込んだ。
  そのやさしさに浸るまもなく、無邪気な舌の動きが輝を打ちのめす。

 「………うわっ………ちょ、ちょっと………ま………待って………」

 くすぐられたように痙攣しながら、千春の頭を押さえ込んだが、千春は輝を許さない
  壁に押し付けられた背中が何度も壁を打った。
  千春はますます舌をめちゃくちゃに暴れさせてくる。
  まるで大男に亀頭の先を持たれて全身を振り回されているようだった。

 このままこの刺激に耐え続けられるとは、とても思えなかった。
  いったい自分はこのままどうなってしまうのか、想像もつかなかった。

 「………んっ………わ、わ、……わかった………わかったから………言うよ………言うから………ちょ……ちょっと……ちょっとだけ………ちょっとだけ許して………」
 
  かぽっ、と音を立てて千春が亀頭から唇から吐き出した。

 「え……そんなによかったんだ?」千春が上気した顔で見上げてくる。「……うん、確かに、あの子も、そんなふうに感じてたよ…………あたし、ひょっとして天才かなあ?」
  「…………」
  輝は千春の顔をまともに見られなかった。肩で息をして、しばらく呼吸が落ち着くのを待つ。
  そして、一旦深呼吸してから、かるく嗚咽のような咳をして、弱弱しい声で……自分でもびっくりするくらい、少女のような囁き声で……語り始めた。

 「……君と知り合うずっと前、まだ小学校6年生の頃だった。ぼくは、今通っている中学よりもう少しましな、中高大エスカレータ式の私立中学に入学するために……今みたいに厳しい学習塾に通っていた……そこに通うには電車に乗らなきゃいけなかった……」
  「今と同じだね」千春が、ため息をつきながらいった。「……それで?」
 「……とっても厳しい塾だったから……帰りがとっても遅くなることがあって……ぼくはしょっちゅう終電に乗って家に帰ってた……ぼくは……今もそうだけど……そんなに同じ歳の男の子たちとの友達づきあいが得意じゃなかったから…………いつも一人で帰っていた」
  「今は、あたしがいてよかったね」
 
  千春が言った。少しだけ、心が和やかになり、言葉が滑り出しはじめた。

 「……はっきり覚えてる……ちょうど今くらいの季節で、あの晩は金曜日だった……わかってると思うけど、金曜日の最終電車ってのは……お酒に酔ったサラリーマンやOLとかで結構混んでるだろ?……ぼくはその中で、勉強に疲れきってぼんやりしながら立ってたんだけど……ふと見ると、同じ車両のちょうど中央くらいに、まるで何かを取り囲むみたいに、人だかりができてたんだ。……なんか、ほとんどが中年のサラリーマンだったけど……みんな輪になって、その中央で起きてることを熱心に見てるみたいだった……ああ、また誰かがゲロでも吐いたのかな、って……最初はそんなふうに思ったんだけど……それだったらヘンだよね。そんなの、珍しくもないし……わざわざみんなが興味津々で見たがるようなものでもないし……とにかくぼくは……好奇心を惹かれて……その人だかりまで苦労して移動した……人と人の間をかきわけるようにして……そして、熱心に何かを見ている中年のサラリーマンたちの肩と肩の間から……中を覗き込んだ……何を………見たと思う?」

  「痴漢……だよね?」千春の顔は、ますます紅潮していた。

  「……ああ、あの光景は、たぶん一生忘れられないと思う……紺のカラーのついたセーラー服を着た女の子が……とても痩せてて、髪をショートカットにしてて……とにかくきれいだった………その子が、太った銀縁眼鏡の男と、やせたのっぽの男と……もう一人……これがすごく奇妙なんだけど……セーラー服を着た女の人の三人に、同時に攻められてて…………」

 「え?セーラー服を着た女って……」千春がぽかんと口を開ける「つまり……女子高生かなんか?」

 「……それが妙なんだ……ぼくも最初はそうにしか見えなかったんだけど……なんかが違ってた……なんていうかな……どことなく、枯れてるっていうか……ぜんぜん、大人っぽいっていうか……絶対あれは、本物の女子高生じゃなかったと思う……たぶん、大人の女の人が、セーラー服を着てただけじゃないかな……でも……それよりもっとすごいことがあったんだ……」
  「すごいこと……?……その攻められてる女の子が……すっごく感じちゃってたとか?」
  「………そう、両目から涙を流して、まるで水の中で溺れてるみたいにもがきながら……明らかに周りにも聞こえるような大きな喘ぎ声を出してて……でも、それを取り囲んで見てる大人たちは、誰もその子を助けようとはしないんだ……みんな興奮しながら……それを黙って見てるだけなんだよ……その子は……パンツを膝まで下ろされて……セーラー服の上着を胸の上まで捲り上げられて……両手には……それぞれその子を攻めてる、太った男と痩せたのっぽの男の………ち、ち、……ちんちんを握らされてて………」
  「うわあ」と、千春「……えげつないね」
  「でも……それよりももっとびっくりすることがあったんだ………」

 ここで輝は、もう一度、唾を飲み込み……千春を見下ろした。
  そのとき、さっきは千春の顔に向けて突き出すように揺れていた自分の陰茎が、さらに昂ぶっており……ほとんど垂直に硬直している様が目に留まった。 自分でも、ここまでになっているとは思っていなかった。

  輝の驚きの表情を読み取った千春が、今は完全に重力に逆らって12時の方向を向いている肉茎を、ちらりと見て……大きく目を見開いた。思わず出そうになった感嘆の声を抑えようとでもするかのように、千春が輝の陰茎をしげしげと見ながら、自分の口を手で覆う。

  「やだ……すっごい……」
  「と、とにかく……」羞恥と興奮が押し寄せてきたせいで、言葉はさらに滑らかになった。「……それよりももっとびっくりしたのが……その子はセーラー服の上着を、胸の上までめくりあげられてたんだけど……おっぱいのあるはずのところには……なんていうか……ローションみたいなものが塗りたくられてて……その子の両方の乳首が、その二人の男にめちゃちゃに捏ねまわされて……ぴんと乳首が立ってて……い、いや、そんなことはどうでもいいいね……それよりも問題は……そこに、あるべきものがなかった、ってことなんだ……」
  「え……?あるべきものって……?」
  「おっぱいだよ。おっぱいが……なかったんだ」
  「……え……その……思いっきり……貧乳さんだった、とかいうんじゃなくて……?」
  「……そう、まるでなかった……ぺったんこだったんだ……」

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