終電ガール インテグラル

作:西田三郎

『彼女はどんなふうに堕落したのかを語ってれた。』
 
〜ウラジミール・ナボコフ〜



面白かったらポチっとしてね♪



■第二章 『輝』

 第一話「こうやって吐かせたんだよ。」



 「……つまり……その、毛が……生えてなかった、ってこと?」
  これまでに見たことないくらい、輝のまなざしには、真摯な熱が籠もっていた。

 今日は二人して、塾をさぼった。
  夕方に携帯で連絡を取り合い、塾の最寄り駅の改札で待ち合わせて、マクドナルドで食事をして、街をぶらついた。二人して塾をさぼったのは、これが初めて だった。

  そして、またこの廃ビルの裏のスペースにやってきた……千春にとっては今日で2回目、輝にとっては1週間ぶりであ る。
  二人はコンクリートの地面に腰を降ろし、ずっと話をしていた。
  千春は今朝、この場所で起こったことを、入り細に……包み隠しなく輝に語って聞かせた。
  千春には……今朝、あの少年といたときの空気が、まだこの場所にどんよりと篭もってしているように思えてならなかった。

 「……ううん。違う。剃ってあった」千春は輝の食いつき具合が、可笑しくて仕方がなかった。「……き れいに、剃り上げてあったんだよね」
  「……剃ってた?………自分で?」輝はますます話にのめり込み、千春の肩に熱っぽい躰を預けてくる「……何で……なんでそんなことを?」
  「……それがさ……すっごい話なんだ……聞きたい?」
  「う、うん」輝が、ごくりと唾を飲み込む。
  「………でもさあ……」ちょっと意地悪をして、焦らしてみたくなった「輝くん、なんでそんなにこの話にそんなに興味シンシンな の?……ってか、輝くん、痴漢の話、超スキだよね………なんで?」
  「そ、そんなことないよ……別に………」

 少しだけ、輝が長い睫毛を伏せて、ふてくされたように上唇を突き出した。
  ときどき千春は、輝のそんな横顔にぼうっと見とれてしまうことがある。

  なんで彼はこんなにきれいな顔をしているんだろう……?

  ………もともと、それほど彼のルックスに惹かれて付き合いはじめた訳ではなかった。なんとなく優しい物腰や、ほかの男子にはない柔らかい態度が、千春に とっての輝の魅力だったはずだ。でも、時おり……ふと見せるそうした表情の美しさは、なぜかいつも千春の臍のすぐ下あたりに、ずきん、 と甘い痛みをもたらすのだ。

 千春はしばらくその横顔に見とれてから……いつの間にか湧き出ていた唾を飲み込んで、話し始めた。

 「…………あたしも、脅したりすかしたりで、その子を問い詰めたんだけどさ……なかなか喋らないのね。ってか、もう下半身丸出しにして やったら、ほとんど半泣き状態で、パニックになっちゃっててさ……でもあたし、それ見てると……なんかすっごくヘンな 気分になってきちゃって……なんていうかなあ……いわゆる、Sっ気ってやつ?…………ものすごーくその子を、い じめたくてしょうがなくなっちゃったんだよね。
  だってさ、その子……そんなにパニクってるクセに、ビンビンになってんだもん。……なんつーの?『口 ではいやがってるけど、カラダは正直じゃねえか』的な気分になっちゃってさ……」

  「………」輝は一心不乱に千春の話に聞き入っていた。

  「……で、その子のビンビンになったアレを、ぐいっと掴んだらさ、『ああんっ!』っ て、ほんとの女の子みたいな、かわいい声出して、腰をくねくねさせるわけ……もう、いかせてもらう気まんまん、みたい な感じでさ………でもなんか………そこで一気にいかせちゃうと面白くないじゃん?……だから、ゆっくり……ゆっくり……じわじわ、じわじわ……焦らすみた いにして……その子のアレをいじってあげたの」と、ここで千春は一瞬、輝の顔色を見た。輝は完全に話に引き込まれてい る様子で、それはそれで面白かったのだが、千春はここにきて、はじめて違和感を感じた「……ねえ、輝くん。こんな話、イヤじゃない?
 
  「え……?」輝は、夢から覚めたようなそぶりで、ぽかんと口を開ける「なんで?」

 「あたしが、ほかの男の子にこんなことした、って話聞かされて、イヤじゃない?……なんか、フツーに嫉妬と か、ヤキモチとか、そういうのってないの?」
  「……え、て、ていうか……」輝は動揺を隠し切れない様子だ。「……ヤキモチ、焼いてほしいの?」
 
  あまりに間抜けな問いに、千春は噴き出しそうになった。
  そしてさらに、輝とあの少年の姿が重なって……ますます双方が愛おしくなった。

 「……ううん。聞いただけ」と、いたずらっぽく笑う「……もっと聞きたい?……どんなふうにしたか、話してほしい……?……それと も……」
  「……それとも……?」
  「……同じようにしてあげよっか?……その子にしたこと、輝くんにもしてあげよっか?」
 
  しばらく輝は目を見開き、固まっていたが……あえて千春は答を促さなかった。

  数十秒の沈黙だったが、輝が自主的に答えを出すのを待った。
  じりじりと、痺れるような期待と亢奮が、尻からあふれ出すような感覚だった。
  夏休みのはじまりのような、土曜日のはじまりのような、甘い気分だった。

 やがて、輝は……声を出さずに小さな顎をかすかに縦に振った。

 

 1分後、千春は輝を立たせて、今朝あの少年を押し付けた壁の位置に、数ミリの狂いもなく押し付けていた。
  ベルトを外された制服のズボンはすでに足もとに落ち、むき出しになったグレーのボクサーパンツには千春の手が掛かっている。細くてき れいな太腿だな、と千春は思った。まだ筋張ってはいないし、体毛も見られない。あの少年に負けないくらい透き通るような白い肌は……千 春の頭をくらくらさせた。

 見上げると……熱っぽい視線で見下ろす輝と目が合った。
  恥ずかしそうに目を背けたのは輝のほうだった。

 「パンツ、ずらすけど……いい?」
  「…………」輝が、目を閉じて眉間に皺を寄せる。
  つまり、“いい”ってことか、と千春は解釈して、一気にパンツをずらした。
  「あっ………」

 ぷるん、と陰茎の先が千春の目の前に突き出てきた。
 
  千春は目を凝らして、その物体自身と、その周辺をじっくり観察した。
 
  あの少年の陰茎と、大きさも太さも、その状態での固さも、そして基本的にすこしだけくすんだ色はしているが、肌色に近いその側面も……包皮の先から覗いて いる濡れたピンク色の先端の部分も、ほとんど変わらない。千春にはその2本は、まったく同じものに見えた。
 
  一つだけちがっているのは、輝の陰茎の根本には、かすかな茂みがあることだった。

 まだ柔らかそうな、薄い色の体毛だった。
  それがこの見捨てられたようなビルの裏の場所にまで吹き込んでくる、湿った夜風に流されて、ふわり、ふわりと揺れている。

 「………そ、そんんなに………見ないでって………」
 「……恥ずかしい?」

 千春は意地悪そうな笑顔をわざと作って、輝を見上げた。
  しっかり目を閉じ、ほとんど右肩の先を噛もうとでもしているかのように顔を背けている。
  もともと白い頬が、真っ赤に染まっていた。閉じられた瞳が、長い睫毛を強調している。
  千春の心臓はますます高まってきた……今朝と同じように。

 「………ねえ………輝くん。あたしもあんたに聞きたいことがあるんだ
 
  千春は指を伸ばして、濡れそぼったピンクの先端に触れた。

 「んあっ………!」
 
  ビクン、と輝の躰が波打つように震えた。

 「ねえ……同じようにしてあげるから……あの子にしたことと同じようにしてあげるから……喋んな よ……」

 今朝、少年にしたのと同じように……千春は輝の包皮をつるん、と剥いた。

 「……ひっ……あああっ」

 今朝は驚いたものだった……何せ、男性器がそんなふうに出来ていることは、今朝はじめて知ったのだ。

 「……ぜんぶ教えてくれないと……いじめちゃうよ。……教えてよ」
  「………な…………」輝が薄目をあけて、千春を見下ろした「……何を?……」
  「……輝くんが………何でそんなに痴漢に興味があるのか」

 
  千春は一旦目を閉じると、深呼吸してから………輝のむき出しの先端に唇を寄せた。

NEXTBACK
TOP