終電ガール インテグラル

作:西田三郎



■第一章 『千春』

 第八話「まるでエロ小説みたい」


 『わあ……あたし今……アホなエロ小説みたいなことしてるよ』

 少年の手を強引に引っ張って降りたのは、輝とともに通う学習塾のある駅だった。

  今日はもう、学校をサボることに決めた。


 はっきり言ってそんなこと、これまで頭に思い浮かべたこともなかった……とにかく、今の千春は強烈な感情に支配さている。一体、自分でもこれからどうなるのか、まったく先が読めない状態だった。
  千春は少年の手を引きながらホームから階段を降りた。
  多少の抵抗はあるけれど……少年はちゃんとついてくる。

 「……は、離してっ……離してくださいっ…………」少年が小さな声で囁く。
  まだ声変わりの途中なのか、すこし掠れた自分の声を気にしているようだった。
  「……とかなんとか言って……ちゃんと自分の足で歩いてるじゃん

  千春にしっかり手首を捕まれているとはいえ、少年はしっかりと自分の足で歩いていた。

   「……な、な、何するつもりなんですか……?」
  少年はすこし前かがみ気味で歩いている……スカートの中でまだ開放されていない陰茎が布を突き上げて目立つのを、気にしているらしい。
  「……よく言うよ。あんたこそ、あたしをどうするつもりだったのよ」
  「……あの……まさか………駅員に突き出すとか……」
  振り返ると、まるで命乞いをする小動物のような目で少年が千春を見ている。
 
  ますます意地悪な気分にならずにおれなかった。

 「……どうしよっかな〜……そうされたい?」
  「……それは……」泣きそうな顔で少年がぶんぶんと顔を振る「こ、こ……困ります」
  「……じゃあ、大人しくついてきなよ。それから何でもあたしのいう事聞くこと。わかった?」
  「…………」

 そのまま改札を出て……千春はあの、『お気に入りの場所』に向かった。

 どう見ても少女にしか見えない、可憐な少年の手を引きながら午前中の街を行く千春の姿は、道行く人々の目にはどのように映ったのだろうか。……まあ姉妹とか……そんなふうに思ってもらえればいいかな、と千春は考えていた。しかしふたりは、あまりにも似ていなかった。じゃあ、後輩と先輩?……あたしがこの子をいじめてるいじめっ子とか?……いろいろ考えたけれども、どうもしっくり来ない。

 まあいいや、と千春は思った。

  今日も朝から日差しがじりじりと照りつけてくる。
  まるで空から集中攻撃を受けているみたいで、ここのとことずっとそんな日が続いている。
  今日も暑い1日になりそうだった。だから、まともな判断力を奪われているのは、何も自分だけではないだろう。

 千春は少年の手を引きながら、あの廃屋の前まで来ていた。

 「……こ、こんな……こんなとこに……僕を連れ込んで……い、い、いったい……どうする気なんですか?」
  「ぼく?……今、『ボク』って言わなかったあ?」わざと意地悪に少年を顧みる。「女の子のクセに」
  「……えっ……あっ……その……ボクじゃなくて……あ、あ………あたし
 
  おどおどと自分の想像通りの反応を見せる少年の一挙一動が、ますます千春から普段の千春の常識と倫理観を切り崩していく。ああ、いったいあたし、こいつのせいでどうなっちゃうんだろう、と千春はこみ上げてくる亢奮に眩暈がした。眩暈がしたのは、照りつける太陽の所為だったかもしれないが。

 「……とっととそその路地に入りなさいよ」そういって少年の背を押す「ほら」
  「あっ」

 どん、とすこし強めに押すと少年は数歩、吸い込まれるように路地に飲み込まれていった。

 ビルの裏まで少年を押していく。
  どうもこの忘れられたような狭い空間にいると……自分の中の欲情が活性化するような気がする。
  輝といつも、ここでいやらしいことを繰り返しているからだろうか?

 しかしこれまでこの場所で、輝に対して向けられていた熱くてぬかるんだ感情は、今やコンクリート剥き出しの壁を背に、おびえた目で千春を見上げる少年に注がれていた。

 「……な、何するんですか………」

  少年が長い前髪の奥から、妙に潤んだ目で『いかにもそれなりな』視線を投げかけてくる。
  今、彼のか細い両腕はブラウスの前の胸……存在しない、仮想の乳房だ……を守るように上半身を抱きしめ、すこし中腰になっている(股間の出っ張りを隠すためだろう)。スカートから伸びる、信じられないくらいにか細く、見とれるくらいに真っ白な脚は、膝をくっつけた状態でXの字を描いている。

 そうそう、これなのよ。と千春は思った。
  何が『これ』なのかはよくわからなかったが。

 「……教えなさいよ……」低い声で、千春は言った「あんた一体、なんで、どういうつもりで、こんなことしてんの?……なんでそんな……変態になっちゃったの?」
  「…………」少年がきっと唇を引き締めて、千春から顔を背ける。

 そうそう、これなのよ。と、また千春は思った。
  もはや頭に浮かんだ言葉を、あれこれ選別したり編集したりする必要はなかった。
  嗚咽のように溢れてくる欲情に、すべてを任せればいいのだ。

 「なにそれ、その生意気な態度
  「あっ」

  少年の肩を左手で押さえ、その小ぶりな顎先を掴むと正面を向かせた。

  薄い色の瞳の中に、怯えと期待の種火がちらちらと揺れている。
  たまらず、小柄なその躰をしっかりと壁に押し付けると、自分の躰を密着させた。

  「……やっ……ちょ、ちょっと……何するんですかっ???」
  「……あんたがあたしにしたがってたこと」少年の耳元で囁く。「それと……ほんとうはあんたのほうが、あたしにされたがってたこと、だよ」
 
  少年の躰が千春の躰と壁の間で、くねくねとうねり始める。
  決して本気で抵抗しているわけではないことは、千春にもありありと伝わってきた。
  少年のブラウスを通して、じっとりとした汗の湿りが伝わってきた。
  押し付けた下半身では、千春の太腿の間で、しっかりと硬くなった陰茎がスカートの布地を突き上げている。

 「……ねえ……教えなよ……なんであんた、こんなヘンなことしてんの……?いったい、どんなきっかけで……こんな変態になっちゃったの?」
  「……あ、あ、あ……あなたに、か、か……関係ないじゃないです……かっ………」

 自分でも驚いたが、千春は少年の唇に吸い付き……気がつけばその中に舌をこじ入れていた。
  ……しばらく……輝とのキスを思い出しながら、少年のどこか甘い味のする唾液を味わう。
  ……まあこのへんにしといたるか、と思いながら、名残惜しそうに少年の下唇を甘噛みしながら少しひっぱり、すぽん、と音を立てて開放した。

 ふたりの唇の間に、お互いの唾液が入り混じり、糸を引いた。
  少年はもう、うわごとを呟くように、しおらしいことを言って千春を悦ばせた。
  「な、な、何するんですか???……こ、これ以上ヘンなことしたら……お、大声出しますよ……ひ、人を呼びますよ……」
  「ふん」千春は出来るだけ意地悪な表情を作って少年に言った。「大声出しなよ。人、呼びなよ……恥ずかしい思いをすんのは、あんただよ」
  「えっ!!……ちょ、ちょっと!ちょっと待ってください!」

 千春が少年のスカートの腰の脇にあるホックに手をかけた。
  少年はさすがに慌てた様子で、なんとか千春の手を制しようとする。

 「……あんた……たしかこの下……ノーパンじゃなかったっけえ??」
  「いやっ………お、お願いだから……や、やめて……あっ」

 あっと言う間に千春の指は、少年のスカートのホックを外し、ジッパーを引き降ろしてしまった。
  ふぁさ、とローファーを履いた少年の足もとに、紺のプリーツスカートが落ちる。

 「い、いやっ……」慌ててその部分を隠そうとする少年。
  千春は中腰になって、少年の両手首をそれぞれの手で捕まえると、左右に開かせた。
  「え……これって………」

 まず目に飛び込んできたのは、包皮から露出していたピンク色の亀頭だった。
  それがほとんど水平に突き出し、ふるふると震えている。
  そこは粘液に濡れ、先端からは透明な液の一滴がこぼれ落ちそうになっていた。
  その奥で、小さな睾丸が二つ、いかにも切羽詰った感じで収縮していた。

 それよりも千春を驚かせたのは……これくらいの少年にはあっておかしくない筈の……陰茎の根本を覆う体毛が、見当たらなかったことだ。

  その部分は、明らかに数日前に剃りあげられたように……青々としていた。


 


 

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