終電ガール インテグラル
作:西田三郎
■第一章 『千春』第七話「形勢逆転」
『じょ、じょ、冗談じゃねーっての!!……なんであたしが……こんなこと……』
さすがにこの時点では、千春の現実感を奪っていた全身の熱も一気に冷めていたので、あわてて手を引こうとした。
しかし、いつの間にか千春の腰から素早く戻ってきた少年の左手が、千春の手を上から押さえつけた。千春の手を押さえつけた少年の手は、信じられないくらい柔らかく、乾いていて、なぜかひやりとするくらい冷たかった。しかし、その下で自分の手の中で息づいている肉棒は、熱く、脈打っていた。『や、や、や……やだ………』
意識が冷めていくと同時に、手の中で息づいているその物体の情報が、手のひらから脳に伝達されてくる。
止めようと思っても、脳は自動的にその情報を整理する。
それは直径4センチほどの、肉でできた物体である。
それの表面にはなにか、鼓動をきざむ脈のようなものがある。
その先端の状態はよくわからないが、そこから染み出している粘液が千春の手をすでに汚している。『いや、いや……ぜっっっったい……こんなのシャレになんないって……』
千春にとってこれが、男性の性器に触れた初めての体験だった。
これまでに輝の性器に触れたことはない。
というか、その有様を目にしたこともない。それを今、自分ははっきりと手のひらで感じている。顔を上げて、少年の顔を覗き込んだ。
するとまた、どきん、と胸が一度高く鳴った。
少年は今、顔を伏せずにしっかりと千春の顔を見ていた。
すこし顔を近づければ、鼻の頭が触れ合いそうな距離だった。
すでに荒くなっている2人の吐息は、至近距離ですっかり混じりあっているようだ。
それにしても……改めて千春は、少年のその美しい顔のつくりを認めざるを得なかった。紅潮した頬はそのままだが、長い前髪の奥で、少年の黒目がちで切れ長な目が、半眼で千春の顔をまっすぐに見つめていた。目は少し潤んでいる。目の下に浮かび上がっている赤いほてりが、奇妙に生々しかった。小さな、形のいい鼻はそれでもやはり真っ赤に染まり、鼻腔は亢奮で少し息づいていた。
そしてその下で、半開きになった小さな唇が艶やかな滑りをおびている。『こ、こいつ……マジで変態なんだ……こいつ、あたしで亢奮してんだ……』
と、その瞬間、千春の下着のぬかるみの中で、その弱点を捉えていた少年の指が、またゆっくりと円を描き始めた。
「んんんっ……!!!!!!!」
ほとんど条件反射で、千春は自分の手の中にあった少年の……もう怖いくらいに硬くなっていたその部分を……ぎゅっ、と握り締めていた。
「あっ………」
少年の小さな顎がくい、と上に上がり、少年は睫毛をふせて目を閉じた。
びくん、と千春の手の中で少年の肉棒が息づく。
「ひっ……………あっ」
目を閉じたまま少年は千春の中心部を捉えた指の腹で、また小さな円を掻きはじめた。
もう千春のブラウスの中は熱と湿気で満ちていた。
少年のほうからも……どことなく強く、生々しくなったような……それでいてそう不快ではない香りが漂ってくる。気がつけば千春は、ほとんど条件反射で、少年の肉棒をさらにしっかりと握り締めていた。
「う、うんんっ………」少年の顎が、ぴくんと跳ね上がる「も……もっと……」
「い、い……いやだって……言ってるじゃ………んんっ!!」
今度は少年の指が、千春の中心の突起を小刻みに揺らしはじめた。
「も……もう…………だめ……だめだって……あっ………」千春の手に被せられた少年の手が、さらにしっかりと肉棒を握りこませると……こんどはその手を前後に動かしはじめた。千春にとってはまったくもって不本意だったが、そうしてお互いの感覚が凝縮した部分に刺激を与えあう、いかがわしい共同作業が始まった。
この混みあった朝の電車の中で。『やだ……こいつ……なにこの顔……………』
潤みを帯びた少年の切れ長な目の端で、不思議な色をした黒目が時おり、半眼で千春の表情をとらえた。
ずきん、とまた千春の胸が痛みを伴って疼いた。
少年は千春の手を使って、自らに刺激を与え続ける。
気がつけば……千春のパンツの中の中心部を捉えていた少年の指の動きは、どんどん散漫になっていった。少し……もどかしいくらいに。「ん……」
いつのまにか千春は……すっかりおろそかになった少年の指に自分自身をこすりつけるように、腰を回し始めていた。腰の後ろに回っていた少年の腕は、今やすっかり力を無くしている。
千春の手を強制的に前後運動させる少年の手の力さえ、かなり弱まってきた。
そのかわりに……少年はいかにもじれったそうに、自分で腰を回し始めていた。
頬を真っ赤にそめたボーイッシュな美少女が……実は少年なのだが……半眼の粘っこい視線をともなって、チェックのスカートに包まれたその細い腰でゆっくりと弧を描いている様は、千春の目にも充分なまめかしかった。
『……なに……?………こ……これって……』千春はごくりと唾を飲み込んで、からからになっていた喉を潤した『………もっと………してほしい、ってこと?』
ぎゅっ、と強く、少年の陰茎を握ってみる。
「あんっ……」
少年の細い肩がびくん、と跳ねて、少年が顔を背ける。
自分の右肩先を噛もうとでもしているかのようなその仕草は、妙に千春の心をくすぐった。
それでも弱弱しくではあるが……少年は指によって千春に刺激を与えようとしている。
そして……いかにも物欲しそうな艶かしい視線を、千春に投げかけてくる。『……こ、これなんか……お、面白いじゃん……?』
千春の中で、何かがぷちん、と音を立てて切れた。しっかりと少年の陰茎を握り締めたまま、いささか乱暴に、ほとんどめちゃくちゃに、それを前後にしごきはじめた。
「……あっ………、い、いや………」
『……なーにが『いや』だっつーの』面白いように少年が、全身で反応を見せた。
肩はぴくん、ぴくんと跳ね、腰はさらなる刺激をもとめて周囲に悟られやしまいかと心配になるくらいに激しくうねり始める。下に目をやれば、細い太腿のたよりない筋肉がつっぱり……今やその少年はそのローファーのつま先だけで立ち、必死に床に踏ん張っている。扱けばしごくほど……少年の陰茎はぬるぬるした粘液を帯び、そのぬめりはどんどん千春の手を汚していった。
もちろんそんな異性の反応に直接触れるのは、千春にとってこれがはじめての体験だった。
しかし不思議と……嫌悪感や“汚い”という感覚は抱かなかった。
それよりもむしろ、自分の行為が……少年の肉体にそういう影響を与えているという事実が、純粋に楽しかった。気がつくと千春は夢中になっていた。『……すごい……どんどん硬くなって……びしょびしょになってく……』
目の前で美しい少年の顔が、ますます真っ赤になり、切迫感に歪んでいく。
千春は不意に、手の動きを止めると……じらすようにゆっくりと少年の陰茎を扱いた。
少年は恨めしそうな、追いすがるような……まるで子犬のような目で千春を見る。
千春は少年のスカートから手を抜き取ると、少年の目の前に人差し指と親指を翳した。
少年が熱っぽく見つめるその指先を、ゆっくりと開いていく。
離れていく人差し指と親指の腹を、蜘蛛の巣のように糸を引いた粘液が繋いでいた。千春が、少年の耳元で囁く。
「ほら、見て………こんなになってる」
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