セルジュの舌

作:西田三郎


■22■セルジュの指


“どうだ? 他人にこうやって触られるのって……なんか、自分で触ってるのとぜんぜん違うだろ? なんか、チンポだけじゃなくて、腰全体が……ってか全身が、ぶわっと痺れる感じしね?”
 
 何重にもエコーがかかったように、和男の声が響いてくる。

 そこは赤い部屋だった。いや、部屋ではない。何らかの生き物の体内かもしれない。

 ドキン……ドキン……ドキン……ドキン……。

 和男が仰向けに横たわっている床も、ぬめぬめして息づいている。回りの壁も息づいていた。
 壁も、天井も鼓動し、息づいている。

「わ、わかった……わかったから……もう……ああっ?」

 下半身で見上げているはずの和男から顔を背けていると、突然、ペニスが柔らかく、熱く、濡れたものに覆われた。
 あのときよりも、ずっと熱い。
 慌てて見下ろす……和男が、すっぽりとペニスをくわえ込んでいた。
 ようやく生え揃った恵介の陰毛に、鼻先を埋めんばかりに。
「や、やめろ……やめろ和男……」
 ちゅぱ、ちゅぱと音を立てながら屹立した恵介のペニスをしゃぶりあげる和男の頭に手をやる。
 ……?……想像以上に長い髪だ。
 見下ろすと、自分のペニスにしゃぶりつきながら、こちらを見上げているのは友里江だった。

“セルジュがどんなふうにするか、あんたにも教えてあげる……”

「だ、だめだ友里江……待て、ちょっと待って……うあっ!」

 友里江の舌が絡みついてきた。
 その舌使いは和男のものよりも、ずっと洗練された熟練の技だったことは、恵介の身体に刻み込まれている。
 巻きついてくる長い舌……それが、恵介の陰茎を上下にしごきはじめる。
 あのふっくらとした唇も、やわらかく幹を締め付けてくる。

「や、やめろ……やめろ友里江……い、今はやめろ……いま、ウチが大変なんだよ!」
「じゃあ……いつならいいの?」

 友里江が顔をあげる……その顔は、裕子に変わっていた。

「……セルジュの舌がどんなにすごいか……あなたも目を覚ましてしっかり味わったら?」
「やめろ!」
 裕子が髪をかかきあげて唇を突き出し、恵介のペニスの先端に唇をつけたときだった。

 
 恵介はあの動物の体内のような場所ではなく、自宅一階のリビングの床に横たわっていた。

「目を覚ましたわ……」
 見上げると、母親が上から恵介の顔を覗き込んでいる。どこか困ったような、悲しそうな表情で。
「か、母さん……母さん、助けて……身体が動かないよ」
「そ、それは……」
 
 母が顔を背ける。
 両手が頭の上で固定され、両脚には何か大きなものが乗っているようだ。
 何か大きなもの? ……いや、それはセルジュだ。セルジュ以外、考えられない。
 恵介は慌てて自分の下半身を見た。
 ズボンと下着を取り払われた半裸が、むき出しになっている。
 全裸のセルジュがかがみこんで、恵介のペニスの具合を観察していた。

「う、うわっ!」
ガマンして! 我慢するのよ恵介! 痛くはないから! 気持ちいいのよ! すっごく気持ちいいの!」

 母が叫ぶ。
 どうやら自分の両手首を頭のうえで固定しているのは、母のようだ。
 なんてことだ……母は、セルジュを殺そうとした自分の頭をゴルフクラブで殴ると、今はセルジュが息子を蹂躙することの手助けをしている。

「なんでだよ? ……なんでこんなことするんだよ母さん!」
「許して! 仕方ないの! セルジュがこうしたい、って言ったんだもの! もうどうしようもないの!」

 下半身に視線を落とす……気を失っている間に、どれほど弄られたのかわからない。
 しかし自分のペニスは、弾けば響きそうなほど正直に天井を向いている。

「……ええ、ちンコ しトル"や ナイか ……恵介。かタち とイイ、色とイイ、わしガ一番好きな かワええ、第二次セイチョウ中の チンコのかたちヤのう……死んでモウた、和男も、ええチンコのカタち、しとったデえ……」
「やっ、やめっ……やめっろ……」
 慌てて腰を振ってセルジュの指から逃れようとしがが、セルジュの巨体に押さえつけられていては、叶うわけがない……恵介は何か助けになりそうなものを探 して、あかりの消えたリビングを見回した……が、目に付いたのは、ソファの上でぐっすりと鼾をかいて眠りこけている父の姿だけ。

 役たたず……と恵介は思った。
 あんた、ほんものの役たたずだな。

「カズちゃンニは、わル"いことシたノう……せンズり"の ぶっコキ過ぎで死ぬナンて、ほんマ、気の毒なことシタで……わシは、『まタ キモチようナリ"たかっタ ら イツでモ おいで』、チューとっタん ヤ 。ソヤけど、あいツは 家に来んかった……」
「あたり前だろ! 離せ、この変態! おれのチンコいじるな! ……あっ……」

 ざらざらした指先で、尿道口の入口をこすられる。
 暗い部屋の中、セルジュの顔は影法師になっていて見えない。
 しかしあの類人猿を思わせる輪郭だけはしっかりと見える。

「……なんヤ えラ"ソう なコト 言うテテ 先っぽから" よだれ" 垂ら"しとる"がナ」

 そう言ってセルジュは恵介の鼻先まで指を持ってくると……人差指と親指の間で、粘液が糸を引いてつながっているのを見せつけた。
 左手では、ゆるく、軽く、恵介の陰茎をなぶり扱き、その性感を高めていきながら。

(だ、だめだ……だめだ……このままじゃ、マジでやられちまう……そんなことになると……)
 
 どうなるのだろう?
 自分も恵介のように、部屋にこもってオナニーのやりすぎで死ぬことになるのか?
 セルジュの手が恵介のワイシャツのボタンを外し、晒された素肌を撫で回しはじめる。

「気持ち エエか?……エエのんカ? 恵介」
なわけねえだろ! ……いい加減にっ……あ、あんっ!」

 左の乳首を抓られた。紙やすりのような質感の指先で。
 そして、ころころと転がれる。右の乳首も、同じように。

(なんだ? ……なんだこれ? ……そんな……こ、こんなとこが気持ちいいなんて……)

「ほれホレ" だんだん 乳首も 固とう なっテ キタで……乳首が弱イんア、 母親ユズり"か?」

 びくん、びくんとヒクつく自分の身体を呪いながら、自分の両手首を固定している母親を見上げる。
 母親は、顔を背けながら泣いていた。
 ぽたり、と恵介の頬に熱い涙がひとしずく落ちる。
(だったら……手を離してくれよ母さん……)
 恵介はそう思ったが、とてもそれを口にする余裕はなかった。
 口を開けば、情けない喘ぎ声を上げてしまいそうだったからだ。
 身体が、ぴょんぴょん跳ねるのはもう仕方がないとして……
 なんとしても甘い吐息なんかセルジュに聞かせてやるものか、と恵介は決意し、唇を噛み締めた。

「カズチャんも、……けっコウ、乳首が 弱カッタなあ……オんマ あいつ、うチの家に、 また来たラ" 良かったノニ。 あいつガ けーヘンから わし が、あいツの家に 訪ねてイッタんや……そしタら、あいツの オカン、言うのが……コレ"また ええカラ"ダしとって、スケベそウな女でノウ……」

 恵介はセルジュの顔から何かが垂れてきて、自分のヘソのあたりにぴたりと当たるのを感じた
 そうか……これが。これがセルジュの舌か。








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