セルジュの舌

作:西田三郎


■14■セルジュの舌に近いもの


「あんた……女の子にフェラチオしてもらうなんて、はじめてでしょ?」
「…………」
 恵介は顔を背けていたが、友里江の視線はまるでドライヤーで温風を吹き付けらているように熱かった。
「ていうか、女の子に触られるのもはじめてでしょ?……ふふ、え、なんだかちょっと固くなってんだけど」
「……んっ」
 ちょん、と指でつつかれて、恵介は腰を震わせてしまう。
 確かに……「女の子」には、性器を触られるのも、フェラチオされるのもはじめてだ。

(いや、ちょっと待て……フェラチオ? この女、マジでそんなことするつもりなのか?)

 ここは親友の葬儀会場だ。建物の中では、親友の亡骸が柩に入っている。読経が聞こえてくる。
 すぐ近くには、家族や、クラスメイトや、先生たちがいる。そんな状況で? ……この女、正気なのか?

「……カズちゃんからは、どこまで聞いたの? あの子がセルジュと、あたしと、裕子ちゃんにどんなことされたか、ちゃんと聞いた?」

 友里江が恵介のペニスに指を絡めてくる。

「あんっ……」
「へへ……感じてんだ……女の子みたいな声出しちゃって……かわいい」
 ますます友里江の指使いは巧みなものになり、半分ほど硬くなっていたペニスは、たちまちのうちに角度を高めていった。
「や、やめろ……やめろってば……」
 これは和男の呪いなのだろうか?
 目を閉じて耐えようとすれば、和男にペニスを弄られたときの記憶が、デジタルハイビジョン映像のように鮮明な画像と感覚をともなって蘇ってくる。
「すっごい……かわいい顔してるけど、あんたすっごくエッチなんだね……もうビンビンになってる。先っぽから、ネバネバさんがあふれちゃってるよ……」
「い、言うなって……よせ、やめろ、こんなところでこんなとこ……」
「こんなとこって……ただ公民館の裏、ってだけじゃん。たまたま今日は、お葬式がやってるだけで」
「か、和男はおれの親友だぞ? ……親友の葬式だぞ? ……ざけんなよ。このヘンタイ女」

 “変態女”と呼ばれても、友里江は少しも動じなかった。

「その変態女にエッチなことされて、おちんちんをビンビンにさせてるのは誰? あんたひょっとして、マゾなの? いつも、こんなふうにいじめられることを想像して、オナニーしてるんでしょ? ……あんたも、カズちゃんと同じ、マゾなんでしょ?」
「ち、違うっ……あ、はっ……ああっ……」

 友里江が恵介のペニスの根元から先端にかけて、やわやわと揉みほぐし……ゆるく握って手を前後させる。
 和男のめちゃくちゃな動きとはまるで違う、繊細な動きで。
 こんな手の動かし方も、セルジュが友里江に教えたのだろうか?

「……うふふ、気持ちよさそうにしちゃって……カズちゃんも、そんな顔して、エッチな声出したんだよ……人にやってもらうと、とっても気持ちいいでしょう? でも、家に帰ってこのことを思い出しながら、真似して自 分で触ったって……ぜったいに満足なんかできないよ。カズちゃんも、素直にまたセルジュに求めればよかったのに……かわいそうだよね。お家じゃお母さんが 四六時中、セルジュとアヘアヘ。でもプライドが邪魔して、セルジュには自分から求められなかった。そりゃあたり前だよ……カズちゃんが死んじゃうまでオナ ニーに狂っちゃったのも……ホント、かわいそう」
 そう言いながら、友里江は恵介の半分包皮から露出した亀頭に、ちゅっ、とキスをした。
「うっ!」

 雷に打たれたような戦慄が、恵介の背筋を駆け上る。

「セルジュがどんなふうにするか、あんたにも教えてあげる。セルジュがどんなにすごいか、なんでカズちゃんがセルジュから逃げきれなかったか、どうしてあんな死に方をしなきゃいけなかったのか、あんたの身体に教えてあげる……」

 にゅる、とふくよかな唇にペニスの先端が包まれた。

「あっ……や、やめ……」舌が動き出した。「やめろっ……てばっ……うわっ!」

 ……それは未知の感覚だった。和男が狂気にかられて、半ばやけっぱちに恵介にほどこした口唇愛撫とは、まるで違うものだった。
 友里江は頭を動かさず、口内の舌だけで自由に恵介の亀頭を弄んだ。
 舌を使って、器用に包皮を剥きあげられる。敏感な先端部分を舌の先端がつつくようにからかう。
 根元まですっかりくわえ込まれると、友里江の舌はペニスの裏をゆっくりと這い、根元へ、先端へと何度も何度も往復した。
 友里江の熱っぽい手で、睾丸を揉みしだかれる。もう片方の手は恵介の細い腰のうえを滑り、尻肉に達するとその弾力を楽しみはじめた。

(や、やばい……ヤバい……マジで気持ちいい……で、でもここは……和男の葬式会場で……)

 理性でなんとかはねつけるにしては、快感はあまりにも即物的で強烈すぎた。
 唇をすぼめて恵介のペニスの側面をしめつけながら、名残惜しそうに舌をからめ、ちゅぽん、と唇を離す友里江。
 見下ろせば友里江の唾液と自分が漏らした 粘液で、濡れ光ったペニスの先が、糾弾するように恵介の顔をめがけて反り返ってる。
 恵介は諦めたように……ぐったりと壁に背を預けて弛緩した。

「こんなもんじゃないわよ……カズちゃんが味わったキモチヨサは。なんてったって、相手はあたしじゃなくて、あのセルジュなんだから……どうしたの? 身 体ピクピクさせちゃって……そんなに気持ちいい? え、腰が動いてんだけど。いやらしい……気持ちいいんでしょ? かわいいけど、わるい子ね……親友のお葬 式会場で、あたしみたいなビッチにこんなことされて、そんなに気持ちよさそうにしてるんだから……」
 確かに、無意識のうちに腰をゆらゆら揺らしていた。
「……もうやめろって……こんな、こんなバチアタリなこと……」
「バチアタリはあんたのちんちんでしょ? ……ほーんと、不謹慎なんだから……おちんちんの先から、どんどん汁があふれてるわよ。自分は泣かないかわりに、 おちんちんが友達のために泣いてあげてるの? ……これから、ほんとうに泣かせてあげる……あの夜、カズちゃんも最後には、赤ちゃんみたいに泣きわめいてた わ……すっごくエッチだったなあ……あの普段は凛々しい爽やか少年が、セルジュにねぶり回されて……」
「怒るぞ……マジで怒るぞほんとうに……」
 友里江に対して、なんとか怒りを絞り出そうとする。
 しかし限界近くまで高められた射精への欲求が、すべてを曖昧にしてしまう。
「……こっからが本番だよ。ほら、あたしの舌見て」
 べろり、と友里江が舌を垂らす。
「ひっ!」

 異様に長い舌……その舌は健康的なピンク色をしていたが……その舌先は、顎の下あたりまで伸びている。
 ちろちろ、と舌先をひらつかせる友里江。言うまでもなくその舌、爬虫類を思わせた。
 そのグロテスクなまでの長さに、ざわっ……と全身の熱が引いていく。
 ペニスからも血が逃げ出そうとした……が、友里江の手はすばやかった。
 あっという間に、睾丸とペニスの根元を両手で握り締められ、血液は逃げ場を失った。

「ううっ……ぐっ」
 みるみる赤黒く充血していくペニス。
「知ってたあ? ……こうすると、男の子はイこうと思ってもイけなくなるんだよ」
「ああっ……ううっ……」

 和男の言葉が頭の中に響く。
“……知ってるか? キンタマの根元を強く締めつけられてると、イきたくてもイけねえんだ! それがどんな地獄かわかるか? ”
 そうなのか、こんな感じなのか。

「さあて、と……仕上げちゃおっか」
 そう言うと、友里江は牡蠣でも吸い込むように恵介の亀頭を飲み込み、そのまま奥まで幹を口に含んだ。
「うっ……!」

 先端が、行き止まりに当たる……友里江の喉の奥だろう。
 次の瞬間……友里江の舌が、亀頭の段差の部分に巻きついてきた。
(う、うそっ?)
 慌てて友里江を見下ろす。友里江の目が笑っていた。そのまま、友里江は動かない。

 風が生垣を揺らす音、読経の声、鐘を鳴らす音、はるか上空を飛行機が横切る音……恵介は、どうすることもできず、反応を伺うような友里江の視線から逃れられずに、硬直していた。
 性器はもちろん、全身が固まっている。
 やがて、友里江はそっと目を閉じると……巻きつけた舌でペニスを締めつけ、口の中でしごき始めた。
「あああああっ! だ、だめ、だめだって!……ヤメ、ヤメロっての……うわっ……あっ、ああああっ!」
 ふん、と嘲笑うように友里江が鼻を鳴らすと、ペニスを締め付ける舌の力がさらに強くなった。
(だ、だめだ……だめだ……ほんとにこのま、イっちゃう……ご、ごめん和男……許してくれ……)
 そこで、第三者の声が耳に届く。

「……お、お兄ちゃん?」
「あ、ああっ……ふ、ふんんっ……え、ええ?」

 恵介は慌てて声の方向を見た。

 壁の角に、小学校の制服姿で手に数珠をぶら下げた千帆が、目を見開いて立っていた。


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