P.T.A 作:西田三郎

「第8話」

■GIRL & BOY

 外ではまだ雨が激しく降っている。
 家の中は、功と理恵のふたりきりだった。
  ふたりは理恵の部屋のシングルベットに仰向けになり、窓を打つ雨が天井に映す、不思議な水の影をぼんやりと眺めていた。
 功はふと理恵の横顔を見た。
 理恵の切れ長な目の端から、涙が一滴こぼれ落ちた。
 「泣いてるの?」功は聞いた。
 「笑ってるように見える?」理恵が抑揚のない声で答える。理恵らしい答え方だった。
 「なんで…やっぱり、枝松のことが好きだったの?」
 「…さあ…どうだろ。多分違うと思う
 「…」
 功はそれ以上聞くことを止めた。理恵もそれ以上は決して答えないだろう。
 
 功はその代わりに、昔のことを思い出していた。6歳か、そこらのころ、二つ年上の姉と、どこかの広い公園で鬼ごっこをして遊んだこと。確かあれは、家族みんなでドライブに行った時だった。その公園がどこなのかは思い出せない。車の中では、運転席に父、助手席に母。そして後部座席に功と理恵。二人して、大声でアニメの主題歌を歌った。
 誰にでもある、そんな思い出。
 昔はふつうの家族だった。いつからうちは、そうじゃなくなってしまったのだろう?
 
 姉との関係がはじまったときのことを、功は思いだした。
 あれは一年前。功が小学六年生で、理恵が中学2年生のときだ。
 その日も雨だったことはよく覚えている。
 功は独りで、留守番をしていた。仮病を使って、学校を休んでいたのだ。
 学校でいじめに遭っていたわけでも、勉強が嫌いだったわけでもない。当時、功は時折仮病を使って学校を休んだ。肉体に、明らかな変化が現れてきたことが理由だった。
 
 ある朝、目が覚めると、パンツが粘ついた液体で汚れていた。
 功はそれが何であるかの知識は持っていたので、とても恥ずかしくなった。こっそりパンツを自分で洗って、気づかれないように洗濯物の中に紛れ込ませた。
 それから、意味もなく下半身が熱くなり、はげしく勃起するようになった。勃起の勢いはすさまじく、時には痛みをともなうくらいだった。その収め方を功が知るには、そう時間は掛からなかった。
 それから功は学校を休んでは、一日中、自らを慰めるようになった。
 まるで狂ったように掻き狂いながら、自分の頭はおかしくなったんじゃないか、と思うこともあった。
 その日も、そんな1日を功は送っていた。
 部屋で一人で居ると汗をかいてしまったので、功は冷たいシャワーを浴びた。
 朝から3回も抜いていたというのに、功の若い肉体はそれでもなおかつ新たな快感を求めて再び高まりつつあった。シャワーを浴びながら、固く、赤く、熱くなった自分の性器を見た。全くどうしたものだろう。少しずつ、発毛が始まっていた。功はボディソープを手につけると、硬直したその肉棒を掴み、立ったまま激しく擦り始めた。あっという間に全ての感覚がそこに集中し、ほかには何も感じられなくなった。
 功は快感に前屈みになりながら、性器をしごき続けた。
 冷たいシャワーがますます功の快楽と、背徳的な気分を高めていった。

 と、その時である。
 いつの間にか帰宅していた理恵が、バスルームのドアを開けたのは。
 功は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
 目の前が貧血になったときのように白くなり、その一瞬の空白ののち、バスルームのドアから覗き込む、制服姿の姉が見えた。
 「…」功は何も言えなかった。
 自分は背にシャワーを浴び、ちょうど姉の正面を向く格好で、はち切れんばかりの肉棒を握りしめている。
 それでどんな言い訳ができるだろうか?
 「…何やってんの?」理恵が聞いた。
 「あの…」功の手の中で、絶頂寸前に追いつめられていた肉棒が、みるみる力を失っていくのが判った。
 「ふうん…」姉が笑いながら、バスルームに入ってくる。思わず功は後じさり、バスルームの冷たいタイルの壁に自分の背を押しつけた。「あんた、もうそんなことやってんだ
 「…」功が、がっくりとうなだれる。
 姉はそんな功の躰を嘗め回すように眺めた。功は慌てて股間を手で隠した。
 「隠さないの!」姉が大きな声を出した。「ほら、手をどけなさい」
 「だって…」功はほとんど涙声になっている自分に気づいた。姉の顔に救いを求めたが、そこには冷酷な微笑以外何も見つからない。
 「お母さんに言うわよ」理恵がさらに近づいてくる。「言われてもいいの?
 「…」功はおずおずと股間を隠していた両手を左右に開いた。
 理恵がしゃがみ込み、息が掛かりそうなくらいの距離まで、功の陰茎に顔を近づけた。
 萎れたとはいえ、功の陰茎はまだ快楽の余波を帯び、赤く変色したまま、ビクン・ビクンと息づいている。
 「ふうん…」理恵が顔を上げて功の顔を覗き込んだ「もう、毛が生えてんじゃん
 「…」
 「いつから?」理恵が聞く。「いつからこんな事やってんの?」
 「…」功は答えずに、姉から目をそらした。
 「…いつからこんな事やってんのって聞いてんだよ、この変態
 「…一月ほど…前から…」
 「…毎日してんの?」理恵が好奇心に目を輝かせて聞く。
 「…うん」
 「…毎日何回くらいしてんの?」
 「…」
 「答えなさいよ」
 「姉ちゃん、もう許してくれよ…あっ!」姉の手が、性器に触れた。「止めろよ!
 「うるさい!お母さんに言われたいの?ほら、手を後ろに回して!」
 「…」功は大人しく姉に従った
 「もっと脚開いて、ほら!」
 功は目を固く閉じて、ゆっくり脚を開いた。
 「んんっ!」姉の冷たい手が、功の陰茎をしっかりと掴んだ。思わず身をよじろうとしたが、もう片方の手で、すっかり上がっていた陰嚢を掴まれる。
 「あっ…やっ…やめ…んっ」
 理恵の手が、激しく功の陰茎を扱いた。もう片方の手が、ゆっくりと陰嚢をこねる。
 「気持ちいい?」理恵が意地悪な声で聞く。
 それに答える余裕は、功にはなかった。
 「んっ…くっ…んんっっ…」
 「わー…すごい…先からどろどろどろどろ液が出てくるよ…気持ちいい?…気持ちいいんでしょ、アンタ」
 「…や…くっ…もう…も…う」功は背中で、バスルームの壁を這い上がり始めた。「…もう…だ…め…お願い…」
 「イきそう?」理恵は量の手の動きを緩め、功を焦らし始めた。「ほら、イきそう?」
 「ん…あっ!」
 理恵がいきなり、功の陰茎を口に含んだのだ。舌先が鈴口を責め、柔らかい唇が陰茎の表面を扱き上げる。
 「だ…ダメっ…ダ…メ…だよ」功の腰が左右にうねる。理恵に両方の手首を壁に押しつけられた。
 口の中で翻弄される功の陰茎。もう限界だった。
 「だ…ダメ…出…で…でる」功は思いきり腰を前に突き出した「んんっ!
 理恵の、実の姉の口の中に激しく射精する。射精の快楽を覚えたばかりの功だったが、その快楽は普段自分で自分を慰めるときの何十倍も強いものだった。
 バスルームの壁にもたれたまま、姉を見下ろした。
 理恵は口の端をゆがめて、寒気がするほど冷たい笑みを浮かべていた。
 「気持ちよかった?
 「…」功は答えずに、顔を逸らせた。
 「また、やったげるから、ね」
 そういうと姉は立ち上がり、バスルームを後にした。
 功はバスルームの床にへなへなとへたり込みながら、姉の後ろ姿を見ていた。
 
 ベッドに仰向けになったまま、まだ功と理恵は天井を見上げていた。
 功は理恵の横顔を横目で見て、姉がもう泣いてはいないことを確かめると、言うべき事を言うため、口を開いた。
 「姉ちゃん、もう…」自分の声は思ったより掠れた声だった。「もう、やめろよ、枝松とあんなことすんの…」
 理恵が横目で功の顔を見る。いつもの冷たい目だった。
 「あんたとは姉弟同士。枝松とは他人同士。どっちが健全だと思う?」
 「…でも…」
 「…出てってよ」
 「…姉ちゃん、聞いてよ…」
 「出てけ!
 突然功は、ベッドから転げ落ちた。起きあがると、顔に枕が飛んできた。教科書にはじまり、ぬいぐるみや、筆箱など、さまざまなものが功めがけて投げつけられた。
 「出てけ!」理恵はまた泣いていた。涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
 様々なものを投げつけられながら、功は後じさった。
 と、その時、理恵の投げたクッションが功を大きく外れて、壁に掛けてあった水彩画の額に当たった。額が落ち、ガラスが割れる。
 と、功に降りかかっていた様々なモノの嵐が、突然に止んだ。
 「姉ちゃん?」功は理恵を見た。
 次に投げつけようとしていたらしい、陶器製の郵便ポスト型貯金箱を振り上げた形で、理恵は外れた額の方を見つめ、凍りついている。
 つられて功も、姉の視線の先を見た。
 額があった壁の部分は、ほかの部分とは違って陽に焼けて居らず、本来の壁紙の白さをくっきりと残していた。その中央に、まるで木についた甲虫のような、黒光りする物体が見えた。
 功が近づいて、その物体を恐る恐るつつく。
 それがワイヤレス式の隠しマイクであることに気づくのには、そう時間は掛からなかった。

<つづく>


 

NEXTBACK

TOP