P.T.A. 作:西田三郎 「第2話」
■DAUGHTER
枝松のような教師は、日本国中の学校に必ずひとりは居る。
卒業と同時にその存在すら忘れてしまうような没個性な教師。それが枝松だった。
40を過ぎて独身。広くなった額に分厚い眼鏡。眼鏡の奥の目はどんよりと濁っている。一年中着倒している紺のブレザーとベージュのスラックスは、常にチョークの粉にまみれていた。授業は脱線も冗談もなく単調で退屈。男性的魅力はおろか、人間的魅力に欠ける男だった。生徒達に決して好かれているわけではなかったが、生徒達を厳しく叱ったり声を荒げるようなことはしないので、嫌われているわけでもない。少しエラの張ったその顔立ちから、影で“エラマツ”とあだ名されている。どんな教師にも必ずひとつはあだ名があるものだ。そのあだ名は枝松に対する生徒達の愛着を表現するものでも嫌悪を表現するものでもなかった。ただのあだ名である。
また、理恵のような生徒も日本国中の学校の全てのクラスに、必ず1人は居る。
同年代の生徒達に馴染めない外れ者、それが理恵だった。
理恵は慎重160センチ。スレンダーな体型をしており、髪を短く切っている。いかにもスポーツができそうだが、スポーツには全く関心を示さなかった。理恵が感心を示さないのは何もスポーツに対してだけではない。勉強にも、友達同士のつき合いにも、同年代の男子生徒にも、まったく興味を示さず、誰にも心を開かない。同じ中学の1年に理恵の弟が在学しているが、その弟にすらまるで他人のように接した。
理恵は枝松が担任する3年C組の生徒の1人でしかなかった。しかしそれは3ヶ月ほど前までの話。
その放課後、理恵は枝松に、剥き出しになった尻を舐められていた。
取り壊しを待つばかりの旧体育館の倉庫は、暗く、埃っぽく、強烈なカビの匂いがする。人目を忍んだ逢い引きにはピッタリの場所だった。
暗い倉庫の中の明かり取り窓から差し込んだ光が、突き出された理恵の白い小さな尻を照らしている。理恵は壁に手を付いて、上半身を倒し、尻を枝松に向けて突き出していた。上半身には学校の制服である白いブラウスをつけているが、下半身には靴下と靴以外何もつけていない。スカートとパンティは理恵の尻の前に跪く枝松の脇に、きちんとたたんで置かれていた。
さっきから枝松は理恵の尻、しかも左の尻の肉の1カ所ばかりを延々と舐め続けている。
「センセー、ちょっと、しつこいよ…」理恵は枝松のほうに振り向いて言った。
ちょくちょく枝松とこの倉庫にシケ込むようになってから、もう3ヶ月になる。
一体何がきっかけだったのかはよく思い出せない。
「気持ちいいだろ?」枝松が言った。顔は理恵の尻に隠れて見えない。
「別に良くないよ、そんなとこ」
そうはいいながら、枝松に触られる度に、躰のどこかを舐められる度に、理恵は毎度のように言いようのない痺れるような感覚を覚えていた。全身に鳥肌が立ち、嫌悪感が背骨を駆け上がる。
はじめの頃は不快なはずのその感覚に、なぜ自分が魅入られているのかはわからなかった。
枝松は理恵にとって、生理的に受け入れがたい男だった。学校の担任だということ以外に、何ら接点を持ちたくないタイプの薄汚れた中年男。それが枝松である。
しかし、そんな男に、こんな薄汚い場所に連れ込まれ、イヤらしいことをされているという状況認識こそが、自分を亢ぶらせているのであり、それ以外に自分には夢中になれるものがないことを、理恵は理解していた。
あたしは、この汚い中年に尻を舐められ、辱められている。
その事実を言葉にして頭の中で反芻すら度に、理恵の躰の芯が熱くなった。
「ほんとに良くない?」と、枝松の指が尻の間に潜り込む。
「あっ」理恵の顎が跳ね上がった。枝松の指先が煮えたぎるように熱くなっている入り口に触れた。
「なんだ、濡れてるよ」枝松が言う。
「だって…」理恵は恨めしそうな目で枝松を見た。
「ほら」枝松の指がさらに奥に進み、肉の合わせ目にある突起を捉えた。
「んんっ…」理恵は壁に頬をつけ、自分の指を噛んで声を押し殺した。そして差し入れられた枝松の手を内股で締め付ける。「そこ…」
「…ここ?」枝松の声がする。くぐもったような、死んだような枝松の声。それが理恵をますます痺れさせ、現実から引き離す。「ここが、いいの?」
「…うん」枝松の指が動くより先に、理恵の尻が動いた。
と、枝松の左手ががっちりと理恵の腰を押さえ込む。そして逃げ場を失った突起を的確に捉えた指が、ゆっくり円を描くように動き始めた。
「ああっ…あっ…んっ…あああっ…」
思わず大きな声を出しそうになって、理恵はさらに強く指を噛んだ。
「ほら…イイだろ?」枝松がいやらしく言葉で理恵を嬲る。「自分でするのとどっちがいい?」
「んっ…あっ…ば…か…んんんんっっ!」理恵の背中が波打った。
「ほら、いいよ…イッて…」枝松に言わずともも、理恵はもう限界に追いつめられていた。
「くううううっっっ!」
理恵の細い背中が大きく弓なりに反り返り、内股が喰い千切らんばかりに枝松の手を締め付ける。蜜が溢れ返って理恵の内股と枝松の手を濡らした。
「…あ…はあ…」
理恵はまるでウサギ飛びをするような姿勢でその場にしゃがみ込んだ。
後ろで枝松がズボンのジッパーを下ろす音がする。
「…ん…」理恵が振り返ると、枝松の肉棒が理恵の目の前に突き出されていた。
何も言われなくても、理恵は枝松の前に跪き、その熱くなっている肉棒に手を伸ばした。
「…なんか…今日、すっごいよ…」理恵は正直な感想を述べた。「いつもより…すごいよ」
「そうかな…」枝松が理恵を見下ろして言う。
理恵は目を閉じると、その後すぐ後に濡れた小さな唇を開いた。
「…んぐ…」理恵がゆっくりと枝松の肉棒に舌を這わせる。
あたしはこの汚い中年男に口を犯されている。
また理恵はそれを言葉にして頭の中で反芻した。さっき絶頂を迎えたばかりの下半身が、さらに熱を帯びる。
理恵は夢中で枝松の肉棒を舐めた。舌を使い、頭を動かした。
一体何でこんなことをしているんだろう。時折、冷静になる頭がそんなことを考える。
しかしこんな田舎に暮らす女子中学生の生活に、一体どんな楽しいことがある?
あたしは、ほかのみんなとは違う。それを理恵は常に実感していた。
しかし、具体的にはどう違うのか?
多分、ほかの同じ年代の女の子は、全く受け入れがたいタイプのこんな中年男の陰茎を夢中になって舐めたりしない。タダで悦んで、そんなことをしたりしない。それだけは明白な事実である。この全身を痺れさせている背徳的な感覚こそが、自分とほかのくだらない人間を隔てている証であると、理恵は感じていた。自分が悦んで汚辱を受け入れれば受け入れるほど、自分が他の人間とは違うという実感を得ることが出来る。
こんな感覚は誰にも理解できないだろうな、と理恵はいつものように思った。
「うっ」枝松がしっかりと理恵の頭を押さえつける「出る…」
理恵の口の中に、枝松が激しく射精した。
口の中一杯に広がる、苦い味。理恵はそれを咳き込みも噎せもせず、ゆっくりと味わって飲んだ。
やっぱり自分はおかしいのだろうか?
「全部、飲んだの?」枝松がズボンを上げながら言う。息が上がっていた。
「うん…」理恵は口を拭いながら、畳んであったパンティを足首に通した。
「良かったよ…」枝松が言う。
「あのさあ、先生」もう何十回もした質問を、理恵はあらためてしてみた「…なんで、あたしに挿れないの?」
枝松はその質問の度に、いつも鼻で嗤った。
「なんでって…」何十回も聞いた答えが返ってくる。「おれは先生だぜ」
枝松に見守られながら、理恵はスカートを履き、ファスナーを上げた。散々舐められた左の尻がひりひりした。その尻には小さな双子の黒子がある。母の奈緒美にも同じ黒子があることを、理恵は知らない。二人に同じ黒子があることを知っているのは、この広い世界で枝松だけである。
<つづく>
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