P.T.A. 作:西田三郎 「第11話」 ■HASBAND & WIFE
弘は台所の床に仰向けに横たわる全裸の奈緒美を見回していた。
台所の床には服が散乱していて、大暴れして倒れたテーブルの上の牛乳パック白い水たまりを作っている。
不思議なことに、今日外は晴れているらしい。耳を澄ますと、学校へ向かう子供達の笑い声が聞こえた。部屋の中では、奈緒美と、弘の息づかいの音、そして時計の秒針が時をゆっくりと刻む音しか聞こえない。
奈緒美は熱っぽい目で、弘を見上げていた。その目には、畏れがあった。驚きがあった。
そして、久方ぶりに弘に向けられた、肉の悦びへの期待があった。
しかし弘の心は相変わらず、静まり返ったままだった。
「…」
信じられないほど弘の肉棒は固くなり、ズボンの布を持ち上げている。
「…なによ…」奈緒美が言った。少し声が震えている。怯えているからか、興奮しているからか。
「…」弘は何も言わなかった。
代わりに奈緒美を強引に立たせると、ネクタイを外して、奈緒美の両手首を縛る。
「いやっ…!」そう言いながら、あまり抵抗しない奈緒美を引っ張り、リビングまで連れてゆく。
テレビの前に、3人掛けのソファがあった。これは功が生まれる前、奈緒美と理恵と弘の3人で並んでテレビが見られるよう、購入したものだった。
そのソファに奈緒美を投げ出す。
あまり強く押したつもりはなかったが、奈緒美はそのまま俯せに上半身をソファのクッションに埋め、白い尻を弘に向けて倒れた。
結婚したときより少し全体的に脂肪を乗せた、芳醇な尻だった。倒れた瞬間、奈緒美の尻がぷるん、とプリンのように揺れた。
「…何するのよ…」奈緒美が俯せのまま横顔を覗かせ、弘をにらみ付ける。
「…夫婦生活だよ」弘は平静な声で言った。
「……え?」
「……夫婦生活だよ、久しぶりに」
弘はそのまま妻の背中に覆い被さる。
「あっ!!」奈緒美の尻がくいっと持ち上がり、弘の腹を打った。
弘はそのまま、奈緒美の首筋に吸い付くと、音を立てて吸い始めた。奈緒美の躰がうねる。
「…んっ……あっ……」奈緒美の横顔が、みるみる紅潮していくのが見えた。
弘は、奈緒美が首筋を吸われることに弱いことを知っている。いくらご無沙汰だったとはいえ、やはり夫婦だから。しかし多分、枝松もそれは知ってるんだろうな、と弘は思った。そのまま手のひらを奈緒美の肌に当て、背中から脇腹、そして尻肉へとゆっくりと移動させながら、その感触を味わった。
むかし、二人がセックスに夢中だった頃に味わったときと変わらぬ、きめ細かい奈緒美の肌の感触。これも、枝松は存分に味わっているのだろう。そう思うと、弘の肉棒はさらに固くなった。
「……うっ!!」尻から脚の間に、弘の手が侵入する。
「…なんだ、濡れてるじゃないか」弘は言いながら、本当にそれが意外だと思っていた。
「…あっ!」弘の指が、するりと奈緒美の体内に侵入する。
まだ、ちゃんと覚えているだろうか?
ぬかるみの中で奈緒美のクリトリスの位置を探すうち、弘はそんな思いにとらわれた。
こうやって妻を愛撫するのは何年ぶりだろう?
しかし心配するまでもなく、弘の指先は妻の快楽中枢を的確に捉える。
「…くうっ!!」奈緒美の白い背中が弓なりに反り返る。
こうした反応も、昔とかわらない。弘はさらに激しく指を動かし、奈緒美の躰を波打たせた。
そして背中に舌をつける。舌先が肌の熱と、うすい汗の塩味を感じ取った。
指を動かしながら、奈緒美のうきあがった脊椎に沿って舌を這わせ、腰を経て、尻に至る。
「…あっ……あっ……あっ…ああっ…」
奈緒美がビクンビクンと躰を震わせながら、腰を振り立てる。奈緒美の顔を見ると、汗で額に張り付いた前髪が、左目を隠している。こちらから見える右目はしっかり閉じられ、うるんだ唇が半開きになっていた。それでも、弘の心は静まり返っている。
尻を舐めた。昨日、枝松がしていたように。舌先を使って、舐める。
奈緒美の尻が揺れる。
弘はこのとき、奈緒美の尻の肉に小さな黒子があることを、はじめて知った。
…はあ、なるほど。これを枝松は舐めていたんだな。ということは、理恵にも同じところに黒子があるのか。
「…あ…はあ…ああ…うんっ…」
奈緒美の肉壺からあふれ出した快楽の液は、今やその内股を垂れ、いくつもの筋を作っていた。弘の手首のあたりまで、奈緒美の熱い液は流れ出している。
穴の内壁を細いひとさし指でかき回しながら、中指をのばしてクリトリスをこね続けた。
奈緒美はクッションに顔を埋めて、くぐもった鳴き声を上げている。
たっぷりと湿らせた指でさらに蜜をすくい取り、弘は奈緒美の肛門に触れた。
「いやっ……!」奈緒美が目を見開いて、弘を省みる。
「ここが好きなんだろう?」弘は落ち着き払った声で言った。
奈緒美の肛門を見る。昨日、枝松にはじめて犯された、第二の快楽への通路。
弘が濡れた指でその入り口をつつくと、まるでそれ自体が別個に意思を持った生物みたいに、可愛らしく収縮した。弘はその入り口をやさしく捏ねた。
「いやっ……やあ……そんな…んっ!!」
弘の指がすんなりと奈緒美の直腸に侵入した。昨日はじめて枝松に犯されたそれは、ものの侵入を許すことのできる穴であることを自覚しているようだった。弘はそのまま、指をゆっくりと動かし、内側をマッサージした。
「…んあっ……や……やめ……て」すっかり顔をソファに埋めた奈緒美が、肩を小刻みに振るわせている。「……おね……おね…がい……」
「…枝松にもそう言ってたっけ…?」
「……いや……ゆ……ゆる…して」」
「…許すも許さないもないよ。別に僕は怒っていないから」
ゆっくりと奈緒美の肛門から指を引き抜く…指がなんと呼ぶのかも知らない液で濡れていた。
ソファに上半身を埋めたままで息づいている奈緒美を見下ろしながら、弘は奈緒美から身体を離し、ズボンを降ろした。
奈緒美を眺めながら、弘は枝松になろうとした。
同じ欲情を持って、奈緒美を見下ろしている枝松に。今はただ挿入を待ちわび、全ての筋肉を弛緩させて横たわっている奈緒美を見ながら、劣情を感じている枝松に。
トランクスを降ろすと、予想通り肉棒はこれまでの人生の中で一番ともいえるほど、固く反り返っていた。
「いくよ、奥さん」弘が冷たい声で言う。
奈緒美の尻が弘の手によって引き寄せられ、高く持ち上げられる。
「……ん」奈緒美はしっかりと目を閉じ、次の感覚を待った。
弘の亀頭の先端が、奈緒美の肛門に触れた。
「……くぅ……」奈緒美の躰が、またぶるっと震える。
弘はゆっくりと、手を添えながら慎重に亀頭を奈緒美の肛門に沈ませていった。
「…はぁ……」奈緒美の尻の震えが停まる。
その瞬間に、一気に奈緒美の尻を貫いた。
「………ああああっ!!」町内中に響き渡りそうな悲鳴を奈緒美が上げた。
思っていた以上に、奈緒美の直腸の肉は弘の陰茎をきつく締め上げてきた。
少しだけ、弘の心が揺れた。心の中にある静かな地下湖の水面に、小さな波紋が生まれ、それが広がってゆく。
「………お……おね……お願い……動か…さない…で…」
昨日枝松に言ったのと同じ口調と息づかいで、奈緒美が言う。
弘は動かさなかった。動けなかった。これほどまでに強い感覚を感じたのは、生まれて初めてかも知れない。
さて、昨日、枝松はこれからどうしてたっけ…?
そうだ、奈緒美の前に手を回したんだ。
「…なあ、昨日、枝松はこれから君にどうしたんだっけ?」弘が言う。少しだけ、声に熱がある。
「…ああ…ん…」奈緒美には、答える余裕もないようだった。
仕方ないので、弘は昨日見たとおり、奈緒美の前に手を回した。その時枝松が何を考えていたのか、弘に知るよしもない。予想通り愛液でぐっしょり濡れた翳りの合わせ目に、固くなったクリトリスがあった。指でそれをしっかりと捉え、振動を加える。
「…いやあっ!!」奈緒美が腰をくねらせた。
さらにきつく、弘の陰茎が締め付けられる。弘はあえなく、そのまま奈緒美の肛門内に射精した。
ぐったりとソファに倒れ込んでいる奈緒美の背中に顔を埋め、しばし弘は奈緒美の鼓動と呼吸を感じていた。
自分と妻の息と鼓動がシンクロするのを感じるなんて、新婚のとき以来かも知れない。
ずっとこうしていたいな、と弘は思った。しかし、そういう訳にはいかない。
今日は他にも、することがある。
ソファに倒れたままの奈緒美を残して、弘はパンツを上げてズボンのベルトを締めた。
奈緒美は息づいているだけで、何も言わない。
「…大人しくしてるんだぞ。夕食には帰るから」
弘は奈緒美にそう言い残すと、そのまま奈緒美を残して、家を出ていった。
奈緒美の頭は、すっかりカラッポになっていた。
家のガレージの方からエンジン音が聞こえて、車が出ていくのが判った。
今日は珍しくいい天気のようだ、と奈緒美は思った。
窓から明るい光が差し込んでくる。
奈緒美の両手首はネクタイで縛られたままだった。自分でほどこうと思えば、すぐにでもほどけたかも知れない。しかし、奈緒美はしばらくそのままでいることにした。
多分隣の家からだろうが、風鈴の音がかすかに、ちりん、と聞こえた。
<つづく>NEXT/BACK TOP