扇蓮子さんのクリスマス

作:西田三郎
「第6話」

■ゆみこ?みゆき?

 それからあたし、どれくらい寝てたんやろうね?
 かなり疲れが溜まってたせいか、それともこんなに飲んだん久しぶりやったせいか、ほんまにどこで寝てしもたんかわからんくらいやった。
 「んん……」
 目を覚ますと、おじいさんがあたしの頭を撫でていた。
 ああ、そうか、あたしは今日「ゆみこ」で、おじいさんの孫やったんやな……となんとなく思い出してたら、おじいさんの手がするするとあたしの頭の形を確認するみたいに滑っていった。
 あれ、おかしいな、とここで思てん。でも、そのままにしといた。
 おじいさんはあたしの目の上を触ると鼻を探り、唇に指を当ててきた。
 えっ……?と思ったときには、おじいさんの指が口の中に入ってきた。

 「んぐ……」目を覚まそうかと思ったけど、おじいさんはあたしの口の中で指を動かしてくる。おじいさんの指は何の味もせえへんかった。そのままおじいさんは、あたしの舌と指を絡めるように動かし始めた。
 と、今度はおじいさんの左手があたしの上半身に触れてきた。

 ええ?

 これはちょっと、マズいんとちゃうやろか。
 でも何故か、あたしは寝たふりを続けていた。
 おじいさんはセーターの上から、あたしのわき腹をすーーーーっと撫でると、左胸を探り当てる。ほとんど触れるか触れへんかくらいのさわり方で、ゆっくりとあたしの胸を揉んできた。
 ああ、これは……やっぱりマズいわ。おじいさん、あかんて。孫にこんなこと。
 でも、そこでおじいさんが耳元でこんなふうに呟いた。

 「みゆき……

 え?……みゆき?……あたしは「ゆみこ」やったんと違うん?

 おじいさんはさらにはっきりとあたしの左胸を揉み続ける。
 ううーん……これはいくらなんでも大声を出すべきなんやろか。
 でもなあ……なんか、ここで大声出したら、おじいさんはどう思うやろう?フツーやったら、大声出すわな。でもなんでかわからんかったけど、あたしは大声を出さへんかった。いま考えても、それはようわからんわ。なんでやろう?……クリスマスやったからかなあ?……それとも、さっきまでおじいさんを騙して「ゆみこ」ごっこを続けてたことの罪悪感からやろうか。

 「みゆき……みゆき……

 おじいさんがコタツの後ろに入ってくる気配がした。
 ところで、「みゆき」って誰よ?
 「ゆみこ」は孫やろ?……フツー、孫にはこういうことせえへんわな。っちゅーことは、「みゆき」は昔おじいさんとこんな仲やった他の女の人なんやろうか。

 おじいさんはあたしを背後から抱きすくめるみたいに平行に寝そべって、セーターの裾からそろそろと手を入れてきた。ええー……?っと思ったけど、やっぱりあたしはそのままにしといた。
 まあ酒のせい?……そんなとこやと思といて。
 セーターに侵入した手は、あたしの背中をつーーっと這い上がって、ブラジャーのホックに手を掛けて、そのまま器用に外してしもた。……あのな、西田君、今度機会があったら、目つぶって女の人のブラジャーのホック外してみ。かなり難しいと思うから。

 「んっ……」

 やっぱり、直におっぱいにおじいさんの手が触ったときはさすがに声出してしもた。
 おじいさん、一瞬、びくっと手、引っ込めたんやけどな。
 あたしが寝た振り続けてると、またセーターの中に手入れてきた。

 それから……あ、やっぱり聞きたい?うん、聞きたそうな顔してるわ西田君。

 もう一方の手がコタツの中でスカートめくりあげてきた
 でも、あたしは寝た振りしてた。なんかわからんけど、そのままおじいさんに好きにさせとくんが、あたしにとってもおじいさんにとってもええんちゃうか、と思てしもたわけよ。なんとなく。

 おじいさんは、手探りであたしのストッキングをくるくる下の方に巻き下げていった。
 もう一方の手で、あたしのおっぱいゆっくり揉みながらね。
 
 そりゃもう、ドキドキしたよ。
 したけど、それでもやっぱり抵抗する気は起きへんかった……ほんま、なんでやろうね?

 それだけやったらまだええけど、あたしは寝返り打つ振りして仰向けになった。
 おじいさん、びっくりしたみたいで、ぴょん、と飛びのいてしもた。
 
 「みゆき………みゆき……」おじいさんがなんか悲しそうに呟くのが聞こえた。

 あたしは薄目を開けておじいさんを見た……まあ、おじいさんには当然見えへんかったやろけどね。おじいさん、なんか泣いてるみたいやった。いや、知らんよ。おじいさんと「みゆき」さんの間に何があったんか。でも、なんか悲しい過去があるんやろうね。おじいさんはボケてて、孫娘の「ゆみこ」と昔ええ仲やった「みゆき」と、「蓮子」であるあたしの区別もついてない。で、あたしはほーんまに何の意味もなくこうやっておじいさんと一緒にクリスマスを過ごしてる。
 
 あたし、めちゃくちゃ寂しくなってもてな。
 クリスマス直前にあたしに電話してきたもと彼のこととかも思い出した。
 何なんやろうね、クリスマスって。
 誰も彼も、一人で居るのが耐えられへんようになる日なんやろか。おかしいと思わへん?……何でって、世の中、ほとんどの人が一人ぼっちなわけやん?……普段はみんな、一人ぼっちで生きてることに慣れてしもて、そんなことはほとんど気にすることなんてない。毎日毎日、忙しく生きて、逆に人と一緒に居ることのほうがうっとおしくなることの方が多いのになあ。
 でもクリスマスは違う。一人ぼっちの人間は、自分が一人ぼっちであることをいつもよりまざまざと思い知らされる日……それがクリスマスなんと違うかなあ……よう判らんけど。

 「おじいさん……」あたしは言うた。「あたしのこと、覚えてた?……みゆきやで」
 「え……?」
 「あたし、みゆき」あたしはおじいさんの首に手を回して耳元で囁いた「……今日は好きなことさせたげる。クリスマスやし
 

<つづく>



 
 

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