大人はよくしてくれない

作:西田三郎



■第六章 兄弟の前ではやめて

  イソヤマが手を緩めたので、ちあきの身体がまるで布のようにするり、と床の上に滑り落ちた。
  「あかん……」床の上に貼ったまま、ちあきも起き上がれずにもがいている。「……あかん……なんか……力が入らへん……おかしいな……うち、そんなにぎょうさん飲んだかな?」
  「……まあな、いろいろとな」さも面白そうに、イソヤマがその様子を見下ろしている。「……飲んだんとちゃうか。知ってか知らずかしらんけど……なあ?」
  いきなり、イソヤマがニヤリと、悠也に笑いかけた。
  悠也がこれまでの13年の人生で見てきたものの中で、一番醜い笑顔だった。
  「……う、うそやろ……」うつ伏せにはいつくばったまま床から這い上がれないちあきが、イソヤマを肩越しに睨む。「……お、おっちゃん……なんか……なんか混ぜたやろ……ビールに……」
  「……だいじょうぶや……体に悪いもんやないさかいに……知っとるやろ?……いつも、分けたってるあの薬やんか……キミがいつも寝る前に飲んでるアレ。アレやがな」
 
  薬?……寝る前に飲んでいる?……一体何のことだ?
  するとそんな悠也の思考をテレパシーで察知したのか、イソヤマは悠也の方を見て喋り始めた。
 
  「なあボク。なあお兄ちゃん。キミは知らなんだかも知れへんけど、妹のちあきちゃんはごっつい苦労してきたんやで。君かて、頑張って毎日、コンビニから弁当もろてきて妹と弟食べさせてるつもりやったんかもしれんけど、まだお金は稼がれへんやろ……?……キミんちにまだ、電気がついとるのは何でや?……水道が使えとるのは何でや……?……そりゃ、誰かが払ろてるからや。それを払ろてるのが、このちあきちゃんや」
  「んっ……ちょ、ちょっと……おっちゃん」

  イソヤマは言葉を中断するとちあきのショートパンツに手をかけて、下に引っ張りはじめた。
  白地にピンクの水玉模様が入ったパンツと、それに包まれた小さな尻の肉と、小さいながらもはっきりと幼児だったころのちあきには見られなかったやわらかい曲線が、一度にむき出しになる。 
 
  「な、なにすんのん……や、やめてーさ……」
  「どないしたんやちあきちゃん……いつもは言われんでも自分からちゃんと脱ぎ脱ぎするやないか……お兄ちゃんが見とるからか?……お兄ちゃんに見られてると、恥ずかしいか?」
  「あ、あたり…あたりまえ……やろ……あんっ!!!

  イソヤマがちあきの腰を持ち上げて……ちあきに怒った猫のようなポーズを取らせる……抵抗できずにされるままになっているちあきは、イソヤマと、悠也を交互に睨んだ。睨まれたとき、悠也の脳裏には、あのコンビニ裏の路地で自分を威嚇してきた、Ω型の野良猫の姿が浮かんだ。

  「いつ見てもかわいいおけつやなあ……」イソヤマがちあきの尻を両手で撫でまわし始めた。「……このおけつや。このおけつで、ちあきちゃんは君んとこの電気代水道代払っとるんや。なあボク。なあお兄ちゃん。苦労しとるんは、ボクだけと違うんやで。ちあきちゃんは、キミらんんとこのおかんがおらんようになってから、ずっと悩んで、悩んで、悩みぬいてきたんや。ボクやタク坊が、すやすや眠っとる間も、ずっと寝られへんくらいにな……そやから、おっちゃんが薬を分けてあげた。夜も、よう眠れるようになった。それで、おっちゃんのところでお風呂にも入れるようになった……ブサイクなコンビニのバイトたぶらかしてお兄ちゃんがタダでもろてくる残りもんの弁当より、少しはましな食べもんも食べられるようになった……な?そやろ?ちあきちゃん」
  「やっ!!!!」ちあきが叫ぶ。イソヤマがちあきのパンツを、ぺろっと剥いたのだ。「いやっ!!
  「や……」悠也はそこではじめて声を出した。恐ろしくしわがれた声だった。「……やめ……ろ……」

 イソヤマがむき出しになったちあきの尻をまた撫で回し始める。
  「何がいややねん……ちあきちゃん……いつもの軽いノリはどないしてん?……ほら、お兄ちゃん見とるで。お兄ちゃんに見られとるで……恥ずかしい、恥ずかしいなあ……ほんま、かわいいおけつしてるわあ……お兄ちゃんのお尻も、こんなんかな。ほら、いつもみたいにお尻振ってみ。お兄ちゃんに見せたりいな……」
  「いっ………やっ………」いそやまを睨むちあきの目に、泪がたまっていた。「おっ……お兄ちゃんの前では……や、やめっ……って………んんんんっ!!!」

   びくん、とちあきの尻が跳ね上がる。イソヤマが尻の割れ目に……悠也の位置からは見えない部分に……無遠慮に指を刺し入れたのだ。イソヤマはちあきの肢体と悠也の表情を交互に見比べながら、指をゆっくりと動かし始める……そのたびに、ちあきの尻や太腿の筋肉がぴくっ、ぴくっと緊張するのが見えた。

  「……我慢しい……ちょっとガマンや……ちょっと恥ずかしいのんガマンするだけやないか……やってることは、いつもと同じやろ?……ちあきちゃんかて、最近はいつも気持ちよさそうにしとるやないか……今日は、お兄ちゃんが見とるだけや……それだけやないか……ほら、気持ちええやろ………??」
  「……へっ……へんっ………たいっ………」ちあきが頭を振りながら、唇を噛み締めている。一滴、頬に泪がこぼれた。「……ぜ、ぜんぜん、きもちようない……っちゅーねん……あっ……うっ!!」
 
  イソヤマが無言でちあきの尻の奥に、指を深く突き入れた。

 「あ、ああっ………」“ぬぽっ”という音とともに一旦、指が引き抜かれる「……んあっ……」

  イソヤマの指は、粘性の液体で白くふやけていた。
  イソヤマがその指を、ちあきの顔の前に翳す。ちあきは、ぼんやりした目でそれを見ていた。
  「……こんなに、びしょびしょになってんのにか?」
  「あほっっ!!!変態っっ!!」言われて、弾かれたようにちあきが叫び、顔を背ける。

  と、イソヤマがのっそりと腰を起こし、食卓を回って悠也のほうに歩みよってきた。そして、悠也の前でかがむと……濡れた人差し指の指先を悠也の目に突き出し……親指との間に糸を引かせた

  「ほら、ボク。見てみ……ちあきちゃん、こんなんになっとるで……」
  「あほっっっ!!!!!!」ちあきがイソヤマの背後で叫ぶ。「何しとんねん!!!変態!!!
 
  目の前にあるイソヤマの濡れた指。
  悠也は目を見開いて、それが糸を引くのを見た。
  何も考えられなかった……考えられないが、身体は素直に反応する……太ももの付け根の間のに、血が集中していくのがわかる。思わず、太腿をぎゅっと締めてそれを堪えようとしたが、その締め付けさえ、甘美なものであるように思えた。
  一体、何なんだこの男は。一体何なんだこの状況は。なんでこんな目に遭わなきゃならない?
 
  何で?
 
  それを思うと、太腿の間に、また甘美な痺れが広まっていく。

 イソヤマがまた、のっそり、のっそりと食卓を迂回してちあきの方へ戻っていく。
  ちあきはやはり、起き上がる力も抵抗する力もないらしい……支えられてもいないのに、猫のポーズで……尻を突き出した状態で……イソヤマが戻るのをただ、待っていた。目に憎しみと、怒りと、悲しみの涙をたたえながら。 
  「さて、と…」 イソヤマが、履いていたグレーのジャージのズボンとパンツを一気に下ろした。
  赤黒く変色して突き出した、竹輪くらいの大きさの陰茎が見えた。

 「……やめて……」肩越しにそれを見上げたちあきが怯えた声を出す。「お願いやし……やめて……やくそくが……ちがうやん……今日はお兄ちゃんだけ、言うたやん……」
 
  ……約束……?……何の話だ?……お兄ちゃんだけ?……

  「……そうやったっけな……ほな、プラス2万でどや」……プラス2万?……
  「……プラス、3万……」裸の尻を突き出した姿勢のまま、ちあきが背後のイソヤマを睨み、声を絞り出す。
  「……プラス、2万5000で……どないや……」
  「ずるい……おっちゃん、ずるいわ……今日はうちにはなんもせえへん、言うたやん……お兄ちゃん連れてきて、置いていったら5万くれる……いうたやん……そしたらうちにも、タクにも何もせえへん、言うたやん……そやから、うち、約束守ったのに……」
  「うまいこと、自分のお兄ちゃんダマしといて、『おっちゃんズルい!』もないやろ……ほれ」
  「あっ!!!」
  イソヤマがちあきの尻を両手でつかみ、左右に開き……そこに顔を埋める。

 湿った音がした。ちあきの身体がさらに……弓なりに撓った。

 「あっ……くっ………あ、ああっ…………あ、あかん、あ、あ、あかん……」畳の上に敷き詰められたビニールに、爪をたてるちあき。「あっ……あうっ……んんんんっ……せ、せ……せめて……お風呂場で……して……お兄ちゃんの見てないとこでして……」
  「あかん」イソヤマがちあきの尻から口を離した……唇とちあきの尻の奥が……さっきキスを交わしたときのように……白濁した粘液で繋がっている。「……ここで、お兄ちゃんの前でやるんや。それがわしの計画や」
  「……変態!!!鬼!!!『計画』、てなんや!!!『計画』て!!」ちあきが叫んだ。
  「鬼……?」イソヤマがトレーナーの袖で口を拭いながら言った「わしは鬼とちゃう……仏様や……それでプラス3万。それでどないや?」
 
  ちあきがイソヤマを肩越しに睨み……ついに顔を背けた。
  悠也のあずかり知らないところで、何らかの話がついたようだ。

 

 


 

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