大人はよくしてくれない
作:西田三郎
■第三章 ばらの香りちあきは『風呂を借りに』イソヤマの部屋に行ってしまった。
チキンの骨の残骸で遊ぶ卓郎(ますます……原始的な何かに見える)を放っておいて、しきっ放しの布団の上でごろ寝をしていたら、いつの間にか眠っていた。
コンビニに行き、イワサキから弁当を貰ってきた日はどうしようもなく疲れる。
母がケロッとした顔で、家に帰ってくる夢を見た。
ケンタッキーのパーティーバレルを手にして。
母が夢の中で悠也を抱きしめる。思い出の中にいる母とは、違う香りがした……。
と、そこで目が覚めた。
ちあきが横でうずくまるように眠っていて、その右腕が悠也の薄い胸板に乗っかっていた。そして、シャンプーをしたばかりの髪が、肩に押し付けれている。
情けない夢を見てしまったことに、自分が恥ずかしくなった。また、『みじめ』だ……。
悠也はそっとちあきの腕を自分の胸から外すと、半身を起こしてちあきの向こうで大いびきをかいて大の字で眠っている卓郎の様子を見た。二人とも、ぐっすりと眠っている。
思わずため息がでた。
そして、 ちあきの姿を見る。
洗い髪を下ろし、Tシャツと短いショートパンツ。ちあきは素足だった。
自分でも意識しないうちに、悠也はちあきのその肢体を何分間もじっと見つめていた。
蒼白い、むきだしの細く長い太腿とふくらはぎ……めくれ上がったTシャツからは、同じように白く、へこんだように平べったい腹と、へそが見える。
こいつは一体、何者なんだ、と悠也は思った。ほんとうに(種違いとはいえ)こいつは俺の妹なのか。そっとむき出しのへそに手を伸ばしかけた……そして実際に伸びている自分の手を見て、慌ててその手にもっともらしい“目的”を与えた。シャツをひっぱり、見えているちあきの腹を隠す。
「ううん……」
ちあきが少し声を出し、寝返りを打って、悠也に背を向けた。
慌てて悠也もちあきに背を向けて、眠りの体制に入ろうとする……しかし、眠れるわけがない。布団と枕を通して自分の耳に振動が伝わるほど、心臓が高鳴っていた。何を考えてるんだ、自分は。確かに、もう何も、自分たちに頼れるものはないし……イワサキとイソヤマを除いて……自分たちは何にも守られていない。
とはいえ……だからと言って……何なんだ、この自分のへその下、脚の付け根の間で、かんかんに熱を帯びて硬くなっているこいつは。一体、何を考えてるんだ。……そりゃあ……この状況での生活だ。2Kの狭いマンションで、四六時中、妹と弟とともに暮らしている。二人の目を盗んで、オナニーにふける隙なんかほとんどない……トイレに篭って、最後にごそごそやったのはいつだろうか……?だめだ、だめだと思いながらも……、はきっぱなしのハーフパンツの中に、右手が滑り込んだ。そして、躊躇なくパンツの中に。1週間も風呂に入っていないせいか、ふわり、と動物のような匂いが舞い上がってくる。
「……あっ……」
硬くなっている陰茎を握り締めると、思わず小さな声が出た。陰茎は湿って、ねばついている。
ゆっくりと動かす……やさしく、上下に。びくん、と全身が引きつって、身体中を血が循環しはじめる。「はっ……ふっ……んっ……」
いつの間にか、パンツの中に左手も突っ込んでいた。両手で握り締めて、上下させる。じっとり、粘ついていただけの陰茎が新しく熱い液で滑りってきた。手だけでもなく、腰も動かす。……このまま、一気に昇りつめてやろうか?……いや、それはダメだ……ただでさえ洗濯もままならない状況なのに、こんなことでパンツを汚したら……でも、でも……。
「あっ……くっ……んんっ……」
「お兄ちゃん……?」
「あああっ………えっ??……」凍てつくように熱で満ちていた身体が瞬間的に凍りつく。
ちあきの声だった。悠也は背中を緊張させたまま、後ろを振り向くことができなかった。このまま、寝たふりを決めこんでやろうか……と思っていると、不意に背中に柔らからい身体がぴったりと押し付けられる……コンビニのイワサキとはまるで違う、柔らかくて儚い身体の感触。そしてシャンプーの香り。ボディソープの香り。 細長い手足が、身体にそっと巻き付いてくる。
違う……あまりにもあのイワサキとは違いすぎる。「……やらしいこと、しとったやろ」ちあきが小さな声で囁く。
「…………」確かに、していた。何も言えない。
「かわいそうに……溜まってんねんな……うちらのせいやね」
「……………」ちあきが耳元で囁くたびに、寒気に似た痺れが全身を駆け巡る。
「……うちが、したろか?」
「えっ」びくん、と握ったままの陰茎のほうが先に反応した。
「……うちが、したける。うち、上手いんやで……イソヤマのおっちゃんにも……上手い、ゆうて、ほめてもらえてんやで……」
「あ、あほ………あほか……お前……あっ……」
“イソヤマ”の名前が出て少し正気に戻ったところでちあきの方に向き直ろうとしたが、ちあきは猫のような敏捷さで悠也の上に乗っかっていた。羽根のように軽い身体だったが、それはじゅうぶんに熱く、石鹸の……たぶん、バラを模した香りがした。……そこではじめてちあきの顔が見えた……長い髪の奥で、切れ長の目と、小さな唇が笑っていた。
「……うちがお口でしたげる。……うっわーお兄ちゃん、すごいことになっとるやん」
はちきれんばかりになった悠也の陰茎は、千晶の柔らかい太腿の奥の、その熱い部分と……自分の下着、ハーフパンツ、ちあきのショートパンツ、ちあきの下着……4枚の布ごしに、ぴったりと押し付けられていた。ちあきが、いたずらっぽく腰を前後に動かしはじめる。
「あ、あほっ!!や、やめろっ!!」卓郎を起こさないように、小声で叫ぶ。
「気持ち、ええやろ……?……あ、お兄ちゃんのん、ぴくんってしとる……」
ちあきがさらに腰をゆすり、擦りつけてくる。
下から見上げている悠也とって、ちあきのその動きはぞっとするくらい淫らでいかがわしかった。
どくどくどくっ、と何かがせり下りてきたが……まだセーフだ。
射精してはいない……でも、もう後には引き返せないところまで来てしまった。
「……や、やめろ、ちあき、やめろっ……あっ……あっ……」
千晶がするりと、身体を下に滑らせて、悠也のハーフパンツに手をかける。
「あっ……や、やめ……ひっ………」ずるり、とハーフパンツとパンツが一緒に下ろされた。
「お、お兄ちゃん……」下に目をやると、髪の置くからちあきがまた笑っていた。「かわいそうに……こんなになってもうて……すぐ、楽にしたるからな……」
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