お母さんなんて呼ばなくていいのよ 

作:西田三郎

■東洋医学的愉悦


 「くっ!」
 英治の右足に、電流が流れるような衝撃が走った。
 その痛みはすぐに消え、消えると同時に体のまったく違う部分に、奇妙な変化が起こった。
 「…あ…」
 下腹に火がともる。
 下半身がしびれ、下から持ち上げられるような感覚が英治を襲った。一度戒めを逃れた肉茎に、再び血液が集中する。耳をすませばその流れの音が聞こえそうだった。見る見るうちに、肉茎が鎌首を上げて立ち上がる。その先からは、新たに排出された悦びの液が溢れ、てらてらと光っている。
 英治はなすすべもなく、己の分身がかま首を持ち上げ、自分を裏切るのを見守った。
 「ほら、こんなに元気になった…今ね、“悦陰”ってつぼに鍼を打ったの。…痛くなかった?…ここに鍼を打つと、何度でも元気になるのよ…それにね、全身の感覚が、ちょっと敏感にもなるの…」
 一重の指先が、英治の左乳首に軽く触れた。
 「あうっ!!
 激しい感覚に、英治は思わず反り返った。少し触れられただけだったが、体の左半身が一瞬麻痺してしまったようだった。その感覚が消えても、余韻は信じられないほど長く後を引く。余韻が完全に消え去るまで、英治は身もだえしながら呼吸を整えるしかなかった。
 乳首に軽く触れられただけで、これほどの衝撃を受けるのである。
 これから自分は、どうなってしまうのだろう…?
 英治は恐怖した。恐怖しながらも、肉体は心を裏切り、これから与えられるであろう快楽を待ちわび、肉茎の高まりはさらに勢いを増している
 「んっ…!」
 一重の冷たい両手が、英治の上半身を這い回る。突き刺さるような激しい感覚が、英治を襲った。鳩尾脇腹太股…一重の手が内股に達した時には、英治の陶酔はもはや臨海点に達していた。先端から新鮮な蜜を溢れさせて止まない肉茎は、もはや放出の時を今か今かと待ちわびてこれ見よがしに脈打っている。
 「…やめ…て…」
 懇願する英治を後目に、一重はさらに淫らな愛撫を止めようとはしなかった。
 英治は悶え、喘いだ。そうして躰がひとりでに反応するのとは裏腹に、唯一自由になる心では何とかその絶大なる感覚に抵抗しようと空しい抵抗を続けていた。
 射精してはいけない。この淫らな愛撫に屈服してはならない…。
 しかし容赦なく続く愛撫に、最後の牙城である精神ももはや陥落しようとしていた。
 既にもう一度、先ほどの激しい射精で屈服を示しているのである。
 それがもう一度射精したところで、何が変わるというのか?
 英治の耳元でそう悪魔が囁いた。
 「…舐めて…いい?」悪魔の囁きに被さるように、一重の声がした。
 英治の返事も聞きもせずに、一重が英治の股間に顔を埋めた。
 髪を掻き上げながら、限界まで追いつめられた英治の肉茎を、優しく一重が口で包み込む。
 「はっ…いやっ…!!」
 逃がそうとしても、腰を動かすことは出来なかった。
 肉茎が暖かい、柔らかい粘膜に包み込まれる。
 「…はあ……」
 舌が動き始めた。
 「…んあああっっ!」
 一重の舌が、巧みに英治の肉茎の包皮を押し下げた。剥きだしにされ、激しい感覚を帯びた亀頭が一重の口の中で無防備に晒されている。
 一重の舌が容赦なく英治のまだ誰にも触らせたことのない亀頭を攻撃した。
 むき出しの感覚が、英治を襲った。
 激しい痛みが全身を駆け抜けたが、体を動かすことの出来ない英治にそれから逃れる術はない。
 ゆっくりと一重の舌が亀頭を這い回り、やがて激しい痛みは、英治の全身の感覚を麻痺させるかのような快楽に変わった。
 巧みな舌使いだった。男の人間性尊厳を、凌駕せんとする舌だった。
 英治は悶え、喘いだ。少しでも気を緩めれば襲いかかって来る射精感が、英治を責めさいなんだ。
 一重は黙々と英治の肉茎を舌で愛撫している。
 父も、こんな風に淫らな愛撫を受けているのだろうか…?
 余計なことを考えた途端、さらに下半身が痺れ、意識が遠のいた。
 と、一重の舌先が英治の鈴口を捉えた。
 「…あうっ!」
 舌先が蠢動をはじめる。全ての意識と感覚が、鈴口を向かって突進した。
 「んあああああっ…!!」
 あと一歩で、英治はこの快楽の責め苦から解放されるところだった。
 しかしすべては、手の平に与えられた鋭い電流のような感覚にせき止められた。
 「……?!」
 下を見ると、絶頂寸前までに追い上げられた肉茎が見えた。その向こうに、一重の顔があった。
 「…ごめんね…また…鍼刺しちゃった…
 見ると、左手の平の真ん中に、先ほど太股に刺されたのと同じ、細い鍼が刺さっている。
 「…そこね、“悦堤”ってつぼなの」
 「…な…何を…」
 「…できるだけ…英治くんに、長いこと気持ちよくなってもらいたくって…そこを押すとね、最後まで、いけなくなるの。…鍼を抜くまでね…」
 「…そんな…」
 「…ごめんね…英治くん…あたし、こんないやらしい女なの…」
 射精寸前まで追いつめられていながら解放されることを許されない英治の肉茎は紫色に変色し、ぴくん、ぴくんと跳ね上がっている。
 一重が立ち上がり、ブラウスのボタンを外し始めた。
 

 
 

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