お母さんなんて呼ばなくていいのよ 

作:西田三郎

■東洋医学的性交

 「…ごめんね…苦しい思いをさせて…もう少し、あたしのわがままを聞いて…我慢してね…」
 一重がブラウスを脱ぎ、床に落とした。さらにベージュのスカートを脱ぎ、それも床に落とした。
 白いレースのブラジャーとパンティーだけを身につけた、一重が目の前に立っている。
 先日、脱衣所で見たときときより一層、その肌は青白く透き通って見えた。
 かすかに上気した顔は、相変わらず悲しげな表情を浮かべながらも、どことなく熱に浮かされたように見える。
 白いうなじははっきりとコントラストを落とす鎖骨のラインに繋がっていた。その下の豊かな胸は、高級な白いブラに少し押さえられる形で、たとえようもない柔らかさを見せつけている。くびれた腰の中央にある上向きの臍。腹には贅肉はないが、筋肉が浮き出ている訳ではない。薄くあいまいな脂肪が、躰全体を包んでいる。その曖昧さと柔らかさが、一重の裸身をさらになまめかしく艶やかに彩っている。特に太股の質感にはその影響が顕著に出ていた。その表面が醸し出す白さ、新雪の表面を思わせる滑らかさは、英治の視線を釘付けにして離さなかった。
 そう、英治は目を見開いて一重の裸身を凝視していた。
 目を逸らそうという理性はもはやどこかに奪い去られていた。
 一重の処置により、極限まで高められた肉茎はさらにひくついた。出口はなかった。
 「…そんなに…見ないで。恥ずかしいから
 一重が後ろを向いて、ブラジャーを外した。
 引き締まった小さな尻が、レースの布地にぴったりとくるまれている。
 胸を両手で押さえながら、一重が振り向く。恥ずかしげに笑う一重の表情は、まるで十代の少女のようだった。一重はそのまま、小動物のようなしなやかな動きで、英治の右横にねそべり、ぴったりと躰をくっつけた
 「…はっ」
 一重のかすかな体温と、肌の柔らかさが英治を直撃した。
 一重が英治の耳元に顔を近づけ、小さな声で囁いた。
 「…今日…お父さん出張で帰ってこないから…思いきり、声出していいからね…」
 「…っ!」
 と、ひとえ冷たい右手が、英治の肉茎を掴んだ。さらに一重は優しく、微妙なキスの雨を、英治の首筋や耳たぶ頬や肩に降らせた。それに平行して、一重の右手が同じく優しい手つきで英治の肉茎を上下に擦り上げる。
 「…んっ…あっ…くっ…んんっ…い…いやっ…」
 「…英治くん、可愛い…なんか、女の子みたい…」
 英治は一重から顔を背けた。せめて“女の子のように”悶えている自分の顔を、一重には見られたくなかった。
 しかし一重は容赦しなかった。
 するり、と英治の上に一重の熱くなった躰が乗っかった。
 一重の体温と、全身の豊穣な感覚が英治に襲いかかった。
 「…んんっ!…あっ!」
 しかも一重は英治の肉茎を握った手を離さない。ゆっくりと肉茎を上下に扱きながら、蛇のようなしなやかさで英治の躰の上を這い回り、乳首や鳩尾や、臍に小鳥が餌をついばむような軽いキスをする。
 一重の固くなった乳首が、英治の全身をなぜる。
 柔らかい乳房の感覚が、全身を撫ぜる。
 「…ん…ふ…あ…」一重の呼吸が乱れ、鼻息が荒くなるのを感じた。
 見ると一重の顔は紅潮し、目は潤み、つかみ所のない欲情が見て取れる。
 一重がごそごそと動き、また英治の躰の上を這い上がった。そして耳元で囁く。
 「パンツ…脱いじゃった…
 「…」
 と、一重が英治の鍼を打たれていない左手を取り、下に導いた
 手が一重の柔らかい陰毛に触れ、溢れ返った湿原に触れる。
 「…はっ…」英治は手を引くことが出来ない。手を引かねばならないという気も起きなかった。
 「…触って…こんなに…熱くなっちゃった…」
 本当に一重のそこは、火傷をせんばかりに熱くなっていた。沸騰しそうな蜜が、英治の指を濡らしてゆく。英治はその感覚に、ますます高ぶらされていった。肉茎の先端からは、それに負けず劣らず熱い情欲の蜜があふれ出している。
 「…キスして…いい?」
 「んっ」
 返事を待つ間も与えず、一重の唇が英治の唇を奪った。
 生まれて初めてのキスだった。想像していたものとは、まったく違っていた。
 キスとは単に、口と口を重ねることだと思っていた。しかし一重の下は英治のを、前歯を、そしてを求めて優しく、ゆっくりと口の中を這い回った。痺れるような感覚に、気を失いそうになった。口の中にもそのような感覚があることを、英治はこのときはじめて知った。
 長い、ねっとりしたキスの後、一重は英治の躰から離れた。
 「…ああ…」思わず追いすがるような、甘えた子猫のような声を英治は出した。
 一重が見下ろしている。
 極限まで高められ、悶え、喘ぐ自分の姿を。下腹に張り付いた肉茎からは止めどなく粘液が溢れ出し、臍のあたりを濡らしている。
 「…み…見ないで…」英治は懇願した。
 「…して…いい?
 「…え…?」
 「…英治くん…好きよ」
 一重が下腹に座り込んだ。肉茎を掴み、先端を自分の湿原に押し当てる。
 「…いやっ…だっ!」英治は叫んだ。

 ダメだ。それだけは絶対ダメだ。一重は父の妻なのである。自分にとっては義理の母だ。
 しかも…この部屋は父と母の寝室だ。
 そして母の遺影が、その様子を見ている。
 「…ごめんね…」一重が悲しそうな顔で言った。そして、そのまま、腰を沈めた
 「んんんっ!!」英治が先に声を上げた。
 「あうっ!」一重も白い顎を天井に向けて、声を上げた。白い乳房がその時、ぶるん、と揺れた。
 英治の肉茎が、熱い蜜に満たされた粘膜に包み込まれる。蜜つぼは抵抗なく英治の肉茎を根本まで受け入れたかと思うと、途端にそれをきつく締め上げた
 「……んっ…す…すごい…」一重が眉間に皺を寄せ、固く目を閉じて、震えた。口が半開きになり、思わず出そうになる声をせき止めるように、指の腹を噛んだ。震えに併せて、やわらかい乳房が波打つ。波打っているのは乳房だけではなかった。全身の肉が、快楽にかすかに震えている。
 英治は正気を失いそうになりながら、そのあまりにも官能的な様を眺めていた。
 早くも強烈な射精感が津波のように襲ってくる。
 しかし右手の平に刺された鍼による戒めが、その解放を許さない。
 「……すごい…すごいよ…英治くん…」
 「…う…うあ…ああ…」
 一重の腰が、ゆっくりと廻るように動き始めた。
 「ああっ…!…あっ…やめ…やめ……てっ」
 「…気持ち…いい?」
 「……ああああっ……くっ…」
 一重の腰の動きがだんだん早くなる。英治はもはや、全ての罪悪感から解放されつつあった。肉体に与えられるこの激しい感覚だけが、全てだった。いくらでも声が出そうだった。いくらでも悶えてしまいそうだった。ただ、射精だけが許されない。そのためには全てを捨ててしまっても惜しくはなかった。
 「あっ…あっ…あっ…ああっ…いい…すごく…すごく…いい…」一重が甘えた声を出した。
 先日、この寝室の前で立ち聞きした際の声よりも、甘く、切ない響きであるように思えた。
 一重の腰の動きが変わった。一重は英治の躰の上で大きく反り返り、腰を上下に動かし始めた。一重の豊かな胸がそれに併せて跳ねる。反り返った一重の躰の中で、英治の肉茎は捻られ、さらにはげしい上下運動で扱き上げられる。
 「…うっ…くうっ…あっ…もう…ダメ…ゆ…許して…あっ…」ついに英治は泣き声を上げていた。
 本当に涙がこぼれた。射精以外にもう望む物はなにもなかった。自分は肉欲の奴隷だった。
 涎が口の端からこぼれ、目の前にチカチカと火花が散っている。
 しかし一重はそんな英治の反応を楽しむかのように、腰の動きをさらに早めた
 「…んっ…あっ…ご…ごめん…ね」一重が英治に顔を近づけた。「…もうすぐ…もうすぐだから…あっ…んんっ…おねがい…いっしょ…に…いこう、ね…
 「…おね…がい…もう…もう」英治は啼いた。情けない声だと自分でも思った。
 「…あ…いく…い……い…いく…」一重がまた躰を起こし、反り返る。「…はあ…あっっ!!」
 と、ひとえがひときわ甲高い声を出すと同時に、すさまじい勢いで英治を包み込んでいた一重の肉が、肉茎をいっそう強く締め上げた
 「ああああああっっっ!!!」英治も声を上げていた。
 続いて、力つきた一重が英治の肉茎を抜き出すと、ぐったりと英治の隣に俯せになって倒れ込んだ。
 「……ああ…あ…」、
 相変わらず肉茎は解放されていない。一重の蜜にまみれて、ぬらぬらと輝きながら。ピクン、ピクンと跳ねていた。もはや肉茎の色は赤黒く変色している。英治の下腹は、自分の蜜と、一重が溢れさせた蜜でべっとりと濡れていた。
 解放されぬもどかしさに、涙を流しながら喘ぐ英治の耳元で、一重が囁いた。
 「…英治くん…良かったよ…
 突然、一重が英治の左手のひらに打たれていた鍼を抜いた
 「うああああっっ……!!」
 突然、解放された肉茎が、活きのいい魚のように腹の上で踊り狂った。濃厚で、熱い精液を盛大に吹き出しながら。永遠に続くような射精だった。その飛沫が、顔にまで飛んだ。完全に収まるまでに、英治は意識を失っていた。
 全てを、母の遺影が見ていた。
 

 
 

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